▼side Another act3:負のスパイラル
「僕は誰だフォルティス・サクリフィスだなら帝の時の僕は誰だフォルティス・サクリフィスの筈だ何故自分であることに自信が持てない何故──」
首都の学園、その学生寮の宛がわれた一室、そのベッドの上でフォルティス・サクリフィスは水の魔法で擬似的な鏡を創り出し、虚ろな目で膝を抱えて座りながらその鏡へと自問自答を繰り返していた。
異変に気付いたのは水帝が次の水帝候補と自身と歳の近そうな青年を引き連れ始めた頃だった。
その頃から何故か自分が自分であるという自信がを彼は持てなくなっていた。
彼の中で何故そうなったのか、その心当たりは有った。
しかしそれは、もはや依存と呼べるほどに行っていた破壊属性による都合の悪い考えや感情の破壊による安定のことで、最初の頃はそれが原因でここまで磨耗するとは思ってもみなかった。
だが破壊属性の魔法を使う毎に自分という存在の境界がわからなくなっていき、その頃から破壊属性の魔法を使う度に自分以外の存在を意識するようになった。
己の内に自分以外の存在を感知してからフォルティスは破壊属性の魔法を使うことを止めた。
しかし精神的に不安定になったり、根拠の無い不明瞭な漠然とした不安に駆られる度にいつの間にか破壊属性魔法を使ってしまい、そもそも破壊属性魔法が危険という考えすらその都度破壊され、再び破壊属性魔法を使おうとする直前に危機感を取り戻し、しかし間に合わず結局破壊属性魔法を使ってしまう。
最近のフォルティスはその繰り返しで彼の人格というものが非常に不安定になっていた。
破壊され忘れている筈なのに、今こうしてフォルティスが自問自答を繰り返せるようになったのか、それは破壊属性魔法による破壊ですら間に合わないほどにフォルティスの中で何かが欠如し、その穴を埋めるかのように自分以外の存在を自身の内に感じるようになっていたからだ。それがちょうど水帝が次の水帝候補と自分と歳の近そうな青年を引き連れ始めた頃だった。
日に日に違和感と自失の恐怖に煽られ、破壊属性による不安や恐怖を忘れたいという欲に抗い続け、それ故に追い込まれ余裕は無くなり、より自分を追い詰める。
フォルティス・サクリフィスは典型的な負のスパイラルに陥っていた。
「……朝か」
結局その日もフォルティスは一睡も出来ずに朝を迎えた。
そして無意識の内に破壊属性魔法で自身の寝てないことにより発生する疲労やそれに追随する肉体的問題を破壊し、破壊したことで破壊属性魔法を使ったことを意識し再び負のスパイラルにハマる。
しかし朝になったことで一夜を過ごすようなことはせず、割り切り、その日の学生として総帝としての仕事を全うするため寮の部屋を出る。
時は上級生への進級初日。
本日から再びフォルティス・サクリフィスは学生として日々を過ごす。




