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魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺  作者: 荒木空
第一章:彼との馴れ初め
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君と出会うまでの8年間


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 生まれた時から他人と比べられ続けてきた。

 親でさえも俺を褒めず、ソイツを褒め続け、俺は「出来が悪い」「なんでお前はこんなに出来損ないなんだ」という言葉を何度言われたかわからない。


 でも別にそれ事態はどうでも良かった。そういう態度を取ってくれていたおかげで、少なくとも俺は精神的に他の奴等よりも早く大人になれたと思うから。そのおかげで、自分のやりたいことが明確になったから。


 俺は他人より頭が良かったから、学園に通う前から文字の読み書きや簡単な計算は暗算で出来た。足す引く掛ける割るの計算なら桁がいくつになろうと例え大人であろうと難しいのに暗算で出来た。


 体が他の奴等よりも柔軟で、その上力も有った。一応食事は最低限与えられてたけど、周りの奴等の話を盗み聞きした感じ俺より一杯食べてるみたいだった。必要な栄養をしっかり摂れてるみたいなのに俺より力が弱くて走るのも遅いってことは、俺は平均より体が丈夫で肉体的に周りの奴等よりも強いってことは幼いながらにわかった。



 それでもそんな俺より力が強くて走るのも速い奴が居た。フォルティス・サクリフィスだ。学園に入る前からコイツは特に努力無く何事も俺の上を行きやがる。計算とか頭使う系なら勝てたが、それも褒められないことがわかってからはわかっても奴が答えるまで答えることをやめた。走るのはいつも前に行かれてた。腕の押し合いをしたら最終的にはいつも敗けていた。


 何をやっても褒められず、何をやっても敗ける。

 そして決まって両親や周りはこう言うんだ。


 「流石フォルティス君」「それに引き換えお前は」



 だから俺は6歳の時、必ず学園を卒業する前にフォルティス・サクリフィスより俺が上だと証明することを決意した。


 学園は基礎を教えてくれる下等部とその応用を教えてくれる中等部が有る。本当はこの上に高等部が有るが、それは学者とか研究者って奴等が居る場所だから、そういう道に進まない奴は中等部まで通うことがこのサクラ共和国では決まっている。

 フォルティス・サクリフィスも当然この中等部まで通うことが決定していた。


 だから目標を中等部卒業までに定めた。目標を定めた6歳から考えて10年。この間に奴を抜くと決めた。



 その日から俺は人生を走れるだけ走った。


 1日パン3つという最低限の食べ物しか貰えないから、近くの森に入って野草を食べた。たまに動物を見付けたら、削った石や枝を短剣に見立てて仕留め、その肉を生で食べた。最初の頃はお腹を下したりしたけど、それも慣れてくればどれが食べれてどれが食べれないか体で覚えたから下すことはなくなった。


 勉強は村の教会で教えてもらえたから、知らないことはどんどん覚えた。その中で冒険者という職業が有ることを知った。冒険者の仕事は魔物を討伐したり動物を倒して卸したりするらしかったから、それに幸い住んでる村から街までは子供の足でも十分通えたから、だから8歳からは日中は森に入って動物とか野草とかを狩って昼過ぎには街に入り、冒険者ギルドで狩った物を買ってもらった。


 俺が8歳のガキで、読み書き計算出来ないと思われて周りから盗み聞きした相場よりだいぶ買い叩かれたけど、稼げないよりかは良いかと思って甘んじて受け入れた。

 流石にそれ計算合わないだろって時は指摘したけど、それも謝られず嫌な表情で投げ捨てるようにお金を出されたけど、当時の俺には他にお金を稼ぐ方法が無かったからそれも受け入れた。


 収入が多い時に限ってガラの悪い冒険者にお金を暴力で奪われたけど、その度にチ○コを思いっきり蹴ったり殴ったり、時には自作の短剣でぶっ刺してやって一矢報いてやった。



 そんな森と街での生活に加え、村ではフォルティス・サクリフィスに散々絡まれた。俺が森で何をやってるか知ったらしく、それを止めるためだとかで俺の行動を阻害してきた。

 俺が口で言っても止まらないとわかるや否や、奴は平気で俺のことをぶん殴って来た。だから俺もぶん殴り返して、それが村での風物詩として扱われるようになった。

 そして毎度最後には俺が怒られて終わった。


 そんなことを毎日やってたから、体が持たないとある時思い至り、教会で医療系の知識を習い始めた。

 その時に魔法の存在を知り、そっちも一緒に習い始めた。


 ここでも腹が立ったのは、俺が村に居る時に限って特に奴が、フォルティス・サクリフィスが絡んで来た。その時に俺が必死に魔法を覚えようと会得しようとしてる横で「あ、こんな感じかな?」とか言って平然と奴が魔法を発現させてたのは今でも覚えてる。その姿に思わず我慢出来ずに顔をぶん殴った。殴られて一瞬呆けた奴の顔に2度目の拳を当てた辺りからは完全に喧嘩だ。


