▼side After act1:魔王マクスウェルの追憶Ⅳ
気になる。だから聞いてみよう。そう思い立った。
幸い未だ物は有る。アレとフォルティス・サクリフィスの魂、それにフォルティス・サクリフィスとアレの両方の要素を持った体が有る。
あぁ、今から自分が何をしようとしているのか、それがどれだけ禁忌であるのか。
わかってる。わかってるが……。
そう思ったところで、いつの間にか7大罪達が俺を囲むように立っていた。
目に光は無い。死んでいる訳ではなく、意識が無いだけだ。
魔界の本来の王は、実は存在しない。
天界が『不要』としたモノ達の掃き溜め。それが本来の魔界の在り方だった。そこを俺が乗っ取る形で存在しない王の座に治まることで、俺は愚妹とはまた違う『アレ』の後釜に成るという運命から逃れた。
対して7大罪達は純粋な魔界産の存在達だ。
つまりナディア・ガレリアであり、サー君だ。
魔界が魔界の意思で産み出した力達。それが彼等だ。
「ヤメ……ロ……」
サタンの口を借りて、魔界の意思から静止が入る。
世界が相手なんだ、そりゃ世界という箱の中に発生しようとしている禁忌は止めるよね。
「断ると言ったら?」
「」
返答は返って来ず、代わりに7人同時に襲われた。
サタンからは嚇怒の炎を纏った拳が。
ルシファーからは傲の雷を纏った蹴りが。
マモンからは闇を纏った医療用に使われるメスのような爪が。
レヴィアタンからは蛇の姿に変わった彼女の水を纏った牙が。
アスモデウスからは光を纏った蠍の尾が。
ベルゼブブからは風を纏った掌が。
ベルフェゴールからは土のウェーブが。
7つの攻撃が同時に俺を殺す為に差し向けられた。
実はそれぞれが彼等の必殺の一撃だったりする。当たれば必ず死ぬ技。つまり必殺技。当たれば例え俺でもただじゃないだろうさ。
当たればの話だけど。
「『抵抗を止めろ』」
一言そう言い放つ。それだけで彼等はその場で手を上げ腹を見せるように直立不動になる。
ベルフェゴールのウェーブだけはどうすることも出来ないから、それだけは破壊属性を纏わせた手で軽く叩いて防いだ。
使ったのはサー君が奥の手と言っていた業。
ホント、良い業を教えてもらったよサー君……。この技術を確立するのにどれだけ苦悩したんだい?俺と出会う前からだろう?
あぁ、サー君のことを想い返すと、よりこの謎を解き明かしたくなる。
だから、
「『世界ごときが俺の邪魔をするんじゃない!』」
まずは世界に言い聞かせないと。
お前が未だその意思を有していられるのは俺の気紛れに過ぎないと。
お前が未だその意思を有していられるのは俺の優しさなのだと。
だから消されたくないのなら邪魔をするなと。
果たしてその返答は……、
「そうだよ、それで良いんだよ」
7大罪達はその場から姿を消した。
文字通りこの世界から消えたとかそういう訳ではない。ただ、彼等が世界からの命令を受けた直前に居た場所に戻っただけだ。
そこで扉を叩く音が聴こえた。
返事をすると、アンガントとアンヴィーの2人が入って来る。
「どうしたんだよ旦那?世界が悲鳴を上げたみたいだが?」
「7大罪達全員が出てくるようなことを為されたようですが、いったい何を?」
彼等は7大罪の運命から逃れた者達。そして2人ともサー君に深く関わったことでその運命から逃れた。
今では俺の純粋な部下。
…………ふむ?
「ちょっとマトモだった頃の俺なら確実に止めるだろう禁忌を犯そうとしたんだよ。で、魔界に止められたってだけだよ」
「……どゆこと?」
「…………」
「ちょっとね。ちょっと、人間1人を生き返らせようと思って」
「……もしかして、あのニンゲンか旦那?あのニンゲンを生き返らせるのか?!」
「いえ、サースは蘇らないわよ」
「ハァー?!なんでアイツ生き返らねぇんだよ!!?旦那の力なら出来んだろ?!」
「えぇ、やろうと思えば出来るでしょうね。でもそれをサース自身が望まないわ。彼が本気で望まないことを魔王様がされる筈無いもの。だから彼は蘇らない……」
「意味わかんねぇ。だったら誰を生き返らせようとしてんだよ?」
「まぁ、見てからのお楽しみだね。アンヴィーはわかるかもしれないけど、アンガントはわからないかもね」
セスフンボスを出す。これも、今やサー君の遺作か……。
そのセスフンボスへ、サー君が最期に使った短剣に封印されたフォルティス・サクリフィスの魂と愚妹に侵食されたフォルティス・サクリフィスの死体を入れて、蓋を閉じる。
そして魔力を流しながらイメージする。俺が望むフォルティス・サクリフィスの記憶と人格を持ったフォルティス・サクリフィス本人を。
明確にイメージをした直後、セスフンボスが強く光った。




