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美味しくならない魔法をかける  作者: 比嘉パセリ
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NO4 現実味を帯びた夢

あまり嗅いだことの無い匂い。

それなのに、何だかお花みたいないい匂いがして少し心地よく感じる。


目は静寂に包まれているのに、耳だけは活発に動いている──────否、動か"されている"。



ゆっくりと睫毛に拘束された眼を開ける。

そこには新鮮な景色が広がっていた。


「…?あれ、何処なの…?お父さん…?お母さん…?…ニーチェもいない…あれ、…っ」


私の家は木造建て。

だから、目を開けたら必ず最初に木目が入ってくる。そして私はその木目から、顔っぽいやつを探すのが好きだった。


だけど今目の前に存在するのは、黒一色で何も模様なんてない。見ていてもつまらなくて、更に眠くなってしまいそうな無地柄であった。



「…?少女、起きたのか。」


「…?少女?わ、私の事?…つ、てか誰なの…?」


手足が上手く動かせない。

四肢を誰かに強く握りしめられているような感覚。まるで誰かに掴まれているような気分で、少し気持ち悪くも感じる。

そんな事を思いつつも、とりあえず声のする方に顔だけ向けてみる。



「私、…私か?…別に名乗る様なものでは無い。そして、もう少しで息を絶つ様な哀れな少女風情に名を名乗った所で何も意味は無いだろう。」


「…ごめん、オジサンもっかい言って欲しい。ちょっと体勢が辛くてね、何も聞こえないの。」


因みに悪気は一つもない。だってこの人、こんな暑い日に仮面なんかつけてるから、本当に上手く聞き取れなかったんだもの。



「…?オジサン?…随分と礼儀のなっていない小娘だな。さぞかし肉親もその程度のニンゲンだったのの!?だろう。可愛そうな家族だな。」


仮面オジサンは、身体を小刻みに震わせながらくすくすと笑っているように見えた。


オジサンは顔を歪ませながら、鼓膜を針で刺す様な痛々しい笑い声を浴びせてくる。

私はそれに反撃するように言葉を紡いだ。


「…私の家族はオジサンが思うほど悪いものじゃないよ!お母さんは身体が弱くても、毎晩絵本を読んでくれるし、お父さんは私達の為に頑張ってくれる!それでニーチェは、いつも私達を笑顔にさせてくれるし…───」



「黙れ、所詮今晩には皿の上で永遠の眠りを告げ、我々の体内に取り込まれる食材風情だろう。…折角、此の私が最期の未練を叶えてやろうと思ったというのに…その気さえ失せてしまいそうだ。」


「…その気?…あ、私今晩食べられるの!?え、は!?わ、私まだ…お嫁にも行けてないし…尚且つお母さん達を養う事さえまだやり切れてない…。それにそれに、もっと友達も作りたいし、ドレス着て皆の前で踊ったり、後は家族でお星様観察もしたいしやりたい事沢山あるんだけど!」


私の得意技、その名もマシンガントーク。

拘束されているというのにも関わらず、ムキになりながら話し続けていたせいか手足が少しヒリヒリする。



「…随分と貪欲な食材だな…。今まで食材として出迎えた者の中で一二を争う事が出来る程…、だが私はその全てを叶えることが出来る"神様''では無い。一つに絞るか、それともこのまま諦めろ。選べ。」


仮面オジサンは、頭をぽりぽり掻きながらぶつぶつと呟いた。…うん、一応ギリギリだけど何とか聞こえた。


「一つに絞る、か…私にとったら中々の難題なんデスケド…」


「一つに絞るのが難しいだと?随分と頭の堅い食材だな。品質が悪くなるから改善しろ。」


この仮面オジサンの方が頭堅いと思うけどな。

というか目覚めた直後で、まだ人生始まったばかりの若い女の子に"オマエハコンヤノショクザイダ!!"なんて何処の不審者なのよ。


お母さん達を探さないといけないのに。


「…まだか、少女。私は待たされるのが嫌いだ。早く意見を出せ。しかし条件として、一つしか受け入れない。」


「ちょ、…せ、急かさないで欲しいんですけど…こっちはまだ…」





こっちはまだ将来に夢と希望を抱いた期待の新星なのに、…何か変わった夢でも見ているのかな。

でも、それでも一つに絞れって言うなら───




「…それじゃあ私、まだ生きたい。責めて"お母さん達の安否が確認できる"まで。

絶対一つに絞れって言うんだったら、私はそれだけ叶えて貰えれば何でも受け入れる。なんなら、雑用でも何でもする、私これでも力仕事だって出来るから!

────…それに、 その方が"食材の品質も上がって美味しくなる"でしょ?」


多少顔にイラつきを覚えながらも、今できる限りの精一杯の(営業)スマイルで仮面オジサンに笑って見せた。


すると、仮面オジサンはキザじみた笑い方をしながらこう返答した。


「…そうか、…それでも尚生に縋りつき"今夜の夕食"になる事を拒むか。…だがまァ食材の品質を向上させ、雑用をこなし"私の言いつけを従順に聞くペット''になれるなら、だな。」


思わず空気が抜けたような、素っ頓狂で間抜けな声が漏れる。


"ペット"


その言葉の響きが、何度も私の頭の中にぐるぐると回り続けている。


そうだ、私は紛れもない"人"だ。

自我もあるし、首輪を付けられて散歩するようなペットになれということでしょ?嫌だ嫌だ絶対嫌!!



「…?聞こえなかったか。耳に塵でも詰まっているのか?…仕方ない、もう一度言ってやろう。今日から少女の願いが叶うまで、貴君は私の言いつけを従順に聞くペットになれ。」


「…仮面オジサン、そういう趣味…あるんですか?…その、ちょっと…脳の整理が…」


「…文句があるのならば、このまま少女の下処理に入り、"今夜の夕食"に加えるものとするが。」


いつの間にか私は何も言い逃れが出来なくなってしまっていた。


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