勝利の方程式
ユウシャサマとの決戦まで残り6ヶ月。自伝の執筆もそろそろ今を生きる俺に追い付いて来そうだ。
ガレリアとは今回の章の件以降、特に俺が魔界に身を置くようになってからは人界に居た頃よりも会う機会が増えた。
というのも、今回のラズマリアの件はもはや世界規模の物となった。だから、決戦の日まで双方が相手側に仕掛けることが出来ないため、決戦の日まではガレリアは自由にそれぞれの世界を行き来出来ることになったんだ。
会って何をするか。それは今回の章の最後にも記したガレリアからの手紙の通りだ。
結果的に俺達はお互いがお互いの師と弟子という間柄になった。
彼女は俺よりも永くを生きた故の知識で導き、俺はそこから得た知識を発展させて新薬を作ったり既存の薬をそれぞれの用途に合わせて効率化させた物を作ってそれを彼女に共有する。そういう師弟関係だ。
俺達が話している間、マー君はイギライアと共に過ごしている。何をしているのかなんて聞く気も知る気も無いが、まぁイチャイチャしていることだろう。
俺とガレリアの間にそういうことが有るのかと問われればそんなことは無く、ただ薬学についてや世間話をする程度だ。
…………まぁ、彼女からそういうアプローチが有るか無いかで言えば、有るには有るんだが。
魔界に来て俺の精神はかなり落ち着いたと自分では思う。相変わらずフォルティスへの敵意は薄れないが、それ以外の所での情緒というのは豊かになったと思う。
やっぱり人界に居た頃は寝ていても常に気を張っていたんだろうな。熟睡なんてしたことが無かったけど、今じゃ毎日マー君か侍女に起こされる始末だ。
それに自伝を書いててより思うけど、自伝の中の俺はとにかく堅いというか攻撃的だと客観的に思う。それを思うと、やっぱり魔界で過ごした時間が長いだけ俺という人間の精神状態は落ち着くんだなと今回の章を書いていてつくづく思った。
…………これは予想だけど、たぶん人界に居た頃の俺ではどれだけ頑張ってもこれからの戦いで生き残ることは出来ないんじゃないかと漠然と考えてる。
マー君から借りた本の中には色んな英雄伝みたいな物も有った。その中には大抵が『大切な物の重味が重い方が勝つ』なんて考えで物語が書かれていて、主人公達側の方がだいたい『俺には護らないとならないモノが沢山有る!だからここで敗ける訳にはいかないんだ!!』とか言って奮起して、結果勝ってるのをよく目にした。
この考えを未だに俺はいまいち理解出来てないけど、マー君に聞けばマー君も物語の主人公達に賛同していた。だからたぶん、『護らないとならないモノ』をより持ってる方が次の戦いで勝つことになるんじゃないかって漠然と思う。
そう考えると、その、ガレリアからのアプローチは、もしかしたら受けても良いのかもしれないと考えてしまう。ただこれも、結局は俺の私利私欲の為のように思えて、物語の主人公達の言うモノとは違う気もする。
………………。
また後でマー君に聞いてみよう……。
これにて第八章:世界の王が終了となります。
ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございます。
この後いくつかの幕間を挟み、その後第九章の更新とさせていただきます。
魔界で過ごす中で、『大切なモノ』について考える余裕が出来たサース。そんなサースは次章、いよいよ自身が定めた命題に挑みます。
今後とも拙作『魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺』の応援を言葉にせずともしていただけると嬉しいです。
それではまた!




