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第15話 審問官さま

「やぁ、はじめましてエルネスト審問官さま。素敵な宮殿へご招待頂き、感謝で心が震えて止まりませんよ。こちらこそ、楽しい話が出来ることを期待してますよ。」


エルネスト審問官の左こめかみがピクッとして、目つきが更に厳しくなった。


「ほほう、余裕しゃくしゃくってところですかな、流石は宮廷広報官ってところですかな。まぁ、私にとっては楽しい話になると思うが、キミに取っても楽しい話になることを願ってるよ。もちろん、キミの態度と気持ち次第だがね。」


まずはジャブの打ち合いって感じかな。

で、次はどうするかな・・。


「楽しい話とは言え、生憎私にはあまり時間に余裕がなくてね、いきなり単刀直入で悪いんだが、ヴァンダニアを調査している目的はなにかね?」


「おっと、エルネストさん、それはせっかちが過ぎるじゃないか。せっかちってのは人生の余白を読み飛ばしてるようなもんだぜ。オレはその余白に意味を見いだせる漢になりたいと思ってるんだがな。」


またしてもエルネスト審問官の左こめかみがピクッとした。いいぞ、苛ついてるな。


「そうか。それじゃ、私にもその余白とやらを読み飛ばさずに話してくれないか?」


「いいだろう、それでこそ面白い話しができるってもんだ。ただ、まず最初にオレは自己紹介をしないといけないんだが・・」


「アサクラさん、流石に自己紹介は余白過ぎないか。」

エルネスト審問官がオレの話を遮って、少し荒げた声で被せてきた。


「まぁ、聞いておいて損はない。というより、これを聞かないと話が前にすすまないのさ。オレも本当はこんな話はしたくなかったが、この状況ではオレも本当のことを話すしか選択肢が無いからな。」


「本当のこと? なんだそれは。」


「あぁ、くどいようだが、これは言いたくなかったんだがな。こうなっちまっては仕方がない。オレはヴォイドベルのアサクラ、6年前からシュバリアに宮廷広報官として潜入中だ。当然、貴国ヴァンダニアに敵意も興味もない。」


「なぁにぃ?ヴォイドベルだとぉ? 何を言い出すんだ。」


「まぁ信じられないよな。普通、ヴォイドベルは自身を明かさないものだからな。でも、わかるだろう、情けない話しだが、この状況ではオレ自身もどうしようもないからな。そうだ、オレの右ポケットにナイフが入ってたろう。そのナイフの柄にヴォイドベルの紋章、鐘に十字架と鎖が絡まった図柄が彫ってあったろう? あの鐘の部分が金箔になってるのはヴォイドベルでも支部長以上しか持てない幹部の証さ。」


エルネスト審問官が警備兵を手招きし、耳元で何かを指示した。

多分、ナイルの件を確認しようとしてるんだろう。

もちろん、そんなもの最初っから存在してないから、当然、無いんだけどな。


「キミがここへ運び込まれた時には何も持ってなかったそうだぞ。」

エルネスト審問官が訝しげな目を向けた。


「なにぃ、オレのナイフが無くなってる? それはマズイぞ。あのナイフがあれば、どこの国でも街でも、ヴォイドベルのアジトに入れるんだぞ。探してくれ!」


「あ、あぁ、わかった。後で荷車も確認させよう。」

オレの迫真の演技に押されて疑念は吹き飛んだようだ。


「して、ヴォイドベルがなぜヴァンダニアを偵察するんだ?それもキミはシュバリアのヴォイドベルだろう? 好ましくはないが現実として、ここヴァンダニアにもヴォイドベルは居るだろうに。」


「いや、だから、オレはヴァンダニアに敵意も興味もない。いや、正確に言うと、興味はある。正直に言うと、酒場で店の噂を聞いたんだよ、珍しい外国の酒があるってさ。」


「それで?」

エルネスト審問官の鋭かった眼光があきらかに興味を失った、という感じの目に変わってる。


「オレのようなハードボイルドでダンディな群れない孤高のレジェンド探、いや、教団員は、バーボンをロックで飲むことくらいしか人生に彩りがないのさ。だから、バーボンには拘りたいんだ。あのバーで飲んだ、ブレイブロジャー、だったか?は、バニラのような甘く香ばしい強い香りとパンチのあるスパイシーな味で最高だったぜ。オレが今まで飲んだバーボンの中でも間違いなくトップ争いをするだろうな。」


「あぁ、ブレイブロジャーはヴァンダニア王国でしか作れない最高の酒だからな。」

エルネスト審問官はついに雑談モードに入ったな。


「一緒に食べた、塩味の効いた丸いクラッカーに発酵させた小魚の黒いペーストを乗せたツマミもブレイブロジャーにベストマッチだったよ。」


「あぁそれはアジェロをクラミシャに乗せたんだな。そうだ、それが最高の組み合わせだよ。」


そこまで話した所で、エルネスト審問官の顔が急に引き締まった。


「で、何が目的だったんだ?」


「いや、美味いバーボンが飲めたんで目的達成だ。オレがヴァンダニアのタバコは無いのか、と聞いた所で連れ出されて、今ここにいるってわけさ。自分でも情けないけど、まぁ、現実は受け入れるしかないからな。」


「もういい、監獄へ戻しておけ。」

エルネスト審問官が警備兵へ指示を出した。


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