魔王、ヘラる
「やぁサース、相変わらず君は不運だね」
そう言って俺の隣に降り立った魔王は人差し指で俺の額に触れた。
それだけで四肢が復活し、なんなら服まで着ていた。
「人族に過分な施しとは、後でどのような試練を与えるので?」
複数人で降りて来た翼の生えた奴等がそんなことを言う。
その風貌、その雰囲気的に、魔王と対極に在りそうな存在感に、直感的に彼女達が天族なのだと察しがついた。
そう、『彼女達』だ。推定天族は総じて女しか居ないのか、はたまたここに現れたのが女だけだったのかまではわからないが、彼女達は女しか居なかった。
「試練なんて与えないよ」
「なっ、それは何故ですか?」
「親友が酷い目に遭わされたんだ、治す手段を持っているのなら助けたいと思うのが人情ってヤツじゃないのかい」
魔王の言葉に天族の奴等が、そして水の腕で拘束していたエルフが驚いたことがよく感じられた。天族の方は何人かが息を呑んだし、俺の魔法の中に居るエルフについてはしっかり表面の変化は感じ取れるため、コイツがどれだけ魔王の言葉に驚いているのか手に取るようにわかった。
魔王はそのまま微笑を浮かべたかと思うと、俺の後ろから絡まるように抱き着いて来る。
「俺が1番愛している女はイギライア姉さんだけど、1番愛してる男は彼だからね」
「気持ち悪いこと言うな」
魔王の顔面に裏拳を叩き込む。しかしそれは額で受け止められて、ついでに左腕を掴まれ撫でられた。
「気持ち悪いとは酷いなサース」
「気持ち悪いから気持ち悪いと言って何が悪い。てかなんだ、自棄に絡んでくるな」
「君が心配だったんだよ。君の開発した魔術は対象の視界を媒体にして物を視るだろう?でも君がここのエルフの薬を飲んでからはそれが出来なくなってね。そうして視れるようになったら今度は四肢を落とされ種馬にされていたんだ、その存在をしっかりと肌で感じたいじゃないか」
「だからそれが気持ち悪いんだっての。ったく……」
呆れながら、魔王が本気で心配していたんだろうことは感じ取れたため好きにさせることにした。
イギライアの時と同じだ。あの時は彼女に付き纏って居たが、今の魔王的にはその対象が俺ということなのだろう。
正直気持ち悪いが、魔王を安心させるためにも素直に受け入れることにした。




