お別れ
「 」
何も言うことは無く、突き刺すと同時に彼女/彼の体は力を失くした。
重力に従うその体は、意識の無い体ということもありとても重い。
短剣を抜いてから左手を離す。
体は文字通り糸の切れた人形のように地面へと崩れ落ち、呼吸の為の胸の運動をすることもなく動くことはもう2度と無かった。
彼女/彼の体を離したと同時に俺も後ろへと倒れ込む。俺は俺で、もう2度と立ち上がることは無いだろう。
「お疲れ様」
マー君がいつものように俺の許に寄って来る。
「ごめん、ここまでみたいだ」
「みたいだね。ホント、偉業だよ……。本当に、お疲れ、様……」
「そんなカオしないでよ。こうなる可能性は前々からわかってたでしょ」
「いやぁ、やっぱり哀しいものは哀しいものだよ?」
「そういうものか」
「そういうものだね」
俺を見下ろすマー君は目を涙で潤していた。
ただ会話の通り、元々俺がここまでなことは前々からわかってたことだったし、俺は俺で俺の目的が達成出来たことに確かな満足感を得ている。
未だ手に握る短剣を、完全に消え掛けの命を燃やしてマー君に渡すように持ち上げる。
「最後まで自分のことを自分で出来ないことが情けないけど、後は頼んだよ」
「勿論。頼まれた」
最期のやりとりをした直後、魔界の存在達や天界の存在達、エルフの郷のナディア達エルフ達や、果てには意外なことに竜人族達の姿やウィリアム・パリスや炎帝やエンラジー達まで、俺が首都の学園に入学してから知り合った奴等が次々に転移してきた。
魔界や天界の存在達はともかく、何故人界の彼等がこんな良い時に転移してきたかは詳細な理由はわからなかったけど、何か理由がわからない時は大抵マー君の仕業だ。
「何をしたのか知らないけど、またツマラナイことやっただろ」
「何が詰まらないのかな?こんな重要なこと、この世界に住む彼等が全く知らないことを許せるほど、俺は懐大きく無いよ」
「この魔王め」
話してる内にナディアが、アンヴィーが、走って近寄って来る。
その後を追うように、何処か怒った様子のアンガントが、戸惑った様子だけど近寄って来る人界の奴等が、そしてそれ等を囲むように他の存在達が、次々に近くに寄ってくる。
たぶんここで何かを言う方が良いんだろうけど、もうそんな余裕は無い。
「マー君」
だから、本当に最期に、大親友のことを呼ぶ。
「何?」
「眠いや」
「そっか、眠いか。じゃあしっかり休まないとね」
「だね」
……………………。
「そろそろ寝るよ」
「……そっか。おやすみ、サース・ハザード。よく眠りなよ」
「おやすみ、天魔の魔王マクスウェル。次に起きたら、その時はまた遊ぼう」
「──ッ。 うん、楽しみにs────」
そこで俺の意識は途絶えた。
短くとも濃い人生だったよ。
次回、エピローグです。




