帝の実態
「何が起こるかわからない……とのことだったが、拍子抜けだな」
「……どうだろうな。もしもあの兎や馬が、草食に見せ掛けて近寄ってきたダンジョン外の生物を頭が割れて口になって、そのまま丸呑みにする。なんて未知の魔物かもしれないぞ」
「それは臆病過ぎるのでは?」
「正直私もサース君に同意。私はこことは違うダンジョンを経験してる。だから彼が『何が起こるかわからない』の警戒しているのは当然のことだと思うわ」
「なるほど。水帝まで言うんだ、なら俺も警戒しておいた方が良いのかもしれないな」
とは言いつつ、先代総帝は無警戒に兎に近付き、その背中を撫でようとしていた。
「…………なぁ、水帝」
「言わないで……。今頭痛が痛いから」
「頭痛が痛いか。それは手が付けられそうに無いな」
「えぇ本当に」
先代総帝の性格や性質なんてものがいまいちわからなかったが、今回のことでハッキリした。
先代総帝はクソ野郎と同類か、自分の見た物しか信じず他人の話は聞かない部類の人間だ。
更に考えられることは、恐らく先代総帝も前風帝のようにマトモな冒険者じゃない可能性が高くなってきた。
兎や馬だ。奴の無警戒さを思えば、つまりここがダンジョンだという認識が無いのであれば、前者は食料で後者は農耕や荷運びなどの脚だ。『先代総帝』という権力を持っているからということを加味しても、普通の冒険者なら狩るか捕獲することを考える筈だ。
にも関わらず、むしろそう認識せず無警戒に近寄り撫でるというのは……、
「なぁ、今からでお前達とこうして仲良くするの止めても良いか?」
「本当にそれだけは止めて。私達が今団結しないと本当に人類は滅ぶわ」
「なんでこうなるまで放置していたんだ?」
「私達も若かったのよ……」
「それでおおよその予想は付いた。ならサクラ共和国が滅びるのはもはや必然だな」
「縁起でもないこと言わないで。最近ようやく炎帝の危機感を理解出来るようになってしまったのよ。ならなんとかする為に少しでも次世代を今よりマシな人材で固めるしかないじゃない」
「必死だな」
「他人事ね」
「少なくとも現時点では俺は俺の師匠の許に行けば良いだけだし、正直人類の存亡とか割と本気でどうでも良くなってきてるからな。
俺の師匠曰く、理性の有る存在は常に何かを失くしてからその価値を知るそうだぞ」
「金言ね。ハァ、正気になんてなりたくなかったわ……」
「まぁ、頑張れ」
「貴方は頑張ってくれないのかしら」
「なんで俺を蔑ろにし続ける奴等の為に尽力しなきゃならないんだ?俺はクソ野郎共のような馬鹿じゃねぇんだよ。
もし何か俺にやらせたいなら報酬を用意しろ。
取り敢えず今あんた等が俺に提示できる明確な報酬はギルドランクだ。
なんであんた等相手に勝つ奴がDランクなんだよ、おかしいだろ」
「それは……、その通りなんだけど……」
「俺がお前等人類への興味が失くなって行ってるのはそこだ。正当に評価してくれる奴等の所と、正当に評価してくれない奴等の所、どっちを優先するかなんて子供でもわかる」
「……どうにもならない?」
「なら行動で示せ」
話をそこで切り上げ、俺達が話している間に寝転がり兎を愛でたり馬を撫でたりして完全に寛いでる馬鹿の股間に水の鞭を叩き込み、痛みに喘いでる間に被っているローブのフードを取って髪を掴んでその場から移動する。




