6,リースの1日
貴族の家に仕えている者は朝が早い。執事やメイドは朝日が昇る時間より前に起きて支度をする。
貴族には一人一人専属の執事orメイドが存在し、僕はレインお嬢様の専属執事である為基本レインお嬢様の言う事を聞く。
お嬢様の部屋に向かう途中厨房に少しより今日の朝食がなんなのかを見る。これは重要なことであり、万が一お嬢様の苦手な野菜が入っていなかった場合お皿の上にそっとのせる。
これも苦手な食べ物の克服をしてほしいとの願いであるため仕方がない処置である。
その後はお嬢様を起こしに行くのだが、お嬢様は全く起きない事で有名なので手段としてはレインお嬢様の母君であるマリア様がお嬢様の部屋に来たと耳元で嘘を言うか、お嬢様の大好きなアップルパイで誘うかの二択があるが多用しすぎて耐性が付いたのか最近は効かなくなっています。
どうやって起こすかと言うとお嬢様の手を握りチクッ…とする程度の雷魔法でお嬢様を起こしています。
リース「お嬢様おはようございます。」
レイン「その起こし方やめてって言ったよね!」
リース「明日以降起こしに行きませんよ?」
レイン「それだけは勘弁…」
この一連だけ見るとどっちが主か分からなくなりますね。
お嬢様をベッドから引きずり出しお顔や髪の手入れを行ったりします。流石に着替えはメイドの方にお任せしますが基本僕一人で行っております。
朝食は貴族では珍しく家族や執事メイド等全員が同じ卓で食事をします。ほとんどの貴族は執事やメイドを奴隷の様に扱っているケースがあるので貴族界隈でも頭一つ抜けているらしい。
朝食が済み次第お嬢様はハル先生と授業の時間なので僕も一緒に参加して学びます。
今日は一通りの初級魔法の練習と魔法の歴史について学びました。初級魔法の中でも「生活魔法」と呼ばれる分類の物をいくつか実践し、覚えることができました。
お嬢様は「ライト」光の球体を出す魔法を太陽の光の如く輝かせて危うく失明しかけました。
大体お昼頃まで魔法の授業を行い、昼食に入りました。今日はハル先生の奢りだそうで領内のレストランに行き注文をしました。
初めてレストランで食事をしましたが、案外美味しいものですね。
昼食後は屋敷に戻りお嬢様の部屋の掃除を行います。ホコリが出ないように掃除をするのですが、お嬢様の部屋というか倉庫が別でありましてその倉庫が実に厄介なのです。
どう厄介かと言うとパンパンに積まれているゴミ…ではなくお嬢様が捨てるのが勿体ないと言ってたまった品物が多々あります。
お嬢様は貴族なので他の貴族の子がお嬢様にプレゼントとして渡しているものが5割を占めていて、お嬢様はこのプレゼントは興味は無いけど捨てるのは違う…と言ったからです。
あとは…ガルド様がレインお嬢様の為に各地で集めた骨董品が5割ありますが、お嬢様に見向きもされないのでここに置いてあります。
掃除が終わるとやっと自由な時間が回ってきます。今日は剣の自主練を行います。
自身にデバフで"ドーンストーン"という自分自身に重りを付けたような感覚になるデバフで段階に分けて重りを増やしていけます。
僕が持っているショートソードは大体1.2kgですので"ドーンストーン"で4kg程重さを増しています。剣を振るだけでも一苦労しますが、ジョーズワルツ公爵様は800kgから1トンの重りを付けて剣を振っても逆にバフがかかってるかの如く高速に剣を振り回しています。
その後はお嬢様と領近くの森に行きギルドで受けた薬草取りの依頼に行っていて同時に、ゴブリン退治の依頼も受けています。
リース「受付の方の情報ではこの先に薬草の群生地があるとのことです。」
レイン「そう…ね…。」
森の中というのもあってか木の根っこなどでかなり入り組んでおり薬草探しでも一苦労です。
ですが困っている人がいるからこの依頼がギルドにでていたわけなので、確りと個数分集めて帰りたいと思います。
リース「着きましたよお嬢様。」
レイン「やっと着い…。わぁ…すごく綺麗ねリース。まるで私みたいじゃない?」
