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魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺  作者: 荒木空
第三章:亀裂
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▼side Another act2:絶頂するかのような興奮


 「俺の事か。良いよ、教えてあげよう」



 魔王は玉座の肘掛けに肘を着いてその手に顔を乗せるという態勢から反対向きに着き直し、まるで聞き分けの悪い子供に言い聞かせるように静かに語り始めた。



 「俺の事を語る上で1つ、どうしても話さなければならない事が有る。それは、俺が人界の存在じゃないって事だ。


 俺はね、魔界に生まれた最強と天界の上位者との間に生まれた天魔の魔王だ。

 君達に分かりやすく言うならば、冒険者の頂点でありやりたい放題やっても黙認される、誰も何も文句を言わないほどに強い冒険者と王族であり王の娘である姫との間に生まれたって言えば君達にはわかりやすいかな。


 生まれた俺の使命は魔界の統治者として魔界を護る事だ。だから俺は魔族達の王であり、魔界の王であり、魔族と天族との間に生まれた魔族の色が色濃く出た存在。それが俺だ。


 魔族とは何か、天族とは何かについては語るのを控えよう。君達の次の質問が変わってしまうかもしれないからね。


 俺の使命が魔界の統治であるなら、何故人界に干渉しているのかだけど、それはただの俺の趣味。

 それぞれの世界はそれぞれの世界に渡る為に欠かせない決まりが有る。君達にわかりやすく言うなら、国家間を移動する時の取り決めみたいな物かな。

 その取り決めが壊されないように、ついでにその時に面白い人間を見付けて見守る。それが俺の趣味だ。今は言わなくてもわかると思うけど、サースだね。


 後は、そうだねぇ…。何か聞きたいことは有るかい?これは3つの質問の内に含めないでおくよ。俺から聞いてるからね」


 「…………」



 炎帝は再び思考速度を上げて考えた。

 魔王からもたらされた情報が既に彼のキャパシティオーバーだったからだ。


 ショートしかけの脳を必死に回転させ、回転させ、回転させ。

 考え抜いた末に彼は、我が子に委ねる事にした。

 投げたとも言う。



 「お前は魔王殿の事について何か聞きたいことは有るか?」


 「私…、ですか……。そうですね……」



 ウォイムは振られて1つ考えると、すぐに聞きたいことが見付かったらしい。魔王に問い掛けた。



 「貴方様から見たサースはどのように写っているのでしょうか?」



 ウォイムの質問にキョトンとしたカオをした。

 そしてすぐにいつものニヤニヤした笑みをし、その笑みを獰猛な獣を連想させるような笑みに変え、声高々に、それはもう愉しそうにテンション高く語り始めた。



 「サースかい?彼の事がどう写ってるかだって?


 最高以外に言葉は要らないさ!!

 彼はイイ。本当にイイ!この廃城がまだ現役の頃から変わらない君達ニンゲンの中で唯一無二の存在だと言って良い!!


 彼は元々英雄として生まれた存在だった!なのに我が愚妹の浅慮故に運命と力は歪められ、本来持ち得る筈だったあらゆる力が彼の幼馴染みへと流れた!

 しかも愚妹はあろうことか禁忌である破壊属性まで与えてだ!!


 だが彼はソコで折れる事はなかった!!

 むしろ奮起し、自分を蔑ろにし続けた身内や周囲の人間達全てを見返そうと足掻き続けてる!!その足掻きが正に命を削る諸行で、それを自覚しているのにも関わらず彼は己を高め続けてる!!

 彼は正に英雄だ!その在り方が英雄そのものだ!!

 周りに歪められその在り方は英雄ではなく反英雄寄りになっているが、彼の産み出す物は英雄然とした物だ!!その行動や想いは正に英雄然とした物だ!!


 彼の事がどう写っているかだって?俺が女なら、もしくは彼が女なら、添い遂げたいと思うほどに彼は輝かしい!!

 良かった。本当に良かった。俺達が男同士で、俺に男や女の概念が無くて本当に良かった。でなければ俺は今頃、君達の国を彼と出会ったあの日に滅ぼしてるところだった」



 魔王の口から語られた彼の内心は、それこそ狂気を孕んだものだった。そのぐらい圧が強かった。

 それこそ質問したウォイムですら気圧され、何より引くほどに魔王のテンションは物凄く高かった。

 そして彼から語られた事実と彼から漏れ出した魔力を感じて体が寒くなった。


 炎帝フレイル・エンラジーの見立てでは、己達帝や残り2国の精鋭達全員で完璧に連携したとしても、魔王のにはその一撃のみで全員が死ぬ。それほどの格の差が有るという認識だった。

 その彼が自国に牙を剥いていたかもしれないという事実に、久しく感じていなかった死を強く感じ、久々に恐怖に体が動かなくなった。


 隣に居るウォイムは父フレイルとは違いソコまでの差を感じるまでには到っていない。しかし彼の怯え具合を見て魔王の言葉が口だけではない事を察し、体を震わせた。

 しかしそれ以上に、魔王の中のサースという存在の大きさが気になった。父から聞いていたサースの過去は今魔王の口から触れられた。総帝の破壊属性に関することも軽く触れられた。そして魔王の口振りから総帝の件を聞くのは難しいであろうことも察した。


 だからウォイムは、それこそ絶頂しているかの如く興奮している魔王へ質問した。



 「それほどまでに、サース・ハザードに惚れ込んでいるのですか?」



 ウォイムの質問に、目をギラつかせて散々興奮していた魔王のテンションが一気に冷めた。何を当たり前の事をとでも言ってるかのように。



 「そう言っただろう?彼が望む事は何でも、俺の全てを持って叶えてやりたいと思うほどに彼は素晴らしい。

 あぁ、君達風に言うなら、俺はサースという神を信仰する信徒のようなものだ。狂信者と言えるほどにサースに惚れ込んでいる。それがどうかしたのかい?」


 「……いえ、とても、とても参考になるお話でした。質問に答えていただきありがとうございます」



 ウォイムはソコで、隣で怯える父へと視線を送り、1歩下がってその場に傅いた。

 態度で示しているのだ、「これ以上自分は聞くことがない」と。


 息子のその態度に、フレイルは心の内の自身を叱咤した。

 自分が恐怖に震えている間に、息子があのすぐに殺されても文句は言えないほどの興奮時に水を差してまで得た情報はかなり大きい。息子がそれだけ頑張ったのだ、自分がここで頑張らねばどうすると心を奮い立たせた。


 そして冷めた眼で自分達を見る魔王へ、実質最後の質問だと思いながら、彼は残った最後の質問をすることにした。



 「魔族とは、いったいなんなのですか?」



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