▼side Another act1:ウィリアム・パリスの選択
ウィリアム達はサースの言葉に従い、サクラ共和国の首都へと報告の為に帰路を急いでいた。
開拓村へ向かう際は首都から開拓村へと向かう行商人の馬車に乗ったり護衛したりして向かったが、開拓村から首都へ向けて出ている馬車は無い。有っても街道沿いに在る村ぐらいになる。その為彼等は走って帰っていた。
「ねぇ、別に急がなくても良いじゃない。そんな急いだところですぐには何も変わらないんだからもう少しゆっくり帰ろうよ」
サースが居ないことを良いことに、モナークが愚痴を溢す。
しかしこれまでの彼女の発言や行動故か、彼女のその言葉を聞く者は班を組むまでは交流が有ったエギルやイリア含め居なかった。
何も反応されないことに苛立った彼女は、仕方ないとこの班の中で1番自分と近い位置に居ると思っているウィリアムへと声を掛けた。
「ねぇーセンパーイ、センパイもこんな急ぐ必要無いと思ってるんじゃないですかー?だったらセンパイも抗議してくださいよー」
猫撫で声でそう言われ、走っているのにも関わらずウィリアムの腕にしなだれて抱き付くモナーク。
女性経験はおろか対人経験の乏しいウィリアムにはとってこの行動は本来であれば致命的であり、すぐに「もしかして自分に気が有るかも」と調子に乗って普段であれば彼女の言葉を聞き入れすぐに彼女と共に抗議の言葉を投げ掛けていただろう。
しかし、流石にこの時のウィリアムも状況を把握していた。
「休みたいなら勝手に休んでいれば良いと思うぞ売女」
「なっ、誰が売女よ!!」
「男であれば誰にでも媚びてるところが売女だろうが!と、とにかく!走りにくいから離れろ!!」
「言われなくてもアンタになんか2度と触れないわよ!!」
2人のそんな会話が後ろで行われているのを余所に、エギルが戦闘を走るガラギスに質問を投げ掛けた。
「モナの言葉に賛成する訳じゃないですけど、実際午前中から走り続けてますしそろそろ休憩するのは有りなんじゃないですか?」
「休憩はするさ。ただ休憩するのにちょうど良い場所がこの先に有るんだよ。だからそれまでは頑張ってくれ」
「私達は大丈夫です。ですが……」
イリアは後ろを見た。後ろというか、ウィリアムを。
前衛組を基準に考えれば当然だが、後衛組として考えても彼等のスピードは遅かった。
理由はウィリアムの走る速さが原因であり、ガラギス、エギル、イリア基準で言えば今の速度は全力疾走の5割以下だった。
「君達の言いたいことはわかるけど、君達にも人に公には言えない事情って有るだろ?パリスも同じで、その事情が理由で今の彼はあれ以上早く走れないんだよ。
急ぐとは言っても逃げてる訳じゃないんだ、だから班員の足に合わせて走るのも班ってヤツなんじゃないか」
「わかりますが……」
「それに俺達にとって物足りない速度ということは、もしも何かに襲われたなんてことになっても俺達前衛組は余裕を持って事に当たれるって見方も出来るだろ。
だから今はこの速度で良いんだよ」
「……わかりました」
「ラークもグリーラも強くなる事に真摯なのは良いけど、だからと言って仲間を見捨てちゃ駄目だぞ。少なくとも今俺達は班の仲間なんだから。
でも君達のその不満をしっかり伝えてくれる姿勢はとても大切だ。今後冒険者として班を作ることになった時もその調子で何か有れば言って行けよ。
まぁ限度は有るけどな」
走りながらガラギスに良い笑顔でサムズアップされて、自分達の良かった所を褒められて、それ以上エギルとイリアの2人は何も言えなくなり、結果ガラギスが言った休憩場所に着くまでずっと黙り込んでしまった。




