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10.偽物姫と契約。

 紺碧の瞳が楽しげな色を浮かべるのを見ながら、私はミルクティーのカップをスプーンでかき混ぜる。

 静かな部屋にカチャカチャという小さな音が響き、私はミルクティーがすでになくなっている事にようやく気づいた。

 ふっ、と私は綺麗な笑みを浮かべる。

 妃が一人もいない。

 私はその言葉をそれはそれは丁寧に噛み締める。

 おかしい。事前の調べでは四家全てに年頃の娘がいると聞いていたのに。

 帝国では後宮の規模が権力の象徴とされ、即位と同時に何人も側妃を娶ることも珍しくないのに。

 次期皇后は四家のどこから出るのかと賭場でも話題になっていたというのに。


「なぜこんな立派な後宮に妃が私以外一人もいないのですか!!」


 何度言葉を噛み砕いても納得しかねる事実に私は立ち上がってそう吠えた。

 不敬だとかこの際知らない。確かに後宮の現状までは調べられなかったけれど、このままだと私の計画丸潰れじゃないか!


「なぜ、と言われてもな」


 全く気にする様子のないセルヴィス様は私の空のカップにお茶を注ぎ、


「四家はどこから先に迎えても揉めるからな。一番目の花嫁ともなれば尚更。かと言っていつまでも空席は頂けない」


 先送りにしていたら、鴨がネギを背負って来たからと紺碧の瞳を私に向けて、セルヴィス様はそれはそれはいい笑顔で最低な言葉を宣いやがりました。


「お前の読みはある程度正しい。確かにこの国を安定させるには後宮に有力貴族の娘を入れて置くこともその中から皇后を選ぶのも、必要なのだろう。部下にも急かされている。が、正直面倒臭い」


 俺の心情までは勘案できなかったみたいだなと揶揄うようにそういうセルヴィス様。


「皇帝の義務である花嫁選びを面倒臭いとか言わないで頂けます?」


「じゃあ、妃を立てて言葉を変えよう。"興味ない"」


 このヤロウ。

 綺麗な顔面にフルスイングを決めたくなったけれど本当にやったらダメなやつなので笑顔を崩さず脳内滅多刺しに留める。


「では、栄えある一番目の妃を立てくださるというのでしたら、五人でも十人でも妃をお迎えください。今すぐに」


 候補者が列を成して待ってるだろうがぁぁぁーーと私は内心で叫ぶ。


「はは、つい先日花嫁を迎えたばかりだと言うのに、たった一人の妻に新たな婚姻を勧められるなど、全く興味を持たれていないようで心が痛む」


 そんな私を嘲笑うかのようにニヤニヤ笑いながらそう述べるセルヴィス様。

 コイツ、思ってもない事を。

 せめて表情だけでも作りなさいよと私のツッコミは止まらない。


「いえいえ、そんなことは。こんな素敵な旦那さまを独り占めだなんて私の方こそ心が痛みます。どうぞ私の事などお構いなくさっさと四家と縁結びなさってください」


 "さっさと"のあたりを強調して私はなおセルヴィス様に妃を娶れと圧をかける。


「まぁ、元々四家の人間は後宮に迎えるつもりだったんだが」


「ですよね!!」


 セルヴィス様の言葉に私はぱぁぁぁーと表情を明るくする。

 が。


「気が変わった。四家もだが、側妃を娶るのも宥めるのも時間が勿体無いし」


 そんな言葉とともに私の天色の瞳に映ったのは、意地悪げに口角を上げたセルヴィス様のお顔と私の方に伸びてきた長い指。


「イザベラ、お前を寵妃に任命する」


 くいっと顎を持ち上げられ、強制的に紺碧の瞳と視線が絡む。

 全部を食い荒らしそうな狼の眼。


「……………は?」


 脳が上手く情報を処理できず、私は思わずドスのきいた低い声でそう言っていた。


「だから、寵妃として使うと言った」


 セルヴィス様は楽しげに同じ言葉を口にする。

 残念ながら聞き間違いではないらしい。

 が、声を大にして言いたい。


「寵妃は任命するものでも使うものでもないでしょうがぁぁぁあーーーー!!!!」


 何この展開。

 予想外過ぎて頭痛がしてくるわ。


「何だ、自分で売り込んで来たくせにその程度か?」


 さもがっかりと言わんばかりに肩を竦めるセルヴィス様。


「己の無力さに苦しもうが、恥辱に悶えようが、泥水をすすってでも意地汚く"生"にしがみつくのではなかったのか?」


 私の先程のセリフを持ち出し、


「お前の覚悟はその程度か?」


 私の事を挑発する。


「つまり望みを叶えたいなら、私に"囮"になれと?」


 セルヴィス様が私に提案したのは、寵妃として立ち回り、四家を抑える目眩しの役目。


「話が早くて助かる。悪逆非道な冷酷皇帝の隣に並ぶに相応しい暴君王女。これ以上にない配役だな」


 お似合いだと思わないか? とセルヴィス様は口角をあげる。


「安心しろ、俺はこれでもお前の能力は買っている」


 それは勿論、そうでしょう。

 イザベラは最高だものとセルヴィス様に全力で同意する一方で。


「クローゼアを売りたいというのなら、買うに値する国だとお前が示せ」


 この要求に対しての最適解が分からない。

 売国に応じるか否かは、私の働きで判断される。

 寵妃、なんてやった事もないし、イザベラと違って演技に自信もない。

 だけど。


『うん、またね。リィル』


 目を閉じて思い描くのは、私によく似た双子の姉の泣き出しそうな笑顔。


「分かりました。寵妃役、お受けいたします」


 イザベラがこれから生きていく場所を守れるのなら、なんだってやる。

 たとえ、それが国中を欺く大罪だとしても。


「ただし、イザベラ・カルーテ・ロンドラインには決して惚れないでくださいね。私、ここから出て行く身なので」


 この地でイザベラとして死ぬわけにはいかない。

 期限は半年以内。それまでにクローゼアを売国するための条件を整えて、絶対ここから出て行ってやる。


「はは、これから退屈せずに済みそうだ。せいぜい楽しませてくれ」


(私の大事なお姉様を、この人にだけは絶対あげない!)


 私はセルヴィス様の紺碧の瞳を真っ向から睨みながら、イザベラを守り切ると強く誓った。

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