進撃の母親
「本当に仲が宜しいのですね……」
話していると、後ろから小さい声だがそんな言葉が聴こえた。
小声だったこともあり聴かなかったことにしたが、その声はとても驚いてるようだった。
その後も魔王と話しながら進む。
進み、城の中へと入ると、唐突に目の前に女が1人現れ、そのまま魔王の頭を抱えるように抱き付いた。
「お帰りなさい愛しき我が子。母はこれほど短い間に再会出来たことを心より嬉しく思います」
『ただいま戻りました母上。しかし母上、何故また私は貴方の胸に顔を埋もれさせているのでしょう?』
「あぁ、何故言葉を発してくれないのですか?母は貴方の声を聞きたいというのに、何故貴方はまた黙ったままなのです?」
『私も母上と言葉を交わしたくはありますが、母上がまたも私の発声器官を塞いでいるので言葉を発せないのです。ですから離れていただいてもよろしいでしょうか』
「ねぇ愛しき我が子、貴方の凛々しいお声を聴かせて?あの人に似てきた貴方のお顔を私に見せて?ねぇ愛しき我が子、何故何も発してくれないの?」
『絞まっています母上。私の頭を抱える腕が私の頚を絞めています。落ち着いてください母上。速やかに私を解放してください母上。そうすれば母上に顔を見せることも声を届けることも叶います。ですから母上、1度離れてください』
俺は……、俺は今……、何を……見せられているんだ……?
なんだこの茶番劇は?
魔王が母上と言っているから彼女が魔王の母親なのだろう。
愛が深い。なるほど。確かに愛が深い。深過ぎて魔王のことすら見えてない辺り、『人の話を聞かない』という辺りがラズマリアの母親ということも納得させられる。
魔王があんなカオをするのもわかる。確かに毎回ここに顔を出す度にこれなら時間は置きたいだろう。
「母君は変わらないようで……」
呆れたような声が後ろから聴こえた。
つまりこれが彼等にとっての日常なのだろう。
こういう場をなんて言ったか。
そう、『かおす』と言うんだったか。混沌とした状況のことだ。
恐らくこのままでは話が進まない。それを直感的に察した俺は、一旦魔王の母親を説得することにした。




