「回収出来そうか?」
「元々合意も無く他世界の住人を連れて来ることは重罪だ。その世界の居住権を失っても文句を言えない。住まわせる場合はその世界の王に許可を取るのが義務だ。
今回サースは確かにこの世界に来ることを承諾はした。だけどその理由は治療の為だ。なのに何故ダルマになっているんだ?何故種馬になっているんだ?そうして調べれば、過去にも散々男を連れて来て四肢を落とし、死ぬまで搾取し続けたみたいだな。そんな大罪人達を生かしておく理由って有るか?」
畳み掛けるようにそう捲し立てた魔王は怒気を孕んだ殺気を隠そうとせずこの場に居る全てのエルフへ向け威嚇した。
それだけで、そうじゃなくても俺に呼吸器官を抑えられているのに余計に呼吸がし辛くなったようで、まだまだ余裕が有りそうな奴等まで藻掻き苦しみ始めた。
それを認識したところで俺は呼吸器官を塞ぐのを止め、首の拘束にやり方を変える。魔王の何かしらの意図を汲み取ったからだ。
魔王が本当にこのエルフの郷を滅ぼそうとか、全員を殺そうとか考えたのなら俺を止めることはしなかった筈だし、仮に自分がやりたかったとしてもこうやって会話を挟むこと無く一方的に殺ってる。
だから今、こうやって脅しつつも会話をしているということは、魔王の中でコイツ等を殺すことは本意じゃないということだ。
その真意まではわからないが、殺そうとしてないのなら邪魔をする訳にもいかない。先程魔王は視察とも言っていた。だからその視察を終えるまでは、少なくとも彼女等の命の保障はするのだろう。もしかしたら、殺すことは都合が悪いのかもしれない。それなら、殺しても良いと言われた時に殺した方が後腐れ無くて済む。
拘束を首へと移したことで先程よりは呼吸しやすくなったのだろう、一様にエルフ達は首を押さえて咳き込んだ。
それを眺めつつ、彼女等が落ち着くのを待つついでに魔王へと意識を向ける。
「それで、目的は?」
「サースが心配だったって理由に騙されてくれるつもりは?」
「話せない訳じゃないなら聞きたいな」
「……まぁ、今の俺にはそれほど関係無いことだし喋っても問題無いか。
良いよサース、話してあげよう。ただし後ででも良いかい?」
「話してくれるならその辺は任せる」
「ありがとう」
魔王にアンガルミアと呼ばれた女の天族が、何か怨めしそうなカオをして俺を睨んでいたが、敢えて無視して魔王にとあることを頼む。
「なぁ魔王」
「なんだい」
「宝物庫や指輪の位置ってわかるか?」
「あぁ、わかるよ」
「回収出来そうか?」
「まぁ、今ならまだってところかな」
「じゃあそれを早く回収したいんだが、そっちの用事が急ぎでないなら回収を先にしてもらっても良いか?」
「じゃあ、早くこちらの用事を済ませてしまおうか」
そう言うと、魔王は唐突に右手に白と黒の魔力を纏い、その手で地面を強く殴り付けた。




