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魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺  作者: 荒木空
第二章:違和感
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「余裕」


 サクラ共和国首都プラムから歩いて半日の所に在る村へ俺達は移動した。この歩いて半日ってのは冒険者や騎士や兵士のような鍛えた奴等基準じゃなくて、一般人基準だ。だから必然的に半日の半分も掛ければ余裕で着く。


 道中Eランクのゴブリンが数匹出たが、Eランクの魔物相手にこの面子だ、特筆すること無くすぐに倒した。

 流石にそのまま死骸を放置するのは別の魔物や危険動物を呼ぶ危険が有ったからイリコスが地中からだいたい10メートルぐらいの所にゴブリンの肉は埋めた。


 そうして進み辿り着いた村は、周りを木で覆われた、いわゆる森の中に在る村だった。位置的に首都と他の街を繋ぐ道の中継地点と言った感じだろうか。


 俺達の班の代表はチャーラルだ。だから彼が代表して村の門番に話し掛け、門番をしていた村人の男に村長の家へ行くように指示され、それに従う。

 村長宅に着くと客間へと案内され、全員が席に着く……という流れだが、俺はそこで手を挙げた。



 「話を始める前に村長さん、スネークコングのことだけじゃなくて、他にも何か怪我をした奴とか居るか?


 俺は趣味でポーションを作っているんだが、その腕はギルドに卸せるレベルだ。もしこの村で怪我をして動けないとか、例えば擦り傷が痛いとか、そんな小さな傷でも良いから怪我をして困ってる奴とか居ないか?井戸とかの水を借りることになるが、話はこの4人に任せて俺はそっちの治療をしたいんだが大丈夫か?」



 尤もらしいことを言って退出を願い出る。

 当然理由は有る。一言で言えば実験台が欲しかった。


 俺はポーションを作れる。作るのは市販の物より自分で作った方が早いし、自分用に効能を好きに弄れるし、何より金になるからだ。

 ただ新しいポーションや薬を作ろうと思うとどうしても自分以外の実験台も必要だ。生傷が絶えない冒険者ギルドに聞いたり試供品を渡す方が実験台が増えて良いが、せっかくこうやって依頼で来て知り合えたんだ、助けられるなら助けたい。



 …………というのが表の理由。本当の理由は、ただただクソ野郎と一緒の空間に出来るだけ居たくなかった。

 本当に1ヶ月前のあの日からクソ野郎が不気味過ぎる。まるで嵐の前の静けさというかのように静かで、そしてよくわからない圧を感じる。気がする。

 この村に来る道中もそうだったが、ゴブリンとの戦闘の時はとても苛烈だった。

 別にクソ野郎の戦い方を事細かに把握している訳ではないが、ゴブリンは少なくとも俺より確実に弱い。そんな相手に、俺と戦った時はとても余裕そうだったクソ野郎は余裕無く蹂躙していた。殺し屋や暗殺者とか、風格の有る魔物とかのような、まるで鋭く研がれた短剣のようにギラついた様子だった。


 それが物凄く不気味で、だから出来るだけクソ野郎から距離を置きたかった。このままコイツと居ると何か不味いことが起きる気がして。


 だから村長に願い出たんだが…、やっぱり世の中俺の思うようには動かないらしい。

 村長が許可をくれると、クソ野郎が「1人じゃ大変でしょ。僕も手伝うよサース」とか言って一緒に出てこようとした。



 「どっちかは居ないとダメだろ。俺が出るならお前が残れ。俺達は今そういうパーティーだろ」


 「……ウィンター先輩、僕もサースと一緒に出てよろしいでしょうか?」


 「本当はどちらか居て欲しいが……、まぁ君達なら問題無いだろう。ハザードさえ良ければ行ってくれてかまわない」


 「ならコイツが着いて来るのは嫌なので、俺1人で出ますね。では」



 返答を聞かず来た道を戻り、俺は村長の家を出た。

 そうして目に付いた村人に近寄り、怪我をしてる人が居ないかと井戸とかの水辺の話を聞いた。


 それからチャーラル達が出てくるまで俺は井戸の周りに陣取り、そこでガキ達に引っ張られたり遊ばれたりしながらポーションによる治療をやった。

 何人か重篤な奴が居たみたいで、その家族に持ってきたポーションを持たせたり家族の居ない奴の所には俺から赴いてポーションを掛けて飲ませてやった。


 今回開発して持って来たのは、ポーションの効能だけを抽出して水分を抜いた物だ。これをそのまま口から飲み込み胃に収めるも良し、水に溶いて普通のポーションに戻すのも良しという携帯性重視に開発したポーションだ。


 効果の確認は村人達の治療で十分だった。効能変わらず、抽出する前のポーションと効果と変わらなかった。

 ただ、どうやら水に溶かずに飲み込んだ場合、しっかり水を飲まないと体から水分が少し失くなるみたいで、そこは今後の課題だと心の紙にメモした。



 一通りの治療を終えて一息吐くと、いつの間にか近くで待っていたらしいチャーラル達が話し掛けて来た。



 「お疲れ様。君は依頼で他の村に行く度にこんなことをしているのかいハザード君?」


 「まさか。今回はたまたまだ。ポーションの携帯性を課題にしたポーションを作ったからその実験だよ。見ず知らずの奴等を打算抜きで助けるなんて、そんな無意味なことはしたくない」


 「無意味とまで言い捨てるか。まぁ君の価値観については今は良い。

 それより、村長から詳しく話を聞いた。それで作戦会議を開きたいんだが、イケそうか?」



 たぶん、疲れてないかとかそんな感じだろう。


 当然俺はこう答えた。



 「余裕」



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