 それから奴は俺と一緒に行動するようになった。

 口癖は「僕がサースを守ってあげるからね!」だった。それが余計に俺のプライドを傷付けて、余計に喧嘩して、より一層奴を越えるのだという気持ちは高まった。



 そんな生活を1年半過ごして俺達は学園に入った。

 この学園ってのはだいたい秋口から入学し、そこから下等部4年中等部2年勉強することになっている。

 年に長期休暇は夏口のみで、あとはずっと学園だ。学園には寮が在って、そこから毎日通う。


 学園に入ったことで俺の食事事情が大幅に改善されたのは今思うとかなり救いだった。


 下等部での日々は、勉学についてだけはとても順調だった。元々村の教会で習った知識に加え、より専門的なことも知れて、遂には自分でポーションを自作するようになった。

 このポーションってのは飲むか患部に掛けるかすると傷が治るって代物で、学園に通いながら空いた時間には冒険者として働いていた俺としては、自作出来るのはとても助かった。作り過ぎてしまった時はギルドに卸した。俺印のポーションは味は普通だが効能が高いらしく、そこそこ良い値で買ってもらえたのも経済的に助かった。

 それと平行して学園で習った魔法やその理論を基にオリジナル魔法を創り始めた。俺はどうやら魔法や魔力の才能についても平均以下らしく、魔力量が少なくて今まで魔法を覚えたり行使するのに苦戦したんだとわかったから、自分に合う魔法を考えた。そして創った。

 幸いそっちの才能は有ったみたいで、だから学園での俺は学園で習う必修科目と魔法薬学以外の履修はせず、空いた時間を全て魔法薬学の実践に費やし、放課後には冒険者として働いて強くなり、夜は魔法の開発に勤しんだ。

 この頃からフォルティス・サクリフィスとはあまり関わらずに済んでいたし、なんなら入学から1年経ったぐらいの頃からは見ることは無かったから存在事態を忘れていた。

 この頃こそが俺にとって最も心身共に充実していた頃だと思う。



 そうやって我武者羅に突っ走って、さぁもうあと半年で下等部の卒業が間近という頃、とある情報がサクラ共和国中に拡がった。


 『新しい総帝様が現れた!』『今度の総帝様は基本属性全てを使える上に破壊属性持ち!!』『今度の総帝様は声が物凄く若い!未成年か!?』『今度の総帝様の時代は安定だ!』


 そんな情報だった。

 総帝を始め、帝は基本的に正体を隠している。だから余計に俺からしたら「ふーんそうなんだ」「全部の基本属性持ってて、未成年で、その上破壊属性持ってるんすね。凄いっすね」程度の話だった。

 そりゃそうだ、俺からすればトップが変わろうが変わるまいが今の生活を続けるのは当然で、中等部にいたってはこんな村から近い街じゃなくて首都の学園に編入する気だったから、総帝様が代替わりしようとあまり関心が無かった。



 事情が変わったのはその情報が広まってすぐの事だった。

 珍しくフォルティス・サクリフィスから呼び出されたんだ。


 当然俺は無視をした。無視をして、いつものルーティーンを繰り返した。無視をして、無視をして、無視をして、無視をしてたら、遂には寮の部屋の前で待たれていた。

 それでも無視していつものルーティーンをしていたら、次第に奴の行動は悪化していき、遂には見たこと無い知らない女共まで増え、次第にはボコボコにされ、命の危険まで感じたタイミングでようやく話を聞くと言った。


 そして後悔した。

 奴が周りの女共を退かして2人俺の部屋で奴の告白を聞いた時のことは未だに憎悪の念と共によく覚えてる。


 奴はこう言ったんだ。

 「実はさ、僕、サースと一緒に居ない間に総帝になっちゃった……」


 言われた時、頭が真っ白になった。そして思わず出た言葉が「は?」だった。

 それを聞いた奴は、自分の言葉が俺に聞こえなかったとでも思ったのか、もう1度同じことを言った。

 流石に2度言われれば頭の理解が追い付く。そして出てきた言葉は「それで」だった。


 俺からすれば、「何故そんな重要な秘密を俺に話したのか」という意味の「それで」であり、「何がどうなってお前が総帝になったんだ」という意味の「それで」であり、「それが俺になんの関係が有るのか」という意味の「それで」であり、「それを聞いて俺がどう思うと思ってんだ」「俺がテメーのこと嫌いなのはわかってんだろなんでその事を俺に言った」という怒りの意味での「それで」だった。


