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魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺  作者: 荒木空
第五章:強化期間・後編
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渓谷迷路:VS蟲の女王Ⅱ


 本来虫というのはその構造上毒には滅法弱い造りだ。常に神経を剥き出しにしていると言っても良いのかもしれない。だから神経に働き掛ける毒の塊であるトキシックスライムの粘液というのは虫系の生物には致命的な毒だった。


 しかし蟲のキメラの動きは止まることなく尚もハネの振り下ろしや脚による踏みつけをしようとしてくる。

 毒が効いていない訳ではない。確かに蟲のキメラの動きは遅くなった。だが、本来の毒の効力を思うと効いていないと言えた。


 迫るハネや脚を時に大剣の腹で受け流し、時に避け、その都度節目掛けて大剣を叩き込み、傷が出来ればそこにトキシックスライムの粘液を侵入させる。


 繰り返せば繰り返すほど蟲のキメラの動きは緩慢になっていき、最後には立っていられなくなったらしく脚も投げ出し腹から地面へと突っ伏した。


 もうほとんど動くことはない。この好機を逃す筈もなく、俺は使い潰す用の大剣を取り出してそれにトキシックスライムの粘液を掛けて、頭と胴の関節部分、胴と腹の関節部分、ハネの付け根、脚の付け根と大剣を叩き込んで解体していく。


 解体は思ったより時間が掛かった。

 蟲のキメラが産み出した幼虫達が水帝達の許へは行かず、俺の方へと来る個体が何体も現れたためだ。


 と言ってもその処理は俺の魔法でも簡単に倒せる程度の強さのためあまり意識を割くことはなかった。

 ただ何体かが蟲のキメラの体を喰い始めたため、流石にそれは優先的に処理した。倒しても魔石にすら変換されないということはこの蟲のキメラの肉体そのものが報酬だ。それを少しでもダメにされるのはたまったもんじゃないからな。



 そうして解体しつつこちらに来る幼虫も処理をし解体の済んだ部分を指輪へと仕舞っていく。完全にこの空間から虫が蟲のキメラの死骸その腹部分だけとなった時、後ろから殺気を感じた。


 勘に従い避けて振り返れば先代総帝が剣に赤い魔力を纏わせて立っていた。



 「流石に意思まで封じることは出来なかったか」



 彼の顔は赤く、首元は明らかに血管が浮き出ていて見るからに呼吸し辛そうだった。その証拠に先代総帝は苦しそうにしている。



 「紛いなりにも為政者だろ。一時の感情に流されて人を殺そうとするなよ」


 「ッ!……ま、れッ!!」



 息苦しいだろうに、先代総帝は尚も俺に斬り掛かって来た。


 仕方がないためトキシックスライムの粘液まみれとなった大剣を指輪へと仕舞い、代わりにペーパーナイフ程度の役割しか無さそうな投擲用のナイフを取り出し、それに魔力を纏わせて適当に受け流す。



 「息苦しいだろ?一旦でも良いから俺を殺すのを諦めたらどうだ?」


 「ッまれだ、れだまれ、だま、だまれだまれだまれぇぇ!!」



 その剣の振りに我流だとしても技術は感じられず、本当に振り回しているだけの剣が俺の体紙一重ほどの距離を通過し続ける。


 いつまでも付き合ってやる筋合いは無いが、先代総帝が落ち着かないことには暴力的な解決になって堂々巡りになる。1番はやはり心を折るしかない。そしてこの手の奴は、何をやっても敵わないと思わせるしかない。


 そう考えていた時だった。



 「ッ、少し離れろ!!」



 まだ残っていた蟲のキメラの腹部分、その胴との断面側から気配を感じ、咄嗟に先代総帝の胸を押した。



 「ッ!」



 しかし先代総帝は俺のその腕を掴み、俺の腕が引っ張られた。

 その直後だった。


 その断面から口がムカデの形をしたイモムシが飛び出して来て、ちょうどその断面の前に在った俺の左腕は、その顎により噛み千切られた。



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