リース「………。」
レイン「なんで黙っているのよ。」
この歳で出るような言葉ではないはず。6,7歳児だったらもっとほんわかした話になると思っていましたが別にお嬢様なので気にしません。
沢山薬草があるとはいえ決められた数だけ取ればいいです。沢山取っても買い取りに影響するわけでもありませんからね。
お嬢様と一緒に合計10束の薬草を入手した後ゴブリン退治にいきました。
ゴブリン退治の依頼は絶えることはなく毎月一定の数でゴブリン退治の依頼がギルドに貼られています。
ゴブリン退治は初心者が多いと思われがちだが実はそうでもない。ゴブリンとはいえある程度の知性を持ち合わせている為、複数体で活動していることが多く、弱いと思って凸りに行った冒険者が痛い目にあうこともしばしばあり、依頼を受けれるのは最低でもEランクからだそう。
おっと…そうこうしている内に感知でゴブリンを発見しました。数はおおよそ6体といったところ、少し数が多いので奇襲して何体か倒しておきましょう。
リース「お嬢様…この先にゴブリンが6体程いますので奇襲しましょう。」
レイン「私は何をすればいいの?」
リース「僕がゴブリンの後ろから攻撃しますので、ゴブリンが僕の方に振り向いた瞬間、お嬢様のお得意の魔法をお願いします。」
そっと…そっと…ゴブリンに近づいて…後ろから1体剣で貫きました。予想通り残りのゴブリン達は僕の方を向きました。
リース「お願いしますお嬢様!」
レイン「"アイス・シャワー"」
ゴブリン「ウギャァァァ…」
レイン「リース、一体逃しました。」
リース「任せてください!」
僕は最後の一体を倒し、無事討伐成功しました。お嬢様が使っていた「"アイス・シャワー"」は氷魔法なのですが、水魔法であらかじめトゲ状の物を作り出し氷魔法で固めただけなので初級の氷魔法でも使える技となっている。
ゴブリン討伐はゴブリンの右耳を切れば証拠になります。領内にゴブリンスレイヤーという称号を持っている人がおり、ゴブリンを1,000体倒せば手に入る称号になっています。
とても名誉ある事ですが、他にもオーガスレイヤーや、トロールスレイヤー、ドラゴンスレイヤーなどさらに上位の称号が多数あり、ドラゴンスレイヤーの称号があるだけで無差別にSランクになれる試験が受けられますし、貴族である男爵になれる人も存在します。
よっぽどの戦闘狂でなければたどり着けない領域になっています。ジョーズワルツ公爵はドラゴンスレイヤーの上である「魔王スレイヤー」の称号の持ち主であり、これは歴代勇者以外で手にした人物はジョーズワルツ公爵が初めてのこと。
無事に薬草とゴブリン退治が終わりギルドに戻って報酬を受取りました。冒険者ギルドの規定として1ヶ月に最低3回は依頼を受けて成功しなければ剥奪されるので冒険者になりたての初心者は気をつけたほうがいい。
額としては低いものの評価に加点されるので小さい依頼を沢山やったり、大きな難しい依頼を1回やったりして加点されていき、次のランクに昇格します。
依頼が終わったのが夕方です。急いで御屋敷に帰えらないとマリア様がカンカンになってしまいます。
夕食は朝食同様皆で食卓を囲んで食べます。案の定お嬢様の苦手な野菜が出て僕の皿にこっそりと入れたことは忘れませんよ。
リース「お嬢様、お野菜も食べないと成長できませんよ。」
マリア「レイン…あなたはまたリースのお皿に移したのね。」
レイン「ちょっと…言わないでよ」
リース「これはお嬢様の為なので仕方ありません。」
こういった日常会話を交えながらの食卓はなんて気持ちがいいんだ。
夕食の後はお風呂に入ったりします。その後は使用人は御屋敷のお掃除や警備に移り、お嬢様方は自室でゆっくり過ごします。
僕はこの時間外に出て領内でランニングをします。最初は僕一人でやっていましたが、領民の何人かは体力づくりのため一緒に走っています。
夜中…月が一番輝いている時に就寝します。
この時間が一番落ち着いて寝れます。
お休みなさい…