 しかし奴は「続きを話せ」という意味の「それで」と受け取ったようで、聞いてもいない「何故自分が総帝になったか」という情報をペラペラと話し始めた。


 要約すれば、入学式の時に行った魔力量や属性を調べる時に、奴の魔力量も属性も常識外れで、それが国に報告され、この3年半もの間ずっと前総帝の弟子として過ごしていたこと。周りに居る女共はその弟子をしている間に出会いそして何かしらのトラブルに巻き込まれてた所を助けた結果仲良くなった(俺からすれば惚れられた)こと。俺に話したのはこの3年半俺を放っていたこと。でも自分は俺のことを親友だと思っているということ。親友に隠し事はしたくなかったとのことだった。


 頭がおかしいのかと思った。そして総帝という国のトップの重みをなんだと思ってるのかと思った。俺がいつ貴様の親友になったんだと殺してやりたくなった。


 でもそれ等の言葉を呑み込み、俺は言ってやった。

 「で、これからはどうすんの?どうしたいの?てか何がどうなって俺はお前の親友なの?」


 奴は言った。中等部は首都の学園に通う。

 俺達の絆は永遠だ。

 フォルティス・サクリフィスとして居る時は今まで通り気軽に絡んでほしい。

 俺が親友なのは、これまで色んな人が自分を褒めたりするが、そこには一定の距離が有って、なのに俺は構わず感情剥き出しにして張り合ってくれるからだと答えた。


 俺が街の学園や冒険者ギルドでせっせと我武者羅に頑張ってる間に、奴はいつの間にか手の届かない所まで一気に進んでいた。話しぶりを聞く限り、奴にとっては苦労なのかもしれないがやはりなんの苦労も無く全てを余裕で出来たらしい。


 学園での俺は戦闘系の授業でも1番だった。授業の締めであるテストでも満点以外を取ったことはなかった。冒険者ギルドではポーションが売れて、その上ランクも半年前にはDまで上がっていた。このDランクというランクは当時13歳という歳を思うと過去に前例が無い訳ではないが快挙と言えるほどの戦績だった。


 そういった幼少期から続く悲惨不運不幸が払拭され遂に報われた。もっと頑張らねばと上向きな気持ちで、悪く言えば調子乗ってる時にこれ等を聞かされた俺は、本当に自殺したくなるほど辛くなり、それ以上にフォルティス・サクリフィスに対して殺意を覚えた。

 「なんでお前ばっかり」「なんでお前だけ」「お前さえ居なければ」

 何より心が折れかけた。俺は毎日こんなに頑張ってるのに、なのにお前はなんの苦労もなく俺の上を行くのかと。なんでこんな理不尽なんだと。


 でも、それ等はよくよく考えれば今更だった。

 そこで俺は、何故これほど自分が頑張っているのかを改めて思い出した。そしてこう思った。


 「なんだ、見積もっていた目標が上方修正されただけか」と。


 そう、今までとなんら変わりはない。やることは同じなのだ。

 フォルティス・サクリフィスを学生の間に越える。それがただ、国規模になっただけだ。



 それを聞いた翌日から俺は、必修科目と魔法薬学の授業、それにギルドに卸す分のポーション作成だけの為に学園に通い、残りの時間はギルドでの魔物討伐や盗賊討伐の依頼ばかりを請けて、寮に帰ればより効率的に魔力を運用出来るかとオリジナル魔法の開発に取り組み、精力的に実力を磨き続けた。


 3ヶ月後には首都の学園の受験だったが、使える物は何でも使うと決めフォルティス・サクリフィスを利用した。

 搾れるだけ奴から帝達の情報を搾り取り、それから奴に俺に秘密を打ち明けたことがどれだけ危険性の高いことかを説き、自分が如何に不味いことをしたのかを説き、俺にとって大事な時期に何告白してくれてんだと詰めた。

