マンティコア
まず草原だと思ってたこの地平。
これは今、俺には腐敗した肉が散らばる荒野に見えた。
存在している生物全ては確実に魔物で、その腐乱した肉を食っているようだった。
後ろを振り返り先代総帝が撫でていたのは腐乱する前のまだ比較的新しい死骸で、先代総帝の手を一瞥すれば撫でるために使っていた手には少し蛆が付いていた。
そしてこの視界に切り換えてから一定距離を保って、ニヤニヤとしたカオを貼り付け俺達の動向を窺っている、顔は人、体がライオン、尾が蠍の尾、ライオンの背から猛禽類の物と思われる白い翼を生やした魔物が居た。
マンティコア。狡猾に獲物を追い詰め、弱る獲物を甚振り上げる悲鳴に愉悦を覚える残虐非道な魔物が舌舐りをしていた。
俺がこのダンジョンに気付いたことを知ったことを悟られないようにゆっくりと身体強化で体を強化し続け、手は手刀の要領で伸ばす。
そして探索するようにその辺を歩いて、たまに悪臭を我慢しながら湧く蛆が顔に付きそうなのを我慢しながら地面へと顔を近付け痕跡を探す振りをし、準備を続ける。
そして十分に強化が完了したと判断した時、マンティコアへと一気に近付き、その脳天へと腕を突き刺した。
唐突に俺が腕を振ったことで狼狽える帝共の声が後ろから聞こえる。
目の前からは喘ぐ声と溢れ出る紫色の血液が噴き出す。
間脳を掴み、腕を引き抜く。
そうするとマンティコアは横たえ、血がいくらか噴き出したあと、猛禽類の翼と蠍の尾と獅子の手と魔石へと姿を変え、その素材達の下に魔法陣が現れた。
視界を切り換えていて気付くのが遅れたが、後ろから先代総帝の声で「なんだこれは?!手に蛆!?」という声が聞こえる。
試しに視界を普段の物へと切り替えれば、確かに先程まで見ていた景色と同じ景色へと変わっていた。
「サース君、どういうことなの?」
「マンティコアだ」
「あー……、今まで私達は幻覚を見せられていたのね……」
喚く先代総帝を流しながら素材を回収し、無視して魔法陣へと乗る。
「次行くぞ」
一声だけ掛けて魔法陣を発動させる。
そして視界が切り替わると、何処かの洞窟の広い空間の中央だった。
壁には無数の横穴が開いていて、この構造でここの階層がどういう階層なのかを察した。
「構えろ!ここからしばらく地獄だぞ!!」
叫ぶが先か、襲撃が先か。横穴から魔物が溢れ出て来て俺達へ向かって来た。




