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魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺  作者: 荒木空
第三章:亀裂
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「1つ貸しだぜ?」


 Twitterでの通知無く更新遅れてすみません。

 言い訳になりますが、やはり戦闘シーンを書くのは楽しく、よっぽどの大事な予定が無い限りついつい時間を忘れて書き過ぎてしまうんですよね。




 先に俺の許に辿り着いたのはレオポルドの方だった。

 レオポルドは普段の授業での模擬戦のようにその肉体を活かした攻撃をしてくる。

 つまりよく知った動きだった。だからいなし、避けて、受け流し、ガラ空きの鳩尾に拳を打ち込み、突き出され戻そうとされる腕と共に自分の腕を突き出して顔面を殴り、股間を蹴り上げる。


 人体の急所と男の急所に攻撃したことで怯んだレオポルドを後衛組の方へ向け蹴り飛ばし、レオポルドに遅れてようやく辿り着き後ろへ回っていたイリコスの背後からの正拳突きを片手で添えるように受け止め、その威力を利用して体を飛ばす。


 イリコスの正拳突きの方向は、今さっきレオポルドを蹴り飛ばした後衛組側で、そこに飛び込み、蹴り飛ばされ立ち上がろうとしていたレオポルドの顔面に着地する。

 そして後衛組の近くに居たエンラジーがチャーラルを守る動きをしたためストゥムの方を向き、レオポルドから降りて彼の体をストゥムの方へと再び蹴り飛ばす。


 蹴り飛ばした勢いのまま体を動かし、地を這うようにエンラジーへと近寄り、顎、胸、鳩尾、腹へと拳を見舞う。

 顎は避けられ鳩尾と胸は防がれたが、腹にはしっかり入り、入った拳を振り抜きエンラジーの体をチャーラルの方へと飛ばす。

 空いた空白の時間に、再び追い付いたイリコスのドロップキックのような蹴りをこれまた添うように受け止め両足首を掴み、グルグルと回転させて、勢いが十分に乗ったと判断したタイミングでレオポルド達の方へと放り投げる。


 放り投げたと同時に、結果は確認せずチャーラルとエンラジーに近寄り、チャーラルの上から退き起き上がろうとするエンラジーの横腹を蹴って起き上がるのを阻止し、エンラジーの体が再びチャーラルの上に重なったのを見てエンラジーの背中に膝落としをする。



