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73.偽物姫の告白。

 驚いたような顔をして目を瞬かせたセルヴィス様は、


「……やはり、返したくないなぁ」


 ぼそっとつぶやくと私に手を伸ばす。


「へっ? わ、ちょっ」


 ポスっと座らせられたのはセルヴィス様の膝の上。


「じゃあ、今度は君の話を聞こうか」


「ち、近くない……ですか?」


 イケメンのキラキラした笑顔が非常に眩しい。わかりやすいハニートラップを前にドギマギする私に、


「そんなわけで君を嫌いになる予定はないから、素直に申し開きをして欲しい」


 にこにこにこと笑ってセルヴィス様はそう言った。

 おかしい、暴君モードの冷たい視線よりガチめに怖いんだけどと固まる私。

 私の蜂蜜色の髪に指を絡ませ、


「君はひどい悪女だなぁ、ヒトの事を弄ぶなんて」


 色気を垂れ流しにするセルヴィス様。


「気になり過ぎて夜しか眠れなかった」


 と囁く。


「いや、それガッツリ寝てますよね!?」


 今まさに現在進行形で弄ばれてるの私ですけど!? と抗議する。

 うぅーっと赤面しながら唸る私を見て満足気に笑ったセルヴィス様は、


「ははっ、これくらいの仕返しは許して欲しい」


 ポンポンと軽く私の頭を撫でた。


「それで、君の話は?」


 セルヴィス様は改めて私に尋ねる。

 真っ直ぐ、私を見つめる優しい紺碧の瞳。


「先日は、大変失礼いたしました。謝って済む問題ではありませんが、でも私には必要な事でした」


 全てを話すことはできなくても、せめてセルヴィス様と誠実に向き合いたい。

 そんな事を思いながら、私は言葉を紡ぐ。


「ただ、それだけの行為でアレに意味はありません。あなたの気持ちを踏みにじるようなことをして、申し訳ありませんでした」


 振り払ったのは私。

 この手を取ることができなくても、後悔はしない。


「あの日お伝えした通り、私はあなたの気持ちには応えられません。私にはクローゼアの王女として、やらねばならないことがありますから」


 私は、イザベラの偽物。クローゼア第二王女として、私は自分の役目を全うする。

 だけど。


「でも、セルヴィス様の気持ちは……すごく、すっごく嬉しかった、です」


 彼を愛している。

 その気持ちだけが、私のたった1つの本当で。


「私を好きになってくれてありがとうございました」


 明かせない"本当"の代わりに、私は感謝を伝えた。


「そうか」


 セルヴィス様は静かに頷く。


「君の気持ちは分かった。君は、根っからの王族なんだな」


 俺とは違って、と苦笑し私の蜂蜜色の髪を撫でた後、


「なら、俺も正規の手順を踏むとしよう」


 と宣言するセルヴィス様。

 どういう事? と首を傾げる私に、


「君に正式(・・)に求婚することにする」


「話聞いてました!?」


 いやいやいやいや。

 なんでそうなった!? と全力でツッコむ私に、


「要するに、俺は君に嫌われているわけではないのだろう? なら、諦める理由がない」


 何か問題でも? と聞き返すセルヴィス様。

 そうだけど、そうじゃない!

 むしろ問題しか存在しない。

 そもそも私はイザベラの偽物だしと脳内ツッコミしつつ押し黙る私に、


「要するに君が帝国に留まれない理由がなくなればいいんだろう。なら、やりようはいくらでもある」


 セルヴィス様は得意分野だ、と微笑む。

 何せ追いやられた辺境地から皇帝位まで上り詰めた人だ。

 確かにセルヴィス様は頭の回転も速いし、政治手腕にも長けている。

 それこそ、イザベラよりも。


「言っただろ。俺に売国するなら全部寄越せ、と。クローゼア全部なら、当然そこに所属する君も含まれる」


 トンっと、人差し指を私の唇に当てたセルヴィス様は、


「言えない事を抱えているのはお互い様だ。だから無理に話せとは言わない。君が"必要な事だった"と話すなら事実そうなのだろう。それで、もう必要ないのか?」


 じっと私の瞳を覗き込む。


「えっ……と。今は……必要、ないか……と?」


 セルヴィス様の質問に、ドギマギしながらしどろもどろに答える。

 実際今は痛みも引いているし、体調も悪くない。これがいつまで待つかは分からないけれど。


「今は、ね。それは残念だ」


「残念って」


「キスする口実がなくなった」


「なっ/////」


 自分でも真っ赤になっているのが分かるほど、顔が熱い。


「本音を言えば口実なんてなくても君に触れたいと思ってる」


 耐えきれず顔を両手で覆った私に、


「だから謝る必要はないし、むしろ君からの口付けなら歓迎だ。たとえ身体目的でも」


 真剣な声で話を続けるセルヴィス様。


「……言い方っ。絶対、わざとですよね!?」


「ははっ、それだけ言い返せるほど元気なら本当に大丈夫そうだな」


 次の機会に取っておくよ、と言い合いを楽しみながら、どこか安心したようにそう言ったセルヴィス様は、


「君が元気になって本当に良かった」


 とても大事なモノを扱うかのようにそっと私を抱きしめた。

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