ずっと一緒
伊狩操は、つい先ほど、庭に殺害した恋人の死体を埋めた。
愛していると言いながら他の女と話すのを止めないから家に閉じ込めたのに、彼は嫌がった。
愛しているなら嫌じゃない筈と責めたら、もう愛していないと言われた。
嫌いになっただなんて酷い裏切りだから、殺した。
これでもう、何処にも逃げられない。
彼は自分のものになったと、操は満足感を覚えた。
「これで、ずっと一緒ね」
そして、現在。
操の目の前に、彼が立っていた。
生き返った訳ではない。
操に殺された死体のままの姿だが、向こうが微妙に透けて見えるので、死体が動いている訳でもない。
「近過ぎるんだけど」
体が触れそうな程の近さに立つ恋人の幽霊に、操は不満を漏らした。
しかし、彼は無反応だった。
これが、生前のような姿だったら、操は喜んだだろう。
幾ら愛する人でも、死体を愛でる趣味は無い。
だから、埋めたのだ。
彼が動かないなら自分が避けるしかないかと顔を動かすと、間髪入れずに彼が動き、操の視界を遮り続けた。
反対側を見ても、やはり同じように妨害する。
「退いてよ!」
苛立った操が怒鳴っても、彼は無反応だ。
幽霊である彼を通り抜けようと足を踏み出してもその分下がるので、どうしようもない。
「退いてったら! どうして、こんな嫌がらせするの!」
嫌いだと言われた事を忘れたからではない。
自分に逆らったからだ。
しかし、どれだけ罵っても、彼は無反応を貫いている。
「どうしたら……?」
暫く考えて思い出した。
自称霊感がある同僚を。
何とかスマホの音声アシスタントを起動して電話を掛け、呼び出した。
その際、念の為に誰にも言わない様にと約束させた。
本当に霊感があれば、彼を殺害した事を知られてしまう。
その時は、口封じの為に殺すつもりだった。
「霊に取り憑かれているかも知れないって……。え? 伊藤君?」
同僚には本当に霊感があったようで、誰が憑いているのか当ててみせた。
「本当に霊感があるのね。さっさと除霊して頂戴」
「……無理。今まで何度も言っているけど、私は見えるだけなの」
「死ぬ気でやれば、出来るんじゃない?」
操がそう言うと、同僚は怯えて一歩下がった。
「伊藤君が取り付いているんじゃなくて、貴女から出ている髪の毛みたいなものが、伊藤君を貴女に縛り付けている」
「私が? まさか! 自分でやったなら、こんな事になる訳ないでしょう!?」
操は頭に来て怒鳴ったが、同僚は、別に操の仕業だとは断言していない。
操から出ているように見える髪の毛のような何かの仕業だと、言っただけだ。
「兎に角、私には何も出来ないから……。帰るね」
「待ちなさい!」
口封じの為に殺そうとしたが、彼が邪魔でよく見えないので無理だった。
その後、操は死ぬまでずっと彼と一緒だった。
めでたしめでたし