燻る炎
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筆を置き、同じ姿勢だったために固まった体を伸びることで伸ばして解す。
章として数えれば今回で5回目となる5章の執筆を終え、改めて昔の自分の無鉄砲さと無茶に苦笑が漏れる。
もしかしたら今もこの頃と変わらないのかもしれないが、それでもこの頃は本当に『休む』ということをしてこなかった、『休む』ということの重要性を理解してなかったから、今思うと本当に馬鹿だったと思う。
変色を始めた右手を隠すグローブ越しに左腕の噛みちぎられた辺りを掴む。
現在トラトトは既に手元には存在しない。マー君が回収したから。でもそれはこの魔界で過ごすようになってからのことで、ユウシャサマとの2度目の一騎討ちまではマー君はトラトトを回収せずにいてくれた。
今回この5章を書いたことで、スァールァドークから教わったことを改めて強く認識した。
まぁスァールァドークから教わった知識こそが腕を再生させるために必要な要素で、だからやっぱり俺以外には魔法薬学の分野での欠損の蘇生は叶わないんだが。
そこまで考えて、ふとスァールァドークから教わった知識を改めて強く意識した。
俺は今でもユウシャサマのことをマー君の妹により歪められたとはいえ、あの精神性はクソ野郎だとは思ってる。だが同時に、俺達はマー君の妹により歪められた被害者で、俺より彼の方が深刻のように写った。
なら、スァールァドークから教わった知識は、スァールァドークから教わった知識を持つ俺は、もしかしたらマー君の妹に一矢報いることが出来るかもしれない。
そう思ってからの行動は早かった。
イギライアと結ばれてからしばらくは残念だったマー君が、俺が人界と離別した辺りでマトモに戻ったマー君は、今頃彼の寝室で彼女とお茶でも飲んでいるのかもしれない。
邪魔するのは少し気が引けたけど、セスフンボスの出番だ。
マー君の寝室へと移動し、やっぱりイギライアとイチャイチャしていたマー君に悪いと思いつつ声を掛けた。
「マー君、ちょっと良いかな?」
マー君はすぐにイギライアとの話を止めてくれて、俺に向き直ってくれた。ついでにイギライアも。
「どうしたんだいサー君?」
「セスフンボスを使いたい」
俺がそう言えばマー君の眉間に皺が寄った。
当然だ。マー君的にはセスフンボスは禁忌らしい。それの使用を俺に願われたんだ、そんな反応になるのも無理は無い。
だから、何故使いたいのか、何に使うのか、何を創りたいのかを説明した。
するとマー君と、ついでにイギライアの2人は大きく目を見開き、そして次には哀しそうな目で俺のことを見た。
「サー君、これは俺達の不始末だ。だからサー君が背負う必要は無いんだよ?」
「マー君、俺は今でこそこの魔界で過ごすようになって、人界に居た頃と比べれば丸くなったけど、やっぱり根本にはまだ復讐という炎が静かに燻ってる。こんな状態じゃ死んでも死にきれない。
復讐するなら、元凶を含めて徹底的にやらないと」
それからも何度か説得されたが、俺が頑なに譲らなかったため、最終的にマー君はセスフンボスの使用を許可してくれた。
その日から、魔界の魔物を魔力を喰い、そして自分の望む物が出来上がるまで、マー君の悲鳴を聞きながらセスフンボスを使い続けた。
ユウシャサマとの3度目の戦いまで残り9ヶ月。
未だ望む物は完成せず。
これにて第五章:強化期間・後編が終了となります。
ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございます。
この後いくつかの幕間を挟み、その後第六章の更新とさせていただきます。
今章からは思い付きではありますがとあることを始めました。それが何かは完結後に軽く触れさせていただきます。
気付く方は何人いらっしゃるでしょうか。その辺も含めて楽しんでいただければと思います。
今後とも拙作『魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺』の応援を言葉にせずともしていただけると嬉しいです。
それではまた!
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「あれ?今日の更新いつだ?」となられたら、こちらを確認していただけると嬉しいです。




