第12話 【ニーニャ】条件は?
あれ? 映像が出てこないし、何も起きない。
「何も見えないね。さっきは何で見えたんだろう?」
「だいたい、なんでキミはオレの素晴らしく膨大な記憶の中で、さくら姫の部分だけを見ることが出来たんだ?」
「さぁ、何でだろう? 貴方がその時に考えてた事と関係あるとか? あ、ねぇ、もしかして、貴方が思い出したことを同じように見ることができたんじゃないかしら?」
「そうだな。じゃぁ、次はオレがこの世界に召喚されて最初に戦った時の貴重なエピソードを話をしてやろうか。」
想像するに、貴重でも何でもないけど、まぁ良いわ、乗っておいてあげましょ。
「うわ、そのエピソード楽しみ! 是非聞かせて!」
「そうかぁ、本当は守秘義務の範囲だからダメなんだけど、特別だぞ。 類は友を呼ぶってわけじゃないが、ヤバい系の情報ってのは、ヤバい所に集まるものなのさ。それを見つけるのが探偵の勘どころってわけだ。オレは、まず街中をくまなく捜し歩いた。そして、ついにオレが納得出来るバーを見つけたのさ。次に、店を外からしばらく観察する。合格だった。そして店内へ入った。まずは客層の確認だ。よし、これも合格。それからオレはカウンターに座って、しばらくバーテンダーの動きを観察したのさ。怪しい動きや、ぎこちない動作が無いかの確認さ。ここも問題なしだ。 バーボンのロックをオーダーして、その香りを楽しみながら、情報収集の開始さ。しかし、残念なことに、あまり有益な情報は聞き出せなかった。その変わりと言っては何だが、店の様子がおかしいことに気が付いたんだ。オレが追っているヤマとは関係ないが、気づいてしまったものを無視するのはレジェンド探偵としての魂が許さなかったんだな。怪しい動きをした大男二人に、『表へ出ろ』って言ってそのまま店の裏に連れ出しちまったのさ。 オレは大人しく話をして聞かせてやろうと思ってたんだが、相手はオレの眼光にビビっちまってナイフを抜いたんだ。 普段のオレならそこでこいつらをコテンパンにのしちまうところだけど、今は特別任務中だ。わざわざ異世界から召喚されてきたレジェンド探偵のオレが、こんなチンピラ風情を成敗するために正体を明かすわけは行かないだろ、だから風のように姿をくらますことにしたんだ。オレが本気で走ったらついてこられるヤツなんか居ないからな。そして、しばらく宮殿に身を潜めて、また調査を再開したってわけさ。」
「凄いじゃない、貴方がヴァルトベルクに来て、いきなり大男と対峙したのね!」
そして、オッチャンの手を握る。
さっきと同じように頭の中に映画の映写が始まった。
暗くて細い裏道にある年季を感じさせる古い扉を開ける。
カウンターに座ってバーボンロックを注文する。
うん順調だな。ここからがオレの腕の見せ所だぜ。
「よぉ、マスター、オレは旅のものなんだが、最近面白い話はないのかい?」
「へぇ、アンタ、旅の人かい。こんな店に珍しいな。」
「あぁ、ここは良い店だ。オレと同じ匂いがするからな。」
「そうかい、あんたと同じ匂いか、それはありがとよ。」
マスターがそう言い終わると直ぐ2人の大男が入って来て、すぐに肩と腰を両側から抱えられて、そのままバーの奥の裏口ドアから外の路地へ連れ出されてしまった。
「さて、まずは有り金全部出して、身軽になろうか、なぁ、旅のお兄さんよぉ。」
男の右手には大きなナイフが光っている。
やっべぇ、俺はさっき受け取った金貨を男たちの後ろへ向かって放り投げて全力で走る。足がもつれそうだけど、もうすぐ宮殿の正門だ。
「何者だ!」
衛兵達に手錠をかけられて牢屋に入れられた。
「近衛騎士団長に会わせて下さい!」
牢屋の檻を掴んで大きな声で懇願しているとガラハッド騎士団長がやってきて、牢の扉が開けられた。
騎士団長の執務室で話が始まる。
「要するに、いきなり歓楽街の裏道の暴力バーに入って、身ぐるみ剝がされて一目散に逃げてきた。作戦開始から2時間で活動資金を奪われ、ならず者に追われ息も絶え絶えに宮殿へ逃げ帰ってきた、ということですな。」
騎士団長があきれたような声でそう言った。
ぷつっ。
映画が終わるように映像が消えた。
なんだこれ、あらすじはあってるような、いや、本で言ったらタイトルはあってるけど、中身が全然違うって感じか?
「ねぇ、貴方が大男二人を連れ出したの?それとも、連れ出されたの?」
「えぇっ、そこは重要じゃないだろ。裏道に出たって所だけが事実だろ。」
「まぁいいわ。で、大男二人に金貨全部投げつけて走って逃げた?」
「いや、だからそこは問題じゃなくて、本質的な部分としてオレが姿をくらましたってところなんだよ。」
「あと、宮殿に身を潜めたっていうか、牢屋に入れられてたんでしょ?」
「ほら、だから、あいつらは牢屋までは追って来られないだろ?それに敵を欺くにはまずは味方からっていうだろ?だから、わざと牢屋に・・ってか、やっぱりキミ、オレの記憶が見えてるんじゃないか?」