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魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺  作者: 荒木空
第三章:亀裂
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▼side After act1:答えは……、


 レオポルド、ストゥム、ウィンター、グリーランの4人は学園の風紀会室を閉鎖して、重々しい雰囲気で話し合っていた。


 彼等の議題は彼等の学友であるサース・ハザードについてだった。



 彼等のサースへの共通認識は『狂った天才』という物だ。

 彼の知識は4人の誰よりも多く、詳細で、自分達より圧倒的に物を知っているのは当然だった。

 その肉体についても同じことが言えるだろう。その肉体は獣人族たるレオポルドやグリーランの2人を相手にしても、身体強化の魔法を使わず互角以上に渡り合える傑物だ。

 魔法についてもそうだった。ストゥムとウィンターの2人はエルフ族で一般的には魔法が得意と言われている。その例に漏れず、2人も魔法が得意だった。しかしサースを前にすれば、自分達がどれだけ決められた枠の中に居るのかと痛感させられる日々だった。故にストゥムは近接戦闘をサースやレオポルドから学んでいるのだが。

 魔法薬学の知識についてもそうだった。これは特にウィンターとグリーランの2人が脱帽したことだったが、サースは道具と適した草さえ有ればその場で何でも作り出してしまうというのが彼等の認識だった。特に最近ギルドに卸されている魔力回復ポーションをサースが産み出したと聞かされ、そして使ってみれば、どれだけ彼の魔法薬学への知識の深いかがわかった。

 この件についてはレオポルドとストゥムも同様で、レオポルドは最初薬草の臭いが鼻にキテ受け付けなかった。しかしストゥムと向かったギルドの依頼先で、ストゥムがサースから教えられたという薬草の知識で大事に到らなかった経験が有った。その為それ以降レオポルドは毛嫌いせず、自身の知識を増やそうと獣人族の皇子にも関わらず草弄りの知識を日々身に付けている。ストゥムに到っては言葉にしなくともサースの知識の深さを痛感していることだろう。


 そんな天才は、戦うことと強くなる事への執着が常軌を逸している。狂人と言われれば全員が首を縦に振るほどに、彼の強くなることへの執着は怨讐と呼べる物だった。


 故に『狂った天才』という共通認識が彼等の間には存在していた。後は各々が個人的に思っていることは有るが、ここでその話をするのは違うだろう。



 では何故彼等4人は今、学園の風紀会室で集まっているかと言えば、それは先日行われたサースとの決闘紛いの件で集まっていた。


 時はレオポルドとストゥムが、サースから普段どんな修行をしているかを聞き出した翌日だ。

 本来であれば休日に学園の施設を使うことは基本的に禁止されているが、ウィンターの風紀会員の力を使ってゴリ押しただった。


 彼等が今、重々しい雰囲気で話し合い、そして黙っているのは、サースの正気を疑うような、妄想としか思えないような修行内容をレオポルドとストゥムの2人から聞かされたためだった。

 レオポルドとストゥムの2人も、改めて自身の口から話したことでその異質さを実感し、話し終えた後は黙ってしまっていた。


 4人の間で沈黙が静寂を奏でる。

 そんな沈黙の演奏を止めたのはレオポルドだった。



 「我々は、」



 レオポルドの呟きに3人が視線を向ける。

 それを待ったのか、それともただ言葉を紡ぎ出すための間だったのか、レオポルドは3人の視線が集まったタイミングで言葉の続きを話し始める。



 「我々は、いったい何がやりたいのだろうな……」



 その独白に、返答出来る者は居なかった。

 指摘されて彼等自身が気付いたが、各々が何故今自分がこの学園に通っているのかを見詰め直したからだ。


 ストゥムは王太子として、そして将来の臣下や民の為にとこの学園にやって来た。しかしそれは表向きの理由で、それは父親である国王や国王の臣下たる宰相を始めとした大臣達の決定によるものだった。

 ストゥム自身、国の外に興味が有ったから素直にその決定を受け入れ入学したが、ストゥム本人としての目的はなんだと問われれば答えることは出来なかった。


 ウィンターはストゥムが翌年にこの学園に入学するため、ストゥムが困らないよう地盤固めをすることを目的に1年早くこの学園に入学していた。目的は達成され、実質的に学生達の1番上とされる風紀会の長の地位に座ることが出来た。

 本人にもそれが自分の使命と考えていたし、その使命は達成されていた。だから後は卒業までこの状態を維持することが己の今の使命だと考えていたし、その考えは今も変わっていない。

 しかし本当にこのままで良いのかと考えていた時に出会ったのがサースだった。だからこそ、彼の怨讐とも言える目的が理解出来なかった。だから否定したいがためにストゥムとレオポルドに協力した。だけど今はそれで良かったのかと悩んでいる。だから即座に返答することが出来なかった。


 一方、エルフ族の2人と比べてグリーランはこの件については自身の中で答えが出ていた。

 ウィンター同様学園に入学した目的は一緒だったし、獣人族と比べれば肉体的に劣る人族の用いる技術は目を見張る物が有り、今の目的はレオポルドを補佐しつつ自身が身に付けていない技術を手にすることに従事していた。全ては実の父がマハラ帝国の戦士長の地位を退いた時、その座を引き継ぐ為に。そして祖国の為に。

 だからこそ彼等の悩みはわかる部分も有るが、基本的には理解出来ない物だった。彼からすれば、目的が無いのなら自らそれを見付け意味を見出だしそれに従事れば良いと考えているからだ。

 でも、だからと言って、他人が悩んでいることについて自身が口を出すほど烏滸がましいことはないと弁えてもいた。だから彼はこの場で閉口していた。


 そして言葉を発したレオポルド自身は、この3人達と比べて最も大した理由も無くこの学園へと入学していた。

 ウィンターやグリーランのように使命が有って入学した訳でもなく、ストゥムのように祖国の為に知識を身に付けに来た訳でもなく、ただマハラ帝国以外の国に行ってみたいという想いだけでやって来ていた。

 レオポルドは皇帝を継ぐ継承権が下から数えて4番目の皇族だった。だから比較的甘やかされて育ったため、この入学も彼の我が儘により叶えられた入学だった。

 だからこそ、必死に何かを為そうとする友人に、話したことはないが必死に学ぼうとするクラスメイトに対して、まるで置いて行かれているような焦燥感を日々感じていた。

 だから1番身近な友人であり話しもするサースに、何がそうまで彼を頑張らせているのかを知りたくて聞けば、返ってきたのは拒絶とどうしようもない現実だった。

 故にレオポルドは悩んだ。悩んで悩んで、そうしてわからなくなった。それが溢れ出したのが先ほどの独白だった。彼は今、かなりネガティブになって頭を悩ませ何が正しいのか、何が良いのか悪いのかまでわからなくなるほど迷走していた。


 だから、



 「1度、解散にしませんか。俺は既に答えは出ていますが、レオポルド様やストゥム殿やウィンターはしっかり考える時間が必要だと思う。だからこそここは一旦解散し、今胸に抱えるその問題の答えを出すことを宿題として、時間を掛けてジックリと解いて行くのは如何でしょう」



 既に答えの出ているグリーランが口を開いた。

 これ以上今答えを出そうとすれば、答えは絶対に出ないだろうと判断したから。




 グリーランの言葉で解散となった彼等は何も答えが出ることも無く、各々の寮の部屋を目指して足を進める。


 答えの無い自分の答えを出すために。



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