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魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺  作者: 荒木空
第三章:亀裂
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「……やめよ」


 転移し玉座の間で待っていた魔王に遅れたことを謝ろうとしたら、いつにも増してニヤニヤしていた。そのため口を噤み、逆にジッと睨んだ。



 「なんだよ」


 「別にー?ただ、やっぱりサースは優しいなって」


 「うるせぇ」



 謝る気は失せ、代わりに純粋な魔力の塊を作り出しそれを魔王へ向け放った。


 いつもの訓練の開始だ。



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



 いつも通り魔王にボロボロにされて石床に寝転がる。

 当然起き上がる体力も喋る気力も無く、ただただ体力とスタミナが起き上がれる程度に回復するのを待つだけの時間。


 もう何度もやっているからわかっている筈なのに、いやだからこそか。だからこそそれでも構わず魔王は近付いて来て俺の隣に尻を着けず座り込み、回復を待つだけの俺の頬をつついて遊び始めた。


 抗議しようにも口を動かすことも手を動かすことも出来ないほどに疲れてるため、抗議は睨むことしか出来ない。だから睨めば、彼はニヤニヤした笑顔のままより一層俺の頬をつついたり首や心臓の辺りを指で触りまくった。


 この行動、実はかなり厭らしい物だったりする。

 最初の頬を突くのは何の意図が有るかはわからないが、首や心臓の辺りを突くのはそのままの意味だ。

 要するに魔王風に言うなら、『今なら簡単に殺せるけどそんな無防備で良いのかい?』という意味だ。


 魔王はたまにこういう遊びをやってくる。

 ここで言葉でも動きでも良いから反抗しなければ、本当に殺されると勝手に思ってる。魔王は良くも悪くも人間ではない。人間を理解して人間のように振る舞えるのが魔王だ。

 つまり今こうやって出て来ているのは魔王の人間ではない部分だ。魔王の人間ではない部分が何かを無茶苦茶にしたい時に出る部分だ。


 だから無理矢理、本当に頭を動かす程度しか回復していない体を動かして、つついて来る指に噛み付き噛み千切ろうとした。



 「おっと危ない」



 そんなこと一切思っていないだろうにそう宣った魔王は、満足したように玉座へと戻り、そして座った。


 こうやって満足した魔王は俺への興味を失くしたように離れて楽しそうに何かを考え始める。

 そうなれば今度こそ体も心もしっかり休められる。


 当然起き上がれるまで体をゆっくりと休めた。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 そこまで書き終えたところで筆を置き、固まった体を伸ばしてほぐす。


 こうやって自分の軌跡を辿るのは、章で言えば3章目だ。思い出しながら書いているため所々抜けが有るだろうけど、大筋は変わらないのは確実だ。



 「そういえば」



 3章を書くにあたって思い出した魔法薬学の本を取り出す。



 「懐かしいな……」



 内容は今ではもう確認する必要の無い物に成り下がったけど、それでもこうやって自伝を書く上で肝要な部分というのはこの本を書くことで学んだ。

 この本を書いていなければ、今頃自伝なんて書こうとすら思わなかっただろう。


 これを書き始めたのは自分の作るポーションや考えを纏めて、後で読み返す時に何かの役に立てばぐらいの気持ちで書き始めたのがキッカケだ。

 それが今や自伝を書くまでに至ってるんだ、本当に人生というヤツは何が有るかわからない。



 「………………」



 3章まで書いたことで、ふとあの廃城にもう1度行ってみたい欲に駆られた。


 今現在俺達魔界の住人は任意に人界に転移することは出来ない。理由は簡単で、1年前にユーシャサマが人界とそれ以外の世界を行き来するためのシステムをぶっ壊したから。

 本人を含めた人界側の人間のほとんどはこの破壊を魔王のせい、つまりマー君のせいだとしているらしいが、マー君やこの前魔界に来た天族の人曰く原因はユーシャサマの破壊属性が原因だそうだ。


 今でこそマー君、それに天族の人達から世界の真実というヤツを聞かされて、ユーシャサマをクソ野郎と呼ぶことは止めたけど、それはそれとしてやっぱり気持ちの良いものではない。


 今現在、もしもそれぞれの世界から人界へ行こうと思えば、連日ユーシャサマが出張って戦い続けてるあの場所へと強制的に辿り着いてしまう。

 そして哀しいことに、今の人界は一緒に肩を並べる者以外は全て魔族と断定し、女も子供も老人も赤子も何もかもを関係無く殺し続けてる。もしも普通の異界の裂け目なんかに取り込まれたら、問答無用で殺されるか異界間転移で逃げるか戦うかしか選択肢は無い。


 改めて思うけど、人間って、特に支配者層と呼ばれるような奴等って、大半がゴミカスの集まりだなと思う。

 なんせ今の人界は、ユーシャサマが全てのルールだ。奴が正しいと言えば正しく、奴が間違っていると言えば全てが間違っている。人界をそんな状況に追い込んだ最もな元凶はユーシャサマ自身なのにな。


 本当に嫌な世界になった。

 行きたい所にも行けないし、食べたい物も食べられないし、姿を見せれば魔族だと人種に関係無く襲われる。


 本当に嫌な世界になった。



 椅子から立ち上がり窓の外を見る。

 相変わらず空は赤と黒で覆われていて、しかし明るく、下に広がる街は人界の国都ほどではないけど賑わっていた。

 天族の住む天界や、エルフ族の住むエルフの郷も前に行った時は自然な賑わいで、大体の人間が暗いカオなんてしていなかった。


 天界は違うみたいだが、魔界もエルフの郷も外的脅威は存在している。それこそ市民とも呼ぶべき何の力も無い人達が襲われれば何の為す術も無く殺される、そんな脅威が。


 人界の人間だけだ。人界の人間だけが醜い。言葉にするのも悍ましいほどに醜い。

 なんで人界の人間って、特に人族って、あんなに残酷なんだろうな……。



 「……やめよ」



 考えていたら気持ち悪くなってきた。

 水を創り出し、出来た水球に自作の宝物庫の指輪から取り出した柑橘類の汁を数滴混ぜて、それを吸って飲む。


 口の中に柑橘類のサッパリとした味が広がり、滅入った気持ちがいくらかマシになった気がする。



 マー君が怒りながら宣言した2年後まで残り11ヶ月。

 決戦のその日までに、例え命を削ってでもこの体に宿る総魔力量を増やしておかなければ。



 「3度目だ。マー君曰く三度目の正直という諺が有るらしい。

 その通りだ。三度目の正直だ。今度こそ決着を着けてやる!」



 確かに、昔誓った誓いは叶わなかったけど。

 それでも絶対にユーシャサマに、フォルティス・サクリフィスに、今度こそ言い訳のしようが無いほどまでに、完璧に勝ってやる!!


 その為には、やはり魔力が要る。


 俺は総魔力量が豊富な魔物がよく居る森へと転移した。




 これにて第三章:亀裂が終了となります。

 ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございます。


 この後いくつかの幕間を挟み、その後第四章の更新とさせていただきます。


 今後とも拙作『魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺』の応援を言葉にせずともしていただけると嬉しいです。


 それではまた!



 P.S.拙作の更新状況は@arakikara_creat(荒木空_クリエイト)のTwitterアカウントで発信しております。

 「あれ?今日の更新いつだ?」と成られたら、こちらを確認していただけると嬉しいです。



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