「はい、ストップ」
大刀・餓鬼を一言で述べると、腹を空かせたガキだ。
コイツはどれだけ魔力や血を喰おうと満足する事はなく、一生魔力や血を求め続ける。
この性質は、恐らく基となったあのピュアオーガが何かしらを『餓える』と表現するほどに追い求めていたのだろう。
そして俺は俺で常に強さと総魔力量を求めてる。それこそ命を削ってでもだ。
素体となった大刀も、もしかしたらその能力から元々血を求めるように出来ているのだろう。
つまり3つの餓えを内包し無尽蔵に求めるのがこの大刀・餓鬼の本質であり全てだ。
他の魔法や魔力を消すとかはコイツの能力の結果に過ぎず、喰った魔力を俺へと回すのはコイツが1度に喰い切れなかった余剰分が流れてきただけの副次的な効果だ。
身体強化が魔力消費無しに行えるのは、恐らく基となったピュアオーガの影響なのだろう。だがこれも、コイツがある程度魔力で腹を満たしていなければ発動されない。
しかもどうやら、コイツの能力はそれだけじゃない。
だが、それも結局は魔力を喰いある程度魔力で満たされてないと使えない能力だ。
何もかもが魔力を喰うことから始まる。
もしも刀身が折れたなら、刀身に血を与えれば復活するし、切れ味が落ちることは無い。しかしそれも、魔力が無ければ回復はほぼ微々たるもののようだ。
そして、今簡単に余剰分を貰ってかつてないほどに腕輪へと魔力が溜まって行っているが、それは第四の竜、空間のラウムが行使した魔法だからこそだ。
これが例えば学園の生徒や冒険者の魔法士であれば、腹を満たすか満たされない程度で余剰分が発生したりなんてことはしないだろう。
あくまで空間のラウムほどの存在の行使した魔法だからこそだ。
その事を重々承知しつつ、迫り来る魔法は一薙で喰らい、尻尾は身体強化をして軽く避け、そして間合いに入ったところで餓鬼で斬り落とす。
餓鬼の基となった柄や、普段使っている刃物ではまず傷が付かないであろう尾が、まるでボロ布を切るかのように容易く斬れた。
絶叫が鳴り響く。
当然その絶叫はラウムによる物だ。
ラウムは絶叫しながら、またも魔法数えるのも馬鹿らしいほど展開し、その合間にたまに自身の鱗を剥いで投げてくる。
どうやらラウムの戦い方は魔法で牽制し、その尻尾や鱗などの物理的な攻撃で攻めるというものらしい。
ドラゴンの姿になってからずっとそうだった。まずは魔法。次に致命になりそうな攻撃。ラウムの攻撃はこれの繰り返しだ。
だから読みやすく、その牽制の魔法をどうにかしてしまえばあとはどうとでもなる。
襲い来る魔法を餓鬼で喰い散らかすことで無力化し、少し遅れて迫り来る鱗は左手を翳して指輪の中へと収納する。
そして第二陣が来る前にラウムとの距離を詰め、ラウムの角と顎以外の全ての核を喰い尽くす。
「『キサマァ!!』」
「語彙力が死んでるぜ空間のラウム。アンタの今の様子を見る限り、アンタはアレだな。甘やかされて育ったガキみてぇだな。だから自分の思う展開にならないからそれほど苛立つ。傲慢な貴族の子息達に多い傾向だ。
なんだ、第四の竜とか空間のとか名前の前に色々付いてるが、結局中身はガキなんだな」
わかりきった安い挑発に返って来たのは魔力の光線とも言うべき奔流だった。
流石に不味いかと思ったが、焦らず餓鬼を突きを放つように構えて、身体強化と餓鬼の強化を全力で行う。
主導権の奪い合いの時に、纏うように使った際の魔力は吸わないようにと調伏済みだ。
準備が整った直後、魔力の奔流は餓鬼の剣先へと到達する。
途端、信じられない速度で魔力が俺の中へと入ってくる。それこそ今の状態で強化を行っているのにも関わらず、すぐに全ての魔力が俺の総魔力量の5倍10倍と溜まって行くほどに。
奔流を受ける餓鬼か、あるいは俺の腕そのものかがそのあまりの魔力の質と量に悲鳴を挙げてるかの如くガタガタと震える。
餓鬼からすれば誕生早々良い迷惑だろう。
だから回復した魔力は直ぐ様腕輪へと送り、それでも処理しきれない分は左手の先に魔力球を作りそこに魔力を送り続けることでなんとか処理速度を上げる。
それでも足りないから、体の周囲にいくつも魔力球を作り出し、そちらにも魔力を送り続ける。
今の俺は言うなれば関所の門だ。
送り込まれる魔力は関所に集まる通行者で、その数は留まることを知らない。
門は餓鬼だ。門が受け止め、そこに常駐する兵士が俺だ。
これをやらねば死ぬ。だからこそ死に物狂いで魔力を何かへ変換し続け、必死に堪える。
そうしてどれほど時間が経ったかわからないほどの後、魔力の奔流の勢いが落ち着いて来たところで、逆に待機させていて魔力の処理に使っていた魔力球を一斉にこの奔流の先目掛けて発射する。
発射した物がどうなったかなんてことはわからない。
だが、確実に当たったのだろう。完全に魔力の奔流が俺から逸れた。
それは俺にとって好機の何物でもない。
だから何も考えず、どれほど強化されたかわからない身体強化のまま前へと駆ける。
直後、餓鬼ごと壁に勢いぶつかり埋まる。しかしそれで止まる事はなく、壁というかその奥の地面ごと勢いのままに掘り進んだ。
どうなってこうなったのかなんて考えるまでもない。
強化した結果を俺が制御出来なかった。ただそれだけだ。
しかしこの激突である程度調子は掴んだ。
だから直ぐ様地面から脱け出し、恐らく宙に飛び上がり俺を探しているであろうラウムを見付ける前に見付けられる前に地面を走って次また奔流の狙いが定まらないようにと掻き乱し、ラウムを視界に捉えると同時にラウム目掛けて空を駆ける。
足場は今散々有り余ってる魔力で水球を作りそれを蹴った。
そして地面のようにラウムの周りを駆け回り、ラウムが対処しにくい真後ろに着いたと同時にラウムの角目掛けて突貫する。
彼特有の視界で捉えたのだろう、ラウムがこちらを向く。
「『キサッ』」
「まずは1本貰うぜラウムゥゥ!!」
俺達の距離は完全に無くなり、遂に俺の刃が
「はい、ストップ」
ラウムの角を斬り落とそうとした瞬間、魔王が餓鬼の刀身を摘まんで、ついでに俺の体も片腕で受け止め、無理矢理止められた。




