第10話 さくら姫救出
「うわぁ!恰好良い! じゃぁ、シュバリアでは異世界のレジェンド探偵さんが召喚するほどの事件があったってことね。それで、聞き込みはどこまで進んだの? 面白い情報、噂話位はあったの?」
「いや、まだカールさまの噂どころか、貴族たちの情報も無い。」
「へぇ、なるほど。カールさまって言う人を探してて、貴族が怪しいってことなのね?」
あ、やばい、なんか話の流れてうっかり内容を喋ってしまったぞ。この黒ネコ、意外と頭の回転が速いな・・。
「えぇと、これは俺がキミの敵ではないことを示すためにあえて、本来教えられない任務のことを話したんだからな。絶対に内密にしてもらわないと、俺達2人とも命の危険があるってことを忘れてくれるなよ。」
「えへへ。 あのね、アタシね、掴まってここに入れられるまで、ずっと廃校になった学校の校舎の屋根裏で暮らしてて、図書室の本を毎日読んでたんだ。特に探偵物の本が好きだったわ。でね、はっきり言っちゃうとね。レジェンド探偵っていうのは、酒場で睡眠薬飲まされて投獄されたりしないのよね。」
なんだこの黒ネコ、超むかつく。正論を吐く奴は絶対に良い大人になれないんだぞ。
「でもね、貴方が悪い人じゃないってことも解るわ。」
黒ネコに良い人判定されてもちっとも嬉しくないんだよ。
「ふん、まだまだわかってないな。これは相手を油断させるために、わざと身を切るっていう大技さ。」
「うん。貴方ってやっぱり面白い人だね。その、ああ言えばこう言う的なのって、一つの技術よね。大したものだわ。」
えぇい、なぜ俺はこんな小娘、いや黒ネコに、言われたい放題なんだ?
「キミちょっとさ・・まぁ、良いか。ハードボイルドでダンディな漢ってのは、こんな小さなことではいちいち反応しないものだからな。」
「ハードボイルドでダンディなレジェンド探偵さんかぁ。アタシ、そういうベタな設定って好きだよ。ねぇ、貴方が対応した、異世界での面白い事件の話を聞かせ欲しいな。」
設定、という言い方はちょっと気に食わないが、俺のレジェンド伝説を聞きたいというなら教えてやっても良いかな。
「そうだな。それなら、さくら姫を救出した時の話をしてやろうか?」
「え?姫の救出? それって凄いじゃない、それ聞かせて!」
「あぁ、あれは、まだ残暑が厳しい9月中旬頃だったな。俺の事務所のビルの警備員が事務所のドアを開けたんだ。その警備員がエスコートしていたのは憔悴しきった初老の女性だったのさ。俺はそれを見ただけでピンときて、女性を応接へ案内すると、冷たい飲み物を出して、まずはリラックスするように言ったんだ。」
「うんうん。それで?」
「女性は冷たい飲み物には手もつけず、話始めたんだ。よっぽど切羽詰まっていたんだろう、かすれるような声で、姫が、さくら姫が居なくなった、と言ったのさ。俺は、その言葉でもう全てを察したね、これは間違いなく俺の出番だ、とな。」
「うんうん、盛り上がって来たねー。」
「女性は、さくら姫が居なくなった経緯を説明してくれた後に、困ったような表情でこう言ったんだ。でも、私はレジェンド探偵さんにお願いするような資金は持っていないのです、と。 そこで俺は答えたのさ。レジェンド探偵っていうのは、金で動くものじゃないんだぜ、俺は俺がやるべきことをやっているだけなのさ、と。」
「それでそれで?」
「女性が事務所を出てすぐ、俺は調査に取り掛かったよ。まずは情報収集さ。その手の輩が居るコミュニティで話を聞いたり、繁華街で聞き込み調査もしたさ。相当苦労したんだが、俺はありとあらゆるルートを使って情報収集した結果、ついに、姫が監禁されているってネタを掴んだのさ。そして、その場所を張り込むことにしたんだ。俺は孤高のレジェンド探偵だから、張り込みもオレ一人っきりさ。そりゃぁ厳しかったぜ。食事も取らずに2日間、べったり張り込んだんだからな。でも、その甲斐があって、ついに姫の姿を確認できたんだ。」
「そこに姫が居たのね! それで?」
「もちろん俺は速攻で救出のために建物に入ったさ。だが、相手の警戒網に引っかかっちまった。そこで、出てきた相手のボスと直接交渉を試みたのさ。」
「直接対決じゃなく、直接交渉なの?」
「素人は何でも力と暴力で片付けることをイメージするみたいだが、プロってのは、暴力は最後まで使わないものなんだ。暴力から生まれるのは抗争だけで、無理矢理俺の敵を増やすようなことは避けるべきなのさ。だから、俺達はまずは交渉をするんだ。もちろん、交渉出来ない相手なら、完膚なきまでに叩きのめすだけだがな。」
「ふうん。それで、交渉ってのはどうなったの?」
「あぁ、向こうさんも、俺と事を構えることは避けたいようだったので、話し合いをすることになったのさ。あとは、俺の交渉術を駆使した結果、俺の方から重要アイテムを渡すことで交渉成立なって、無事、姫を引き渡してもらうことに成功したのさ。」
「なにそれ、超かっこいいじゃん。」
ネコ娘が両手でオレの手を握って来た。