魔王無双
第二章、始まります。
サクラ共和国プラム国立学園中等部に入学し既に1ヶ月が経った。
魔王との心の距離を縮めたあの日から、俺の生活は下等部の頃と比べるとより有意義な物に変わった。
最初能力テストの際に総魔力量を測るテストの時に勝手に俺の魔力量を漏らされたあの時、確かにクラスの連中は俺を馬鹿にしていた。
しかしその後のレオポルドとの模擬戦や、クソ野郎との殺し合いのおかげでバカにする雰囲気は無くなっていた。
更に、彼等の気質的にある意味当然と言えば当然だが、約1名を除き他クラス他学年問わず老若男女問わず獣人族にモテた。言い方を変えるなら、魔力無しでの模擬戦を散々申し込まれた。
これはまぁ、仕方ないと言えば仕方なかった。レオポルドとの殴り合いを征したのもそうだが、その後すぐにクソ野郎と殺し合いをしたのも相まって、獣人族達の中で「魔力無しであれば俺といくらでも殴り合える」と認識されてしまったからだ。
どうやらレオポルドは同世代の間ではとても強いらしい。まぁ獣人族を束ねる皇族な訳だから当たり前だが、その中でもレオポルドは1つ頭が飛び出ているらしい。
そんなレオポルドを人族の俺が降した訳だからそりゃ血の気の多い獣人族からラブコールを受けるのは必然と言えたが、流石に他クラス他学年の奴等には「放課後や休日以外の纏まった日が有れば」と断り、クラスの奴等とは魔力無しの戦闘訓練の授業で順番に相手をしてもらった。
逆に魔法関連についても色々話すことが増えた。
というのも、同クラスメイトのストゥムが俺と事有る毎に話そうとしてくるからだ。
彼はいわゆる魔法馬鹿だ。そして魔力馬鹿だ。魔法・魔力の探求者と言い換えても良いかもしれない。
クソ野郎との殺し合いで俺はオリジナル魔法をいくつも切った。それを見た彼はクソ野郎との殺し合い後初めて顔を合わせた際に詰め寄って来て、「色々話し合いたい事が有る」と、まるで「逃がさない」とでも言うように俺の両手を握って迫ってきた。
それでまぁ、戦闘模擬戦の前に約束していた事も有り俺も彼の申し出を了承したんだが、これが思いの外楽しかった。
当然と言えば当然なのかもしれないが、当然最初は俺の魔法の事を根掘り葉掘り聞かれた。流石に話せないことは話してないが、魔法を作る際にどんなことを思って作ったのかとかは話した。
それでまぁ、俺と彼の考えが結構似通っていて、すぐに『最低効率で最高効率の出力をどう出すか』みたいな話をして、仲良くなった。
それからは授業と授業の間の休み時間には、移動教室の時を含めて、もちろん授業に間に合うようにだが、時間の許す限り語り合った。
その内容に興味を示したのか、1週間も経てばレオポルドも参加するようになった。
レオポルド曰く、俺と戦うまでは魔力の強化を重要とは考えてなかったらしいが、俺と戦いその後の俺の戦いの話を聞いて特に身体強化に興味を抱いたらしく、それならと俺達の魔法・魔力談義に参加するようになった。
俺とストゥムが語り合い、疑問に思ったり理解出来なかった所をレオポルドが質問する。それを俺とストゥムが各々持論を述べて、違う見解であれば更に話し合う。みたいな流れだ。
そんな生活をしているため、1ヶ月経った俺達のクラスは今3つのグループに分かれていた。
1つは俺達のグループ。主要メンバーは俺、レオポルド、ストゥム、そして2人の取り巻き達。
1つはクソ野郎とクソ野郎に気がある外面しか見ない尻軽達。
1つその他って感じだ。たぶんここは、いわゆる平民とか俺達のグループに入って来れない奴等が組んだって感じだろうな。
学園生活はそんな感じでとても充実していた。
そして放課後や休日については学園生活とは打って変わって血みどろだ。
放課後は主にギルドで依頼をこなした。これは生活費を稼ぐためであり、実際の自然での殺し合いを肌で感じて感覚を研ぎ澄ますためだ。だからいつも請ける依頼は今の俺のレベルより少し上の物ばかりを魔王に選んでもらってる。
魔王。そう魔王は今、冒険者として登録し俺と一緒に依頼を請けている。
ギルドのランクを上げるのは主に実力という意味の強さも有るが、主に信頼という面が大きかったりする。4:6って感じだ。
だから本来であれば魔王は登録したところですぐにはギルドランクを上げられない筈なんだが…、そこは天魔の魔王。4の方の実力という面でゴリ押した。
具体的に言えば、登録した日に貼られていた同ランク依頼を全部請けて、全部その日の内に完遂させた。
例えば食い所の1日皿洗いや街の掃除とか両立出来ない物も有ったのに、それ等全てをその日の内に終わらせた。
何をどうやったか聞けば、自分を分身させただけとか訳のわからないことを言いやがった。実際にどういう物か詳しく聞いてみれば、本当に分身していた。本体は俺に着いて来て、それ以外は請けた依頼の数に応じて本当に分身していた。原理を聞いたが、いつもの創造属性が理由と聞いて萎えたのは今でも鮮明に覚えてる。
それで登録から1週間で俺のランクに追い付き、更に1週間で俺の上のランクであるCランクになり、更に1週間経てばBランクになっていた。
魔王は「色々経験出来て面白いねギルドの依頼って」とか楽しそうにほざいてやがった。それを聞いて本当に何でも有りだなこの魔王と呆れたのは少し複雑な記憶だ。
そして更に1週間がたった今、流石に魔王の快進撃はそこで停滞し、今はBランクとして俺をCランクの依頼に連れて行き俺に生きるか死ぬかのギリギリの戦いを休日は毎回やった。
当然ネックレスはしたまま、つまり俺の強さを無理矢理落として更に無理をさせるってやり方だ。
そして休日は昼間はギルドで依頼を請け、帰ってきてからは廃城でネックレスを外した状態での全力戦闘だ。
そう、最初はネックレスは時が来るまで外すなと言われていたネックレス。
魔王曰く「総帝との模擬戦を見てたけど、ハッキリ言って初めて会った時よりも自力は出来てたけど力の出し方は下手になってたね。これは俺の反省点なんだけど、普段は抑制して全力の出し方を体に忘れさせないようにたまに拘束を解いた方が更に強くなれそうだねサースの場合は」……とのことで、サポーターネックレスは改造された。
だから今の俺の生活は、日中は学園でストゥム達と魔法・魔力談義をしながらレオポルド達獣人族や他のクラスメイト達と戦ったり薬学の勉強をしたり、放課後は廃城で魔王と模擬戦を行い毎日死に掛ける。
休日は魔王とギルドへ赴き、朝からCランク相当の魔物と戦いまくる。当然毎度死に掛けるが、魔王の光属性の回復と創造属性で創られた道具で完全復活。また死に掛けるまで戦う。この繰り返しだ。
下等部では感じなかった、確かな充実感を覚えながらこの1ヶ月を俺は過ごした。
そうして1ヶ月が経ち、季節は秋と冬の間ぐらいの時期になった頃、教師からある報せが発される。
「来月、秋の終わり頃に全学年合同でギルド依頼を請けることになっている。お前達は1ヶ月先のその行事までに可能な限り地力を着けろ。最悪死ぬことになるかもしれないからな」




