VS第四のドラゴン空間のラウム
翌朝、俺に色々と竜人族や彼等の技術を教えてくれたヒロィクリという人族でいう40代の男や、彼を含めた大勢の竜人族は数日寝なくても大丈夫らしく、普通に各々の普段の生活をやり始めた。
家畜の餌用の畑の世話をしに行く者達、食べ物の為に狩りに出掛ける者達、ヒロィクリのような鍛冶士にあたる者達はあのドラゴンが寝ていた洞穴の在る山へと鉱物を採りに出掛けた。
この集落には未成年は居ないらしい。最低でも人族の20代後半の者達しか居ない、それどころかそもそも出生率も低いらしく、もう100年は新しく子供は生まれていないらしい。
人族の俺からすれば途方もない話だ。
そんな彼等が各々の作業の為に出掛けたあと、俺、魔王、そしてドラゴンは魔界の城の地下へとやって来ていた。
理由は単純で、この地下に在る闘技場ほど訓練をする場所として最適な場所は他に無いからだ。
じゃあ最初からドラゴンをこの場に連れて来ていれば良かっただろって話だが、魔王曰く俺と竜人族を会わせたかったらしい。
それを言われて納得した。確かに彼等との邂逅は俺にとって昨夜だけでも途轍もないほどに有意義な出会いだった。これから俺が欲しい物を自分で作り出せる可能性が有るんだ、それに新しい武器まで手に入れた。
魔王の目論見通り、彼等との出会いは確かに俺の確かな糧となった。
閑話休題。
さて、そんなことが有り、今俺は人型になったドラゴンと対峙している。
魔王の説明ではいつも通り、人の姿のドラゴンと戦うということなのだが、対するドラゴンが物凄く緊張しているようだった。そのせいでマトモに動けるのか不安になる。
しかし、魔王が今の俺の相手として選んだんだ、信じることにした。
「えーと、名前なんだっけ?まぁ良いや人間君。天魔さんの命令でしばらくの間は我からうぬへ仕掛けることは禁止されている。
故にうぬの好きな時に仕掛けて来い。うぬの攻撃全てが無意味であることを示そう」
対峙したドラゴンからそんなことを言われる。
確かに、魔王より長い時を生きている彼からすれば、10数年しか生きていない人族なんてクソガキ同然だろう。
それは事実だ。そして彼の言葉通り、今の俺の攻撃の一切は彼へと届かないのかもしれない。それは認めよう。
だから、まずはそんな余裕綽々な彼を驚かせることを目標に動こう。そして最後には、命に届かないまでも、最低でもちゃんとしたダメージを与えられる一撃をお見舞いしよう。
そうやって、自分の中で最終目標と喫緊の目標を定める。そして深呼吸した後、右手にあの柄を、左手に大刀を構える。
「征くぞ」
「いつでも」
気の抜けたような返事を聞き終えると同時に、俺は叫んだ。
「『何もするな』!!」
叫んだ直後、左手の大刀をドラゴンへ向け投げ先制とし、その間に柄へと魔力を流しながら大きく跳び上がり、両手で柄を握って呑気に突っ立ってるドラゴンへと振り下ろす。
柄はドラゴンとの距離が近付くほどに姿を変え、最終的には昨日見た魔王のあの大鎚に似た形状に固定される。
そんな俺の2つの攻撃を、「面白いなぁー」の一言で済ませ、簡単に動き簡単に大刀の柄を握ったドラゴンは、迫る水の大鎚へ大刀の切っ先を向けた。
魔王相手に5秒は持った筈の俺の切り札も、彼のドラゴン相手には1秒も持たないらしい。
しかし今はこれ以上の攻撃手段は肉弾戦しか存在しない。その為、落ちながら再び叫ぶ。
「『手を開け』!『動くな』!!」
するとドラゴンはアッサリと武器から手を離した。
しかし動くなという命令は一瞬しか効かなかったらしく、「器用だなぁー」などと呟きながら、大刀のことなど無かったかのように俺へと右の手の平を向け、そして、
「うぬのやってることって、つまりこういうことだろう?
