呆然
目が覚めると周囲を観察したところ先程と同じ場所だった。あの広い空間の壁際で寝かされていたわけだ。
起き上がり周囲確認の際に視界に入ったこの空間の中央を見る。
そこでは先程ドラゴンだと認識した大きな魔物と大槌を構えた魔王が居て、ドラゴンの方はその大きな体を縮こまらせて人間で言う正座をしており、魔王はその前で大槌の素振りをしていた。
大槌は毎回ドラゴンの顔スレスレで振り回されており、いや、完全にドラゴンの鱗を撫でていた。
「魔王」
近付きながら魔王へと声を掛ける。
するとこちらに振り返らず片手だけを挙げて返事を返してきて、無言のままドラゴンの鱗を大槌で撫で続ける作業に集中していた。
一瞬ドラゴンと目が合う。
その目は正に「助けてくれ」と言っているようだったが、目が合った瞬間にドラゴンの横っ面を大鎚の一撃が襲った。
「なんで俺から目を離したんだい?俺の怒りは取るに足らないとでも言いたいのか?」
「『いや、そういう訳では』」
「じゃあなんで目を逸らしたのかな?まさかサースに助けを求めた……なんてことはないよね?」
「『いや、あの、はい。そういう訳ではないですはい』」
「サース。そもそも何故こうなっているのかの説明をしてあげよう」
何やら二者間でやり取りをしていたところに、急に魔王が俺へと話を振った。
しかしそれは俺の返事を待ったものではなく、あくまで現状の再確認のためという風だった。
「そもそもの発端は『サースを鍛える』、これの為だけに旧い知り合いであるコイツの許を訪れたのがキッカケだ。
ほら、少し前にダンジョンに連れて行っただろう?あの時サースが中で頑張ってる時にここに訪れたんだよ。
その時にコイツに、近い内に俺の友人を連れて行くからその時は絶対に起きてろよって言ったんだ。
なんなら昨日も言いに来たぐらいなんだ。なのにコイツは寝ていた。
サース。コイツはね、世界に4番目に発生したドラゴンなんだ。
俺より長く生きてるんだよ。俺と会ったのは俺が魔王として魔界に降り立つ少し前、人間達風に言うとまだ親元に居た頃だ。
その時コイツはね、俺に喧嘩を売って来たんだ。
純粋なドラゴンというのは生殖機能を持たず、世界に一個体しか存在出来ない、そういう生物なんだ。
喧嘩を売ってきた理由を聞けばアラミレラーユの匂いがするからというものだった。
アラミレラーユってのは俺の母親の名前ね。
どうやらコイツ、俺の母親に惚れてたんだよ。なのに惚れてる女の匂いが男からしたから逆ギレして襲い掛かって来たんだよ。
まぁ結果は今のコイツの反応を見てくれればわかるよね。
うん。完膚無きまでにボコボコにした。何度も殺し、何度も再生して、何度も何度も破壊と再生を繰り返した。
コイツ等発生したドラゴンは破壊属性でないと殺せないから、何度も生物的死を与えるのは楽だったよ。
その結果色々有って俺の舎弟になったんだよねコイツ。
だから君の修行にちょうど良いと思ったんだけど……、なァ?」
「『ヒッ、』」
魔王の語りから、ドラゴンは悲鳴を漏らしたかと思うと急に光り始めた。
そして光が収まると、そこには皮膚以外全身空色をした一見男に見える奴が居た。
「本当にこの通りです。許してください」
その変化を見て言葉を失ったのは仕方がないと、誰にするわけでもなく言い訳を胸の内で漏らした。




