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魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺  作者: 荒木空
第五章:強化期間・後編
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VSイギライア戦


 下から顎を殴られた。そういう感触とそういう衝撃を顎に感じたのは事実だ。

 だが俺の体は一切動いておらず、むしろこの場に完全に固定されていて身動き1つ取れない状態で殴られたような打撃だけが俺を襲った。



 『やっぱりさっきの子も一緒の方が良かったんじゃないかな』

 『何も出来てないよ』



 口許は微笑みを絶やさず、しかしその他の顔の部位で困ったカオをするイギライアに、申し訳無さと怒りが湧いてくる。

 申し訳無さは当然の俺の弱さで、怒りはイギライアの態度にだ。


 彼女のカオ見れば煽ってるつもりは一切無いことがよくわかる。微笑んでいるのも俺を馬鹿にしているわけではなく、純粋に彼女自身が俺の弱さに対して苦笑いしているだけだ。


 断言出来るのは、彼女の魔力に乗っている感情が困惑したものだからだ。

 どうやら魔力での意志疎通では嘘を吐けないらしく、魔力で言葉を交わせばそこに普段なら隠す感情まで乗ってしまうらしい。だから彼女が本気で俺を心配して、そして俺の弱さに困っているのを腹立つぐらいによく感じる。


 だからこそ馬鹿にするなという怒りが湧く。


 あぁ、確かに俺の瞬間火力は恐らくこの歳を思えば最弱だろうさ。

 だがな、魔王のおかげでアンタやクソ野郎やラウムなんかの総魔力量の化け物共にどう抗うかは既に知ってるんだよ。



 回復した傍から魔力を体外へと放出し、その魔力で自分を覆う。そしてその維持と魔力の補充、そして身体強化に優先的に魔力を回して改めて最低限の準備を整える。

 ラウム以上なんだから、それ以上の理不尽で攻撃されることを想定していなかったことは反省だ。だが準備は整った。ここから反撃に出る。


 魔力を体外へと放出して自分を押さえる力に抗えば、先程まで一切身動き出来なかったが普通に動けるようになった。

 だから強化された体で無理矢理イギライアへと近付き、トラトトを横薙ぎに振るう。


 トラトトはイギライアに当たる直前に空間でその動きを止めた。それ以上押し込もうとしても動かせず、逆に離そうとしても動かせなくなった。



 「『水よ!!』」



 トラトト自身を動かせなくなったところで、トラトト自身の能力まで使えなくなった訳ではない。

 だからトラトトに水を出すように命令した。


 するとトラトトから水が堰を切って飛び出すかのように溢れ、至近距離に居た俺やイギライアを直ぐ様包み込む。


 そのことにイギライアは驚いた様子を見せたが、すぐに何事も無かったかのように自分の空間を確保して、軽く俺から離れた。


 トラトトはまだ空間に固定されたままで、それを握る俺も間接的にその場にまた固定されたが、トラトトを宝物庫へと仕舞い直ぐ様手元に出し、トラトトに魔力を送りながらトラトトを構えて、力の限り振り絞り、離れたイギライア目掛けて投げる。

 そして着弾しようがしまいが関係無くイギライアとの距離を詰め、左腕の鞘を外してそちらにも魔力を流しながらイギライアへと斬り掛かる。



 『それ』



 目を大きく見開いて驚く彼女にトラトトが届くのと俺が辿り着き彼女の後ろから襲い掛かるのはほぼ同時だった。


 イギライアは俺の対処かトラトトの対処か、どちらを先に処理するか一瞬でも迷う筈だ。

 案の定、彼女はトラトトの対処の方が優先度が高いと判断したらしく、俺に背を向けた。


 計画通りだ。


 トラトトがイギライアへと着弾する直前、トラトトを再び宝物庫へと仕舞い、再度右手に持った状態で出してイギライアを背中から突く。



 『また』



 それを彼女は、半身だけ体を翻して俺に向き直り、突いたトラトトの三叉の間を両手で掴んで受け止めた。



 『なんで貴方が空間を使えるの』



 答えず、イギライアの頭上に宝物庫に仕舞っていた大剣を、彼女に剣先から突き刺さるように出す。

 彼女は再び驚いた様子で『また』と意思を伝えてきて、恐らく彼女特有の転移かそれに似た移動方法で俺から離れた。


 落ちてくる大剣が俺に当たることなど気にせず、放出した魔力でイギライアの位置をある程度把握し、そちらの方向へと体を走らせる。

 走らせる直前、当然大剣は宝物庫へと仕舞った。



 『また』

 『なんで貴方が何の制限もなく擬似的にでも空間を使えるの』


 「俺の指と引き換えに創った特別製のおかげだよ!!」



 魔力を伴わない俺にとっての普通の言葉で叫んで返し、既に目の前に居るイギライアを叩き潰すべくトラトトを上段から振り下ろす。


 それもまた空間の固定と思われる方法で防がれたが、その抵抗は一瞬で、ある程度の破壊力が下がった振り下ろしがイギライアの頭を捉えた。



 『痛い』



 腕を奮い、トラトトを払い退けたイギライアは俺からまた離れて頭を痛そうにしながら抱えて俺を睨む。


 その様子で、彼女が戦いらしい戦いをしたことが一切無いことを悟った。


 だからトラトトの能力で擬似的に水で左腕を創り出し、水の腕でトラトトを握って指輪からこの一月の間に創っておいたとっておきのショートソードを取り出し右手で握る。


 このショートソードは大刀・餓鬼の代わりに用意しておいた魔力を斬るための剣だ。


 準備が態勢を立て直したところでショートソードをイギライア目掛けて投げ、トラトトを右手に持ち変えて再び接近する。



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