『武器から手を離して、無様に我の作り出す壁に顔面からぶつかれ』」
ドラゴンがそう言った瞬間、ドラゴンの右手の平の先に魔力の透明な壁が構築され、そして俺自身は柄から手を離し、体から力が抜けて、ドラゴンの言う通りこのままでは顔面から落ちることになりそうだった。
普段俺が魔王やピュアオーガなどに対して使っていた魔法が、俺の切り札が、意図も容易く真似されて、しかも体に魔力を回して練ってみても一向に解かれる気配の無い完全な上位互換のようなものだ。
呆気なく真似されたこともそうだし、呆気なく上位互換な効果を出されるし、本当魔王ドラゴンのようなこういう化け物達の相手は嫌になる。
特に自分の矮小さが際立つのが堪らなく堪える。
あぁ、本当に嫌になる。
だから少しでも衝撃を緩和するようにと、頭周りの皮膚や骨や筋肉を重点的に身体強化し、衝撃に備える。
そしてある種の覚悟を決めた直後、唐突に体の自由が戻ったのを感じた。
壁は目前のため、直ぐ様体を捻り脚から着地し、俺に追い付いた柄がちょうど手の届く範囲へと落ちてきたため落ちる柄を宙で掴んで、即座に柄尻からランス型の水の穂先を生やして落下の勢いを利用して目の前の壁へと叩き込む。
そこで体の自由を奪われてから初めてドラゴンと目が合ったんだが、何故だかドラゴンは目を大きく開いて驚いた様子だった。
何故驚いているかはわからなかったが、最初から気を抜いているのなら好都合と、指輪から金槌を取り出し、それも壁へと打ち付ける。
右、左、右、左。交互に壁を殴り、ちょうどランス型の穂先が壁を打ち付け、金槌が振り上げれたタイミングで壁が割れた。
それを認識したと同時に、金槌を持つ腕を振り下ろし、勢いが全部乗るタイミングで金槌を手放した。
至近距離で振り下ろされた金槌は普通にドラゴンの額へと当たり、そこまでしてようやく驚きから回復したらしいドラゴンは続く俺の、ランス型の穂先から短剣の刀身へと姿を変えた柄のその刀身を、2本の指で掴んで防いだ。
「いやぁー、驚いた。まさか俺の言葉が破られ……ちょっ、おいおいマジかよ」
掴まれたと認識したと同時に足の裏に、クソ野郎との模擬戦の時のように水球の足場を作ってそれを蹴り、掴まれたその腕でドラゴンの首を絞めるように彼の背面へと回り、柄の刀身を掴む右手の手首を左手で掴んで拘束し、柄の刀身を消して再び短剣の刀身へと形成し直しそのうなじ目掛けて右手を振り下ろす。
「流石にそれは少し痛そうだ」
しかしそれも、見えていない筈なのにもう少しで切っ先がうなじに届くというところで拘束している筈の右手の指で再び掴まれ防がれた。
「いやはや、魔力が少ないから大したこと無いだろうと高を括ってたが、うぬ、なかなかやるな」
そして平然と俺の体ごと拘束する腕を前面へと戻し、右手を捻って俺の手から柄を手放させ、足許へと落とした。
俺はと言えば、柄を捻って手放させられた時にはその見た目からは考えられないほどの力によりこの闘技場の壁の方へと投げ飛ばされて、なんとか足から壁に着地しそのまま地面に着地したところだった。
「天魔さん、こんな掘り出し物何処で見付けて来たんですか?こんな愉しそうなの他に無いんですか?」
「良いだろう良いだろう!サースとは約1年前に会ってね!
まぁその話もまた今度しよう」
「約束ですよー」
呑気にそんなことを話している横で思考を巡らす。
ドラゴンの俺の切り札のような言葉と、今の攻防で計れたドラゴンとの差と、そこから導き出せるドラゴンに一撃入れる方法を。
彼等が呑気に話をしている間に、とにかく頭を回転させる。