 そして「俺も実は中等部からは首都の学園に通おうと思っててな」と溢し、奴に奴か他の帝達の権限で俺を街に居ながら入学受験させてくれないかと頼んだ。

 通してくれないなら獣人族やエルフ族の奴等に帝達の個人情報をバラすぞと脅して。


 マハラ帝国とアカバ王国はサクラ共和国的には表向きは同盟国という扱いだが仮想敵国だ。流石に仮想敵国に最高戦力であり国の重鎮の秘密をバラすことの不味さは理解しているらしく、それがわかっているなら俺がこの情報を持っていることつまり俺が秘密保持のために帝達に殺される可能性が高いということを物凄く噛み砕いて説いた。


 そこまで脅して受験を街でも出来るように無理矢理取り図らせた。


 結果は実技は水を司る帝である水帝との模擬戦で、筆記は水帝の持ってきた問題を1時間以内に全て解けというものだった。

 奴から搾り取った情報曰く水帝は女だ。そして魔法専門だ。対して俺は基本近接専門だ。この時点でかなり無茶な部類だったが、渡された筆記は後から調べると高等部レベルで、尚且つ量は普通に読めば40分は掛かるようなものだった。

 つまり帝達が出した結論は、恐らくフォルティス・サクリフィス的に物凄く弱い近接しか出来ない水属性しか使えない俺に、水属性の頂点たる水帝を当てて実技を封殺。筆記についてもどうやっても合格点未満になるよう条件を付けて落とそうというものだった。

 普通に首都の編入試験は受けて良いとか馬鹿にしたような笑みを浮かべながら言われたから、我が儘を言ってきた俺に対して制裁を咥えに来たということだと察した。

 奴自身も苦笑いしていたから、恐らく間違ってないと思う。



 だから本気を出した。本気で筆記は問題を読みながら右手で回答をして、回答を書いてる間に次の問題を読んで左手で回答を書いて、次の問題を読みながら回答を終えた右手で次の回答を答えた。

 それで無理矢理40分で筆記を終わらせて、そのまま水帝と戦った。

 模擬試験のルールは水帝に一撃入れるというもので、模擬試験開始は物凄く離れた状態で開始された。

 だから散々開発したオリジナル魔法をこれでもかと使って水帝との距離を縮め、顔面を殴ってやった。

 そこで体力もスタミナも魔力も無くなったため、それに一撃入れたため模擬試験は終了。実技はその場で合格となった。


 ただ終わったあと、水帝にどうやったのかと色々詮索されて、特に気になったというオリジナル魔法を1つだけ教えることでその場を逃れた。オリジナル魔法を教えた直後に「こんな苦労してこの魔法覚えなくても魔力が有れば似たことは再現出来るわね。ほらこんな風に」とか言って俺が教えたオリジナル魔法と同じ事象を俺に叩き込まれてズタボロにされた。

 総帝と言い、水帝と言い、一般人への意味の無い暴力を奮ってくるんじゃねぇよって本気でキレそうになった。

 でも流石にまだ届かないのは今回でわかったから我慢した。

 コッチは1発ぶん殴るだけで精根尽きたのに、向こうはあんまり疲れてない。そんな相手に条件無しで勝つことが出来ないなんてことは子供でもわかる。だからこの時はまだ堪えた。



 筆記は無事合格した。合格は8割正解だったが、奴曰く9割合っていたらしい。

 「サースって勉強出来たんだね」って言われたのはイラッとしたけど。


 合格が決まってからは奴が学園に居る時は嫌がらせするようになった。

 最初は足を引っ掛けて転ばすだとか、物を隠すとか、そんなレベルの低いことをやってた。でもそれに飽きて、他に何をやろうかと考えた結果、魔法や魔法薬学の応用で毒草とかを使ったイタズラを思い付いた。

 魔法は水帝との模擬戦で使った物を更に改良して範囲と威力を押さえて叩かれたら皮膚が赤くなる程度の物を使った。

 毒草とかを使ったイタズラは主に下剤やしゃっくりが出る物にした。この程度であれば大きな問題は起きない。

 仮にも奴はサクラ共和国のトップだ。効能も学園に居る間だけになるように調節した。




 そうやって半年を過ごし、次の秋口からは首都の学園に編入だって時期。

 既に街の学園の下等部を卒業して首都の学園の寮に入寮し、中等部からの奴へのイタズラのための毒草集めやポーション用の薬草集めをしている時、そんな時に俺は彼と出会った。


 唯一無二の親友、魔王のマー君と。




 水帝との模擬戦はこのままこの作品が伸びたらいずれなんらかの形で公開します。



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― 新着の感想 ―
という事は水帝は下剤を盛られて下痢したりしゃっくりをしたりしたんですか?
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