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9.偽物姫の売り込み。

 後宮、とは様々な思惑が交差する戦場。家門を背負った妃達が皇帝陛下の寵愛を得ようと戦略を練ると同時に命の危険に晒される。

 通常の政治的なアレコレなら私は絶対にイザベラには敵わない。

 だけど"暗殺"特に"毒"については一通り心得がある。薬物の取り扱いも同様だ。

 後宮(・・)という特殊な場でなら、私の知識も多少は活かせるのではないかと思う。


「側妃と言う名の後宮の管理人。私なら誰一人妃を殺さず、またこれから生まれるであろう御子を守り立ち回れる。あなたの手駒として」


 御子を授かるかどうかは神様次第かも知れないけれど、妃達の体調管理をすることで意図的にセルヴィス様に子の出来やすい日取りを伝えることも、あるいはその逆もできるだろう。

 

「必要、でしょう? いかに帝国と言えど、急激な発展を遂げる国には。目はいくつあっても足らない。特に、後宮のような閉鎖的な場所での水面下の争いなんかに割く余力はないのでは?」


 帝国には昔から皇帝を支えてきた四つの名

家がある。が、これも一枚岩ではなく、どの家にも年頃の令嬢がいる。

 セルヴィス様が皇帝になった経緯は少し複雑で、どの家の力も借りていない。

 と、なれば。


「せっかく保っている均衡が崩れると困りますでしょ? 平等に、ほど難しいものはない。女の嫉妬とは恐ろしいモノですよ」


 今はセルヴィス様が冷酷非情な絶対君主として力で押さえつけている状態。

 勿論セルヴィス様にはそれができるだけの秀でた才も慧眼もカリスマ性も備わってはいるのだけど。

 どの家出身の妃が懐妊しても。

 あるいは毒殺なんかの不祥事が起きても。

 四家に口を出す隙を与えてしまう。

 それは避けたいはずだ。


「私の特技はこれまで示した通りです。どうぞ、後宮を巡る面倒事は私にお任せください。そして、国の安寧のためにあなたに相応しい正妃をお選びください」


 その時間を作ってみせますと宣言した私は、


「後宮が秩序正しく機能させ、無事に正妃を選べたら、私をクローゼアに返還してください。あなたの協力者として」


 そう言って私はプレゼンを締めくくる。

 セルヴィス様がこれから先この国を治めていく上で、協力者は絶対欲しいはずだ。

 それも四家に影響しない、外部出身で利害の一致する協力者が。


「イザベラはこの国の情勢をよく押さえているようだ」


「お褒め頂き光栄です」


 当然だ。

 私はそのためにこの国に来たのだから。


「イザベラ。お前は大人しくしている気はなさそうだな」


「ないですね。言ったでしょう、奇跡なんて待っていても起きない。可哀想なヒロインに王子様が手を差し伸べてくれるのなんて御伽話の世界だけですわ」


 これでダメなら別の手を考えます、と私は肩を竦める。


「側妃として後宮で動けばお前自身の身も狙われることになるとしても、か?」


 紺碧の瞳が狼のように鋭い光を帯びる。

 自分が強者である、と知っている眼。

 そして、命を賭ける覚悟があるのか? と問う眼。


「ふふ、面白いことをおっしゃる」


 私の答えなんて、クローゼアで初めて死にかけた時から決まっている。


「"王家に生まれた以上民に尽くし、この命を捨てる覚悟などとうにできている"……なんて、言えば満足ですか? 国のために死ぬなんて冗談じゃないっ!!」


 死にたくない。

 死にたくない。

 死にたくない。

 絶対に、死にたくない。

 王女として国から認められなくても。忌み子だと誰に蔑まれようとも。

 何度、この身を毒に侵されようとも。

 ずっと、そう思って生きてきた。


「私は自分からこの命を放棄したりなんか、絶対にしない」


 だって、私が死んだらイザベラはあの魔窟でたった一人だ。

 だけど私の余命(時間)はあと僅か。

 独りは、辛い。

 夜が、二度と明けないのではないかと思うほどに。

 

「己の無力さに苦しもうが、恥辱に悶えようが、泥水をすすってでも意地汚く"生"にしがみつく」


 なら消え逝く私は、たった独りでこれから先を立ち続けなければならない片割れ(イザベラ)に、"鮮烈な生"(私の生き様)を遺そうと思う。

 自分のために泣かない彼女が"一人で戦ったわけではなかった"と孤独に押し潰されずに済むだけの鮮やかに色付いた私の物語(人生)を。


「だって()が倒れたら、誰がクローゼアの民を救済するのですか?」


 決意表明を告げた私は紺碧の瞳に目的を告げる。ここでイザベラとして有用性を示れば、きっとイザベラがクローゼアの民を生かす方法に繋がる。

 クローゼアの王なら冠を捨てるなんてありえないけれど、イザベラは違う。民を生かす最善手だと判断したら、国が無くなる事だって躊躇わない。

 そしてイザベラの本性を見抜き才を買ってくれたセルヴィス様なら、離縁後のイザベラを悪いようにはしないはず。


「私は決して倒れない。私の名は、イザベラ・カルーテ・ロンドライン。覚えておいてください、私はあなたの敵ではないと言う事を」


 だから、私はたくさんの本当の中に1つだけ嘘を混ぜる。

 偽物姫(リィル)イザベラ(本物)だ、という嘘を。


「なるほど、な。つまり、自分を含めたクローゼアの存続がお前の目的というわけか」


「クローゼアの名にも王家の冠にもこだわりはありません、という事も付け加えておきますわ」


 クローゼアが強国に数えられていたのは昔の話。いくらイザベラが頑張ってくれているとはいえ、今のクローゼアでは帝国と対等な同盟国になるのは難しい。

 それならばいっそ今後も成長が見込まれる帝国に早々に売国してしまってもいいのではないかと思う。


「後宮でその能力を示した後の最終目標は、一国の管理者(クローゼア管理代行)、か。確かに悪くない手だな。だが、イザベラ。その計画には大きな穴がある」


 私の話を聞き終えたセルヴィス様は、


「残念ながら、現在この後宮にはお前以外妃がいない」


 さて、どうする? と世間話でもするかのような軽さでそう言って自身のお茶を飲み切った。

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