自覚
【お知らせ】
今ページを執筆する際に自身の設定を見直した結果、あまりにも話に無理が有ったと思ったページの一部を修正しました。
『魔王無双』のページです。
修正したものを基準に今ページは執筆されています。ご了承ください。
「素朴な疑問なんだけどさ、なんで君達は自分達の危うさに危機感を持たないのかな?サースの生活覗いてるとあまりにも平和ボケし過ぎな気がするんだよね」
放課後。廃城で魔王と模擬戦を行い毎度の如く床に体を放り出して肩で呼吸を整えていると魔王からそんな言葉を投げ掛けられた。
「どういう意味だ?」
「いやね、君達人界の人間はみんな弱いんだよ。昔と比べると遥かにね。
それなのに、昔の人界の人間達が最期まで成し得なかった勢力圏の確保をなんで引き継がなかったのかなって。そして引き継いでもいないのに、なんでそんなに営みが停滞しているのか気になってね。
君達の世界は未だ人間の物じゃない。魔物の物だ。なのにやってる授業の内容やその練度は10にも満たない子供のソレだ。
これはサクラ共和国って国の国風なのかどうなのかは知らないけど、魔界に住む俺からすれば平和ボケし過ぎと判断せずにはいられないね」
「………………」
魔王の言葉に、確かに思う所が無い訳では無かった。
確かに国の1番の権力者がアレだ。そしてそれを容認する元々居た権力者達だ。魔王からすれば滑稽にも程が有るだろう。
レオポルドやストゥム達にしてもそうだ。実の妹や自分のメイドが自分の立場や役目を忘れて男に現を抜かしたのなら、本来であれば苦言の1つでも出てこないと不味いだろう。
なのに彼等はショックを受けて、自分達の権力争いに邁進していた自分達の取り巻き達を諫めることもしなかった。
アバズレ達にいたっては完全に売女と変わらないソレだ。
まだ学園に通う生徒だから。まだ学んでいる子供だから。そういう見方も出来るが、授業内容は一貫して生死を分けた戦闘訓練を主としたものだ。
「つまり意識が追い付いてないのか」
「付け加えるなら、たぶんサースのクラスの3つ目のグループの彼等。彼等こそ1番現実を見てると思うよ。だから生きるのに必死で、君達の仲良しこよしゴッコに加わろうとしないんだろうさ」
確かに彼等は俺達の方を疎ましく見ることも有るが、基本は自分達のことで手一杯といった様子だった。
何をあんなに焦ってるのかと、それほど余裕も才能も無いのかと思っていたが、魔王の指摘を思えば頷けることも多く有る。
俺の場合は、クソ野郎をぶっ潰すって目的が達成された後の話か。今はクソ野郎をぶっ潰すことしか見れてないが、それが成功するにせよ失敗するにせよ俺の人生は続くし、なんなら世界は俺の死程度で揺るぎは絶対にしない。だから目的を達成した後のことも考えると、俺も彼等の様に生きることに必死になった方が良いのかも……、
「そうか。俺もか。俺も魔王からすればゴッコ遊びをしているのと変わらないのか」
俺の目的は学生の間にクソ野郎をぶっ潰す事だ。世界の事とか人の生存権がどうとかそういう話は二の次だ。
そんな俺を全く関係の無い、この世界の柵に囚われない魔王のような奴から見れば、確かに俺は俺でゴッコ遊びをしてるのとなんら代わりはない。なかった。
自分は他の奴等とは違うって意識が有ったが、俺も例外ではなかったと考えれば魔王の言う危機感や仲良しこよしゴッコ発言も納得だ。
思えば今やってるこの模擬戦もギルドでの依頼も、毎回死に掛ける直前で回復されて生き残る。飛躍し過ぎの考えかもしれないが、恐らくやってることは魔王の言う昔の人間と変わらないんだろう。
「つまり"生きたい"って生存意欲。それが強さに繋がるってことか」
魔王を見る。意図は正解かどうかという問いだ。
返って来たのは清々しいほどの笑顔と小気味の良い音の拍手だった。
「そうだよサース。結局生き物なんてモノはね、生きようとする力が最も強いんだ。生きようとするだけで生き物はどんどん強くなる。
サース、君の欠点であり弱点はソコだ。君は自分の命を度外視し過ぎている。だから総帝君の悪意や害意の無い煽りに一々腹を立てるし、だからすぐに周りが見えなくなって無茶をする。
なまじ頭が他と比べて良いから、ソコの部分で優越感に浸って自分は他の奴等とは違うという思考に陥り、結局周りの奴等と同じ状態になる。
よく気付いたねサース。自分の弱点がわかった。じゃあ次は何をすれば良いか考えてみようか」
朗らかに言う魔王のカオは、それはもう屈託の無い満面の笑顔だった。