 「アグァッ、ガッ……」


 「グッ……」



 エンラジーからは声にならない悲鳴が上がり、チャーラルは2人分の体重と攻撃の重みに唸りを上げた。

 そこで残る3人の気配を背中に感じたため、1度彼等から離れることにした。


 試合開始時点の位置へと戻り、彼等の様子を窺う。

 正直追撃することは出来た。出来たが、膝から感じた感触を思えば一時中断するのが良かったからだ。


 レオポルド、ストゥムの並びとイリコス、チャーラルの並びで奴等は今俺と向き合っている。最大限警戒しているようだが、それを無視して俺は炎帝と魔王の方を見た。



 「1人、明らかに戦闘不能だ。急いで治療しないと一生寝たきりになるぞ」



 指差し指摘した先にはエンラジーの姿が在った。

 彼は必死に立ち上がろうとしていたが、額からは大量の汗を噴き出し顔は白を通り越して青く苦痛に歪んでいた。


 俺の指摘でようやくエンラジーの状態を確認したのだろう、ストゥム達の視線がエンラジーへと向く。そして叫ぶようにエンラジーに駆け寄り、彼の肩を揺すった。



 「ガアッ!!」



 響いたのだろう。一際大きく吼えたエンラジーは、そこで意識を失ったのか完全に動かなくなった。


 それで余計にエンラジーの体を揺すっていたが、それは突如エンラジーを守るように現れた炎によって中断されることとなる。



 「それ以上彼を触るのを止めろ。サース・ハザードの言う通りだ。それ以上彼の体に負担を掛ければ一生寝たきりの状態になる」



 炎帝がそう遮り、水帝は走ってこちらへ駆け寄って来ていた。

 魔王だけは変わらずニヤニヤとしていたが、彼は彼で俺の許へと近付いて来ていた。



 「あーぁ、やっちゃったねサース」


 「確かに最後の1発はやり過ぎだったな」


 「それも有るけど、途中から手加減忘れていただろう?」


 「……うるせぇ」



 魔王の指摘はその通りで、確かに途中から手加減を忘れてアイツ等を倒すことだけを考えていた。

 でも言い訳とわかっているが、俺にも言い分は有る。



 「一応ちゃんと手加減はしていたさ。その証拠にエンラジーはあの程度で済んでる」


 「そうだねー。君が身体強化なんてしていたら、ただの人族である彼は間違いなく死んでいたか、良くて体の肉が無くなっていただろうねー」


 「あぁはいはい。言いたいことはわかってるさ」



 魔王にそう告げ、指輪からスタミナ回復ポーションを取り出して炎帝へと投げる。


 炎帝はそれを見ずにキャッチすると、指でコッチに来いと合図を送ってきた。


 仕方がないため、指示に従い近付けば、投げたポーションが何かを問われた。



 「ただのスタミナ回復ポーションだ。病人や怪我人に飲ませればそれだけで免疫力が上がって長生き出来る」



 免疫力について聞かれたが、無視して未だにうつ伏せで横たわり水帝から治療を受けているエンラジーを見る。

 自分のやった事だし後悔は無いが、やってしまったという気持ちは有る。

 経験は無いが、伝え聞く友達と戯れていたら相手の目に自分の指が入ってしまい一気に冷めるというアレに近いだろう。


 自分の尻拭いをさせることに凄い抵抗感を覚えたが、俺に着いて来て俺の後ろに立っていた魔王に向き直り顔を見る。


 しばらくジッと見詰め合ったあと、魔王は「1つ貸しだぜ?」なんて言って水帝の頭を掴んで明後日の方向へ放り投げた。

 そして片膝を着き、俺の膝が入った辺りに手を翳す。

 すると手の先が白く光り、それは徐々にエンラジーの体全体へ広がり、最後には光は完全に消えた。



 「炎帝君、彼の事はもう大丈夫だ。明日の朝には目が覚めるだろうさ」



 それだけ言うと魔王は俺の方を向き、「じゃあ頑張ってねサースー」なんてヘラヘラした様子で、戦っていた時に立っていた位置へと戻って行った。


 それと入れ違いで水帝が戻って来て、魔王に対してあれこれと叫んでいたが、返答が返ってこないとわかると炎帝に確認を取った。



 「なんなのアイツ!本当に嫌な奴ね!!

 それで?彼の呼吸を見れば何がどうなったか察しはつくんだけど、試合の方はどうするのよ」



 水帝の言葉でストゥム達がハッとする。

 そして俺に怨みがましい眼を向けてくるが、ハッキリ否定してやる。



 「ルールは命を奪うような行為の禁止だった筈だ。エンラジーは一生物の傷を負いはしたが治すアテは有ったし、実際に治った。そんな眼を向けられる筋合いは無い筈だが?


 何より、最初からこうなる可能性だって有っただろ。まさかこうならないとでも思っていたのか?学園の授業のような展開になるとでも思っていたのか?


 甘い。甘いぜ王皇貴族様方。甘いぜ魔力に恵まれた方々。

 力を持ってない奴は形振り構ってられないし、いつだって命懸けなんだぜ?


 エンラジーはわかってたと思うぞ。だから甘いお前達じゃなくてエンラジーを選んだ。お前達は他国のそれも王皇貴族というのも有るが、何よりお前達は本当の命懸けを知らない。そういう奴等は大抵自分じゃなくて身近に居る他人が傷付いてようやく自分の過ちを知って後悔する奴がほとんどだ。マトモな奴に限るが。


 今回のこの戦いも、本当は最初からエンラジー辺りは反対していたんじゃないのか?それをお前達が押し切ったんじゃないのか?あんなルールにしたのはお前達の総意じゃなかったのか?


 お前達責任が付き纏う奴等が決めたことの結果がこれだ。

 自分達の決定を棚上げしてそんな眼で俺を見るのはお門違いだろ」



 そこで1度区切って、炎帝を見る。



 「それで?身内をこんな風にされた審判でありサクラ共和国の権力者でも在らせられる炎帝様?コイツ等の意思次第ではございますが、この後のことはどうされるおつもりで?」


 「………………サース・ハザード。1つ聞きたい」



 溜めに溜めた後、炎帝がそんなことを聞いてきたため「なんなりと」と返す。



 「お前は今の戦いで魔力を使ったか?」



 4人から息を飲むような驚いたような音が耳に届いた。

 それをわかった上で、平然と



 「だとしたらなんですか?」


 「……ストゥム王太子。レオポルド皇子。チャーラル殿。イリコス殿。今の彼の言葉を聞いて、私の身内の犠牲を見て、それでもまだ続きを為されるか?」



 炎帝が厳かな雰囲気で4人へと問えば、4人は蛇に睨まれた蛙のように固まった。


 その反応を見て炎帝は呆れたようなタメ息を吐いた後、「この事は両国のそれぞれのお父君方に炎帝としてご連絡させていただく」と言って俺達から少し離れた。



 「勝負は決まった!此度の戦いの勝者はサース・ハザード!サース・ハザードとする!!

 見物に訪れた者共、早急にこの場から立ち去れ!!」



 俺の勝利宣言と共に、この話この勝負はここで一旦の幕引きとなった。



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