▼side Another act4:ウィリアム・パリスの痴態
カエルに成ったウィリアム・パリスは憤慨していた。
何故上手くいかない。何故サース・ハザードばかりが称賛される。俺様の方が優れている、と。
カエルにされたあと、気付けば出勤時に持って来ていた私物と一緒に彼は店の裏手、いわゆる裏路地へと放り出されていた。
普通なら困惑する筈だがこの時の彼はナディア・ガレリアとサース・ハザードへの怒りでそれどころではなかった。
彼が2人へどう仕返しをしようか、しかし力の弱い自分ではどうすることも出来ない、どうしようと悩んでいた時、魔女の瞳の勝手口が開く。
そして開いた扉の隙間から植物が這い出て来てウィリアムと彼の私物を拘束すると、扉の中へと引き込んだ。
「気分はどうかな、愚か者君」
扉の中、店内ではナディアが待っていた。
表情はまさに呆れ顔で、腰と顔に手を当て、正しくどうしようもない者に呆れてる様だった。
「君、友達居ないだろ。しかもたぶんこれまでにも何軒も1週間もしない内にクビにされて来ただろ。
別に自尊心が高いことは否定しないよ。それは君の個性だろうし、正直郷に籠ってる癖に人界の人達を馬鹿にするクソジジイ共と比べたら可愛いものさ。
でも任されたこともマトモに出来ないのは流石に君の感性を否定せざるを得ないよ。これ、もう5回以上は言ってるよね?」
「──!────!!」
憤慨している所に更に核心を突くようなこととウィリアム的に人格否定をされて、人間姿であれば恐らく顔を真っ赤にして脳の血管が切れてそうなほど頭に血が昇った。
ナディアからのアドバイスは頭に入っていない。ただ怒りのままに否定された事実しか頭に入っていない。
それを知ってか知らずか、それともウィリアムの事情など関係無いと言うかのようにナディアは続きを話し始める。
「君は確かに私達の同胞の血を引く人族だった。というか遡れば私と親戚ということもわかった。だから君のお願いを聞いてあげた。私達の技術が絶えるのは忍びないし、同胞の血を引く者がその技術を覚えたいというなら協力もする。
でもそれって最低限のことも出来ない奴には教えるわけにはいかないんだよ。このぐらいわかるよね?わからないのなら正直人生をやり直した方が良いとしか言えなくなるんだけど。
さて、そんな君をこのまま放置して明日までその姿のまま反省してもらうでも良かったんだけど、事情が変わったんだ。
私はこれから約1週間店を空けることになった。
その間君の私物が私の家に有るのは生理的に受け付けないし、今後これ以上君に関わるのもどうかと思った。
だからといって死んで欲しいわけでもない。
だからさ、」
ナディアはそこで区切ると蔓での拘束を解いてカエルのウィリアムの頭に人差し指で触れる。
すると元の人間の姿に戻った。
ただし服は無く、全裸でだが。
そして戻ると同時に再び蔓で拘束され、口も塞がれ、鼻前へと緑色をした花を近付けられる。
「明日までって言ったけど、今すぐ戻してあげる。
でももう君と会うことが無いよう、この店に関する記憶とここ十数分の記憶を消させてもらう。君は気付いたら全裸のままこの裏路地に立っていた。そういうことにさせてもらうね」
ナディアはそう言うと風属性の魔法を使って緑色の花の周りの空気を凝縮し、それをウィリアムの鼻の中で滞留された。
「じゃあね。その感情的に動く癖を直さないといつか取り返しの付かないことになるよ。意識が覚醒した時には覚えてないだろうけど」
その言葉を最後にウィリアムは意識を失った。
そして気が付