『なんで、だろうな……』
『あなた達はどうやってここに来たの』
話が一段落したところでイギライアはそう切り出してきた。
ことの経緯を話すと、『ダンジョンって何』と聞いてきたため、ダンジョンのことと、話す必要は無いかと思ったが一応そもそも何故ダンジョンに潜ったのか、それについても彼女に伝える。
イギライアは何かを悩む素振りをすると、俺達から少し離れた。すると彼女の腕が鳥の翼へ変化し、脚は鳥の脚へと変化した。
『じゃあ、私の調子を確かめるのに付き合って』
『彼と会って生き残ったってことは、それだけ強いんでしょう』
『なら今の私を相手にちょうど良い』
言い終えると、彼女から魔力を感じた。しかしそれは一瞬で、気付けば俺の体は彼女の魔力に包まれていた。
ラウムと相対した時以上の圧力に思わず口角が痙攣するのを感じる。
しかし上がった口角が下に下りるのを感じないため、自然と笑ってしまっているらしい。
正直戦いたくて仕方がないが、一応水帝のことも見る。
驚いたことに、彼女は何やら嫌悪感を丸出しにしたカオをしていた。
「どうした、そんな嫌そうなカオをして」
「だって!あの子、あのっ、魔族だったの?!」
彼女の反応で何を言いたいか察した俺は、若干の失望と、改めて人類への興味が失せる。
魔族って。そんなに魔族であることがダメなのかよ。
『イギライア。そこの女はどうやら貴女を殺したいらしい』
『なんで』
『さっきあんなに優しくしてくれたのに』
『今の人界は、魔物的な要素を持つ存在を魔族と呼んで、排除するって思想が根付いている。その女も魔族は殺さなければならないって考えの奴だったらしい』
『なんで』
『みんな同じ生き物でしょ』
『なんで一部を排除しようとするの』
『なんで、だろうな……』
『おかしいね、今の人達って』
『私が彼に食べられた頃はみんな生きるのに必死で、人型の子達は人型の子達同士で争うことなんて無かったよ』
『本来目指すべき在り方はそうなんだろうな……』
ホント、なんで、なんだろうな……。
……というか、そもそもいつから魔族は排除するなんて考えが根付いたんだ?
今考えても仕方ないか……。
『イギライア。その女をここから人界へと送れるか?』
『今なら出来るよ』
『なら俺達の戦いには邪魔だ。だからその女を人界のサラビリアン・オグナーダの亡骸の上へと送ってくれ』
『出来るけど』
『良いの』
『あの子は君より魔力が多いみたいだよ』
『魔力が多くても俺より弱いぞ。だから足手纏いだし、もしかしたら無いとは思うが貴女を殺してしまうかもしれない。それを俺は認められないんだよ』
『それは姉の名前まで知ってることと関係してる』
『してるな』
『そう』
『なら準備出来たら言って』
『説明しなくちゃダメでしょ』
『ありがとう。感謝する』
言葉と共に頭を下げてお礼の気持ちを伝えて水帝に向き合う。
「おい水帝」
「何?今の貴方の行動についても色々と聞きたいのだけれど」
「俺達は今から彼女の調子を確かめる為に戦う。その場にお前が居ては邪魔だ。だから彼女の力でダンジョンの外へ飛ばす」
「どういう意味?確かに貴方は私よりも強いわよ。でもだからと言って魔族を見逃せって言うの?それにここから出れるとして、なんで貴方は残るのよ。それにそもそも」
「うるさい」
「…………」
「彼女がお前目線で魔族だとわかった途端にどうした。何故そこまで魔族を毛嫌いする。お前に関わらず人界の奴等は何故そうも彼等を排除しようとするんだ。
お前のそういった所も含めて、今この場にお前の居場所は無いから去れって言ってるんだよ」
「アンタ!言い方ってものが」
「送られたら、そこが何処だかはわからないが転移で帰れ。それとこれもついでに持って行け。その後は自由にしろ。
この約2ヶ月間、紛いなりにも世話になった。じゃあな」
先代総帝だった物を指輪から取り出し、それを水帝へと預ける。
そして更にうるさく何かを言い出す前に、イギライアへ『これ以上居たらよりうるさくなる。だから早く送ってくれ』と伝えた。
返事は無く、代わりに水帝と先代総帝だった物の姿がその場から消える。恐らく無事に人界へと帰れたことだろう。
『これで準備は良い』
その言葉を見て、指輪からトラトトを取り出す。
本来槍というのは両手で扱う武器だが、今回はトラトトの能力目的でこれを使う。
そして小盾の付いたガントレットも取り出し、それを右腕に装備する。
おかげで右腕の見た目がかなり悪くなったが、左腕を元に戻すまでの辛抱だ。
右手だけでトラトトを振り回し、調子を確認してから構える。
「『いつでも良いぜ』」
言葉に魔力を載せ、開始のタイミングを待つ。
その直後、彼女が微笑んだかと思うと、俺は顎を下から殴られた。




