渓谷迷路Ⅵ
水帝は目を瞑り、座り込んでいた。まるでもう何も見たくないと言ってるようだった。
それを見て、結局ここは俺が独りで判断するしかないのだと悟った。
そして同時に、改めて、サクラ共和国は本当に終わりなのかもしれない。最高戦力がコレで人類は終わりなのかもしれないとも悟った。
これが愛国心に溢れる者や人類という枠組みが絶対の奴等なら「むしろ俺が」と奮起するのだろうが、より一層俺にその気は無い。だから未来の為になるようなことをする気にはなれない。だからと言って何もしないわけにもいかない。
指輪から鉄と捕縛能力と封印能力を持つ魔道具を取り出し、それを合成する。
完成した物は首輪だった。罪人を逃げられないように拘束するための首輪と言っても良いかもしれない。
能力はこの首輪を嵌められた者の何かを封印したり捕縛するというものになっている筈だ。少なくとも最低限の拘束能力は有る筈だ。
それを先代総帝の首へと嵌める。それで一応の落とし前とすることにした。
「正確にはわからないが、一応それはお前の力を封印するための首輪だ。
封印するのは熔岩魔法と俺や水帝への攻撃の意思。
流石に意思まで封印出来るかはわからないし、そもそも望んだ能力が有るかもわからないが、一応それを嵌めて此処から出たあと1ヶ月はその嵌めたままの状態で過ごしてもらう。それを落とし前としてこの場はこれで終わる。
お前等生き残るために意識を切り換えろよ」
俺がそう言うと、先代総帝は睨むことを止めなかったが、その目の色には縋るようなものが有った。
それは水帝も同じで、何かに縋るような目をしながら「まだ心が折れないの……?」なんて呟いた。
肩を竦めて、2人に背中を向けながら、取り敢えず身体強化を行い魔力を視る眼へと切り換え、改めてこの階層の観察をする。
「俺には目的が有る。それが達成されるまで俺は絶対に死なない。
仮に死んだなら、生き返ってでも達成してやる」
返事は聞かず、取り敢えず周りの散策から再開することにした。




