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魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺  作者: 荒木空
第三章:亀裂
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「はは、……」


 洞穴の中の印象は、まず臭かった。そして暗かった。


 臭いは動物や魔物の糞尿のせいだろう。それに暗さは光が届かない場所が暗くなるのは当然なため、両方然して珍しいことではない。普通の洞穴だった。


 しかし洞穴の1番奥へと辿り着いた時、その奥に明らかな人工物が有った。洞穴の1番奥の壁、その壁の真ん中にこの洞穴の出入口より一回りほど小さい長方形の穴が有った。その奥はまるで闇そのものが拡がっているかのように黒く、そしてそこからはとても香ばしい肉をタレで何度も味付けして焼いたような良い匂いがしていた。

 まだギリギリ外の光が届く距離でこれだ、そりゃ人族より鼻が敏感な動物や魔物からすれば垂涎足る匂いだろう。


 未知の物に触れるというのは勇気が要ることだ。

 しかしここでまごついていても始まらないし、『強くなる』という目的を叶える上で時間の無駄だ。



 だから意を決してその黒へと触れた。

 指先が黒に触れた途端、強い力で引っ張られ黒へと体が引き摺り込まれる。触れた指先はとっくの昔に黒の奥へと入り、腕、肘肩、そしてあっという間に頭まで黒の向こうへと入ってしまう。

 頭が黒に触れる際、咄嗟に目を閉じてしまったため黒の中を見ることは叶わなかったが、感覚で黒の中に入ったことがわかった。粘性の高い物に触れた時の感覚だ。それを全身で感じた。


 気が付くと、いつの間にか目の前には1つの道が在った。黒一色の世界に、白く光る道が1つだけ。


 その道は真っ直ぐ直進していたが、周りへと目を向ければまるで道が崩れ落ちたかのような跡を残す横道が複数在った。数えてみると道の数は6本だ。


 後ろを見てみると今まで俺が居た洞穴の姿は何処にも無く、なんなら黒がじっくり観察するように見ないとわからない程度だがゆっくりとだが徐々に迫ってきていた。


 嫌な予感を覚えつつ試しに黒へ向かって投擲用の石を投げてみれば、石が黒に触れた瞬間迫ってくる速度が上がった。



 「はは、……」



 嫌な汗が頬を伝う。

 アレに触れるとどうなるかを察したからだ。


 即座に反転し、俺は走り出した。

 いつもならゆっくりじっくり安全確認をしながら進むが、そのゆっくりじっくりが命取りだと察したからだ。


 見る限りだと何処まで行っても俺が普通に進める道はこの直線の道だけだ。しかしこのまま進めば死ぬことになるのは確実だった。

 何故その事がわかるか。それは魔王のダンジョンの説明だ。

 ダンジョンというのは生きている。餌である外の者達へ撒き餌をし中へと誘い込み、入ったと同時に閉じ込めて喰らう。今の俺はダンジョンという生物の口の中に入った餌なんだよ。ならこの道の行く末が人間で言う胃とかの消化器官だと考えない方がおかしい。いや、後ろの黒のことを思えばダンジョンの内部全てがダンジョンにとっての消化器官なんだろう。


 しかも恐らく、ヘタすれば魔物も出てくる可能性が有る。というか恐らく、あの途切れた道が魔物が出てくるための出入口だろう。


 魔王は言っていた。ここは罠寄りのダンジョンで強い魔物はそれほど居ないと。なら今の状況的に魔物が出てくる可能性が有るのはあの途切れた道だ。それ以外から出てくるならもはやただのクソだ。流石にあの魔王がそんなところに俺を乗り込ませるなんてことはしないだろう。


 魔王は鬼畜だ。こういう新しいことを俺にやらせる時なんかは特にだ。今もどうせ俺が困り走っているこの様を俺の創った魔法で覗き見していることだろうさ。

 そして乗り越えられなければこう言う筈だ。この程度の奴だったかとかなんとかそんな風な言葉を。


 魔王が真に鬼畜なのは、俺が達成出来るか出来ないかの瀬戸際を突いて来る点だ。だからあの魔王がこのダンジョンを今の俺にちょうど良いと言ったのだから、今のこのダンジョンは俺にとってちょうど良いのだろう。

 もちろんそれは、俺の持ち得る全てを出し切った時という条件付きだが。



 「クソが!」



 走りながら悪態を吐き、矢を番えて途切れた道へと放つ。

 この直進の道と途切れた道の間に見えない壁がないかの確認のためだ。

 そしてどうやら、壁かどうかはさておき道は塞がっているらしい。チラリと後ろを見た時の黒がその速度をまた上げていた。


 この黒も厭らしい。周囲の道以外の空間は暗い藍色や暗い紫を混ぜたような色をしている。見様によっては星空のようにも見えるだろう。

 それに対して後ろの黒は本当に黒一色だ。薄い月明かりに照らされた森の奥から黒一色の何かが明確に自分へと迫ってくるなんて恐怖を煽るのに最適過ぎる。


 この何も変化が無い直進を走り続けるというのもなかなかに苦痛だ。今はまだ良い。脇道が視界の中に有るから。しかし遠くを見れば、果ても変化もないただの直進の道だけが有った。代わり映えの無い場所を永遠と走るのも精神を追い詰めるのに最適だろう。


 本当にこのダンジョンは厭らし過ぎる。



 そんなこの空間の観察をしながら走っている内に最初の途切れた道の近くまで辿り着いた。

 途切れた道は徐々に伸び、俺の走る道に繋がった瞬間、これまでは全く見えなかったそこに魔物が現れた。

 現れたのはCランク相当のアーマーエイプだった。



 「マジかよクソッタレ!!」



 今出来た道へと進むか、はたまた今までの道をアーマーエイプを無視して走り続けるか。

 2つに1つの究極の選択を迫られた。



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