▼side Another act4:休むとは
ある日の事だった。サースは魔王から唐突に「たまには体を休ませないと鍛える意味がないよ」と言われた。
どういうことかと問うたサースに、魔王は何でも無いようにこう言ったのだ。
「脱力から繰り出される一撃ってヤツは凄まじい威力を誇るだろう?相手を思いっきり殴る時、1度力を抜いて拳を構え直すだろう?冒険者は依頼のあとほぼ確実に酒を飲んで楽しむだろう?
全て同じさ。全て、次を進むために1度力を抜くんだ。
サース、君にはそれが出来てない。君の中では『休む』というのは大罪そのものかもしれないけど、それでもやっぱりその張り詰めた糸を緩めてやらないとダメだ。
君は総帝君に、学生の間に勝つという目標のためにその後の人生まで使ってそうなぐらい無理してるけど、君の人生はその後も続くんだ。
あぁ、何を言いたいのかもわかる。気を抜くのは彼に勝ってからでも良いって言いたいんだろう?
それもわかった上で言ってるんだよ。
サース・ハザード。
君は勝ちたいんだろう?ならまずは『休む』という修行をしろ。
休まないなら見込み違いと、もう魔界には連れて行かないし、君を鍛えることもしない」
サースがそう魔王に告げられたのが昨夜寮の部屋に戻る直前。
そうして朝目が覚めたサースだったが、逆に何をすれば良いかわからず自室で茫然としていた。
サースの中で、魔王の言葉がまるでエコーのように反響し繰り返される。
物心ついて数年の間は年相応にやりたいことを体力の続く限りやって、疲れたら寝る。そんな生活をしていたような記憶が有る。しかし自分の生きる目的を定めたあの時から、自分に休む暇など無かった。
だからこそ、休むと言われても何をすれば良いのかわからなかったのだ。
「……考えても仕方ないか」
そう呟くと、サースは身軽に動ける格好に着替えて、いつもの最低限の走り込みと魔王を想定したシャドウを行うために外へと出た。




