「戦るか」
脇道の先を進むと、具体的にはちょうど直進の道と繋がる前途切れた道だった頃の途切れた際辺りを越えた時、突然視界が転移した時のように別の物へと変わった。
その景色は理由は不明だが暗い筈なのに視界が鮮明な何処かの洞窟の中だった。
後ろを振り返り来た道をを見れば、そこは行き止まりとなっており、あのずっと居れば気が狂いそうな場所ではなかった。そして横を見れば、水球もまだ健在だった。
一瞬ダンジョンの外に出たのかと考えたが、しかし今も黒の圧のような物を感じる上に明かりを必要としなくても視界が鮮明なため、まだここがダンジョンの中だと判断した。
洞窟の中と評したが、人が通れる道や人が通れない道含めて道は1つしかなく、このままこの道を進めば良いだろうことは察しがついた。
ゆっくり行くのも手だが、未だに黒の圧を感じるということは悠長にしていられる時間的余裕は無いということだ。
慎重に進みたいところだったが、またも俺は走ることにした。
走って、走って、走って、走って、走って。走り続けていると1つの大きな開けた場所に出た。
その中央にはこれ見よがしにこの空間の主だと思われる者が鎮座していた。
見た目は一言で言えば魔族の中の鬼族と呼ばれる者達に酷似していた。
牛のような角が2本生え、虎のような牙2本が下顎から頭上へと向かって生え、赤い肌をした筋骨隆々とした体でゴブリン種の腰蓑のような物を腰に巻き、その手には包丁とサーベルの2つを連想させる片刃の刃物を持った推定魔物が居た。
その存在感は少なくとも魔王に連れられ向かった依頼や魔界の魔物達よりも強く、その顔を見れば気の弱い者であれば気絶してしまいそうなほど凶悪だった。
目はわからない。閉じられているからだ。恐らくあの目は、俺が奴に近付けば開かれ、そして襲われるのだろう。
改めて装備の確認を行う。
予想通りならば奴を倒さない限りここからは脱け出せないだろう。なら俺のやるべきことは1つだ。だから装備の確認をする。
腰の剣……、問題無し。
短剣……、問題無し。
投擲用ナイフ……、残り3本。
投擲用の石……、残り4つ。
弓……、問題無し。
矢……、残り22本。
回復用ポーション……、5本。
魔力回復用ポーション……、2本。
俺専用ポーション……、液体タイプが2本と丸薬タイプが3個。
睡眠導入の香の素……、4本。
食糧と水分……、食糧となる干し肉が8つ。水袋の中身は残り約9割。
遠距離に少し自信が無いが、あの様子から恐らく近接だろう。だから避けることに心血を注ぎ、叩ける時に叩くことを意識しよう。
確認は十分。準備も十分。あとは俺の実力次第。
「戦るか」
戦ったことのない魔物への不安と好奇心を胸に俺はペネトレイトを施した矢を1本番え、力の限り引っ張り奴目掛けて射った。




