「唐突過ぎだろ!!」
目が覚めると魔王城の客室のベッドの上だった。
ここが人界か魔界かは空を見ればわかるし、魔界でベッドの上と言えば魔王城の客室以外無いため状況把握は容易かった。
起き上がり体を見てみれば見事に全裸だった。
人界でならある程度の羞恥心を覚えるが、魔界ではむしろもう慣れた光景のため「なんだ裸か」程度の感想だ。
ベッドの近くを探ればすぐに俺の服置いて有ったためそれを着て部屋を出る。
部屋を出るとちょうどメイドが居たため魔王の居場所を聞く。すると地下闘技場と言うので地下闘技場へと向かった。
地下闘技場はそのままの意味で、この城の地下には大きな闘技場が在る。
魔王の力でどれだけ荒らしても外へ影響は無く、戦闘が終わればその都度中に居る人間のありとあらゆる怪我を闘技場内に入る前に戻すという、模擬戦をする上ではこの上なく理想的な戦う場所だ。
地下へと着き、闘技場に着いて様子を見てみれば、ルシファーとサタンと珍しいことに蠍の尾を持つ全裸の男が肩で息をしながら魔王と戦っていた。
相対する魔王は後ろ姿だったが、見るからに余裕そうで、着ている服が乱れた様子が一切なかった。
「クソッ、また大将に勝てなかったか……」
「お前如きが魔王に敵う筈が無いだろう。もし魔王を殺れるとしたらそれは俺だ」
「アんだとテメー!大将の前にテメーをぶっ殺してやろうか?!!」
「殺れるものなら殺ってみろ口だけ男!!」
ルシファーとサタンがいつも通りのやり取りを始めてしまったため視界から外す。彼等はあぁやって互いに罵り合い切磋琢磨して永遠に強くなり続けるため、アレが彼等の在り方だ。外野が口を出す理由は無いし、何より絡まれたくなかった。
だから珍しくこの場に居る蠍の尾を持つ全裸の男に意識を向ける。
本当にここに居るのは珍しいことだった。
珍しいことだったが、体は魔王との戦いでボロボロになったんだろうが、一部が物凄く元気そうだった。
女の裸体が見たいという訳ではないが、男のアレを自ら見たいなんて欲は皆無なため、結局魔王へと焦点を固定した。
焦点を固定したと同時に魔王はまるで最初からわかっていたかのように振り向き、いつの間にか手にしていたあの片刃の大剣を俺の方に投げてきた。
「それは血を吸えば吸うほど切れ味が鋭くなって、血を吸えば吸うほど再生する大刀という武器だよ。銘は流石にわからなかったから適当に呼べば良い。
さぁ」
唐突にそう説明されて、それをした本人は背後にいくつもの白と黒の魔力球を浮かべた。
嫌な予感に背中に冷たい汗が流れるのを感じつつ大刀を前に構える。
「サースは今回、ダンジョンを経験した。これまでにも散々色々な魔物や人と戦ってきた。でも、そこまでしてもまだ君は君の目標には届かない。
だから1つ、技術という武器を授けようと思ってね。
その武器なら最低限のことは出来る筈だから、頑張って斬るように」
言い終わると同時に魔力球が俺目掛けて射出された。
これまでの経験でこの流れは想像出来ていたから普通に避ける。
「唐突過ぎだろ!」
言って俺も水の魔力球を出して応戦するが、まぁなんの意味もなく手で掻き消される。
「それじゃあ意味ないよ。ほら早く大刀に魔力を纏わせて、魔法を斬るんだ」
ヒントは貰えるものの、完全に魔王は指導モードに入っているらしく、こちらの話に耳を傾けることは無さそうだ。
起きてすぐにこれだ。こっちは起きていくつか話をしてから解散するか何かするもんだと思っていたのに、たまに魔王はこうやって説明抜きに自分の理由を押し付けてくる。
「本当に急過ぎるんだよ!!」
言われた通り大刀に魔力を纏わせて迎撃準備をする。
どうせ魔王が満足するまで続くのだ、ならやるしかない。
「クソがぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
唐突過ぎる展開ですよね。
これが今のサースが知る魔王です。




