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13.偽物姫は皇帝陛下の本質を垣間見る。

「……何故、コレを今俺に提示した?」


「え?」


「"暴君王女"は、もっと交渉が上手いのだと思っていたがな」


 淡々とした口調でそう話すセルヴィス様の言葉で、私は現状を理解する。

 状況を好転できるかもしれない貴重な情報。もし、本物のイザベラなら戦略的に最も優位に立てそうな場面でこのカードを切っただろう。

 たとえ、放置する事で今以上に帝国民が死に直面するリスクが上がったとしても。

 どうせ今言ったところで信じてもらえない可能性の方が高いし、深刻な状況を回避できた時の方が皇帝陛下から引き出せるリターンも大きい。

 本物のイザベラならクローゼアにとって最も"利"になる判断をくだしただろう。

 優しさだけでは、民を救うことなどできないのだから。


「……感謝、していると言ったら笑いますか?」


「感謝?」


 解せない、という表情で眉根を寄せるセルヴィス様に私はクスリと笑みを漏らす。

 この人はやはり、どこかイザベラに似ている。

 自分の行動が他者から賞賛されなくても構わない、と思っている辺りが特に。


「あなたが強くて本当に良かった。クローゼアを完膚なきまでに打ち負かしてくれたおかげで、早々に決着が着きましたから」


 私とイザベラでは父を止めることはできなかった。

 私達は王女でありながら、戦争一つ回避できないほど無力だ。

 セルヴィス様が圧倒的な力でクローゼアを制圧してくれたおかげで、死なずに済んだ命もある。それは紛れもない事実だった。


「今、そのせいでお前は望まぬ婚姻を強いられているというのにか?」


「本来なら仕掛けた側の敗北なんて、一族郎党処刑の後晒し首にされても文句など言えないでしょう。でも、あなたはそうしなかった」


 3食昼寝付きの人質生活なんて、自国にいた時より高待遇だ。

 なんて、言えるはずないけれど。


「今後を思い周辺諸国に帝国の権威を見せつけようというのならやり方はいくらでもあったはずなのに、迅速かつ穏便に収める選択をしてくださった陛下の温情に感謝はすれど、恨み言を並べるのは筋違いというものでしょう」


 コレは紛れもなく私の本心だった。

 だというのに感謝を口にしながら、私はセルヴィス様をひいては帝国は勿論、クローゼアの国民までも騙している。

 それも、私の独りよがりなワガママを通すために。


「単純に、回収できる利益の方が多いと踏んだだけだ」


 私の首に筋張った大きな手がかかる。


「その気になれば殺す事など造作もない」


 淡々と。

 何の感情も込められる事のない言葉として吐き出されたそれは、雄弁に事実を物語る。

 私が自分の死を常に感じて生きてきたように、彼は他者の死を隣に置いて生きてきたのだと知る。

 どうして、この人は冷酷無慈悲な皇帝陛下なんてしているんだろう? と、ふとそんなことが頭を過ぎった。

 私とイザベラは2人で分け合えたけれど、この人はたった独りで全てを抱えているように見える。

 冗談ではなくほんの少し指先に力が加われば、私の命を摘むことなんてセルヴィス様には簡単にできてしまうのだろう。

 どんな脅し文句より恐怖しそうな状況なのに、私にはそんな生き方しか選べなかったのだと言っているように聞こえて。

 それがなんだか無性に悲しくて、何故か急に泣きたくなった。


「そうでしょうね」


 でも、勝手に心を推し量って泣くのはきっと違うから。

 代わりに私は言葉を紡ぐ。


「でも、皇帝陛下として私に利用価値を見出している限り、あなたはきっとそうしない」


「随分と強気だな」


「ええ、だって私"暴君王女"ですから」


『よりにもよって、第一王女の双子として(魂を喰って)生まれてくるなんて』


『アレはヒトに非ず』


『不完全な存在は国に混沌をもたらす』


『忌々しい存在め』


 生まれた時から今まで、存在を厭われ、蔑まれ、多くの悪意を浴びて生きてきた。

 でも、冷酷無慈悲だと噂されるこの人からはただの一度もそんな感情を向けられた事がないのだ。

 だから、分かる。セルヴィス様の本質は噂されるようなモノとは異なる、と。


「私のこの身が朽ちたなら、行き着く先はきっと地獄と呼ばれる場所なのでしょう」


 私を構成するほとんどの情報は偽物で。

 生まれた時から"悪"である私は、きっと死んでもお母様には会えない。

 どうせ消えてなくなるだけならば、道草くらい、許されるだろう。


「私が先に逝ったその時は、明かりを灯して陛下のことをお待ちしておりますわ」


 あなたが独りで道に迷う事がないように、と私は首に手をかけられたまま静かに笑い、私は言葉を締め括った。


「……まだ、必要性を感じていない」


 セルヴィス様は静かに私の首から手を離す。


「左様でございますか」


 私は静かにそう返す。


「では、私は陛下の気が引けるよう寵妃らしく務めを果たす事にいたします」


 クローゼアを売国する気満々ですからと私は、改めて宣言する。


「そうか」


 そっけなくそう言った冷え冷えとした紺碧の瞳を覗きながら思う。

 いつか、本物の寵妃が現れてセルヴィス様の孤独を埋めてくれたらいいのに、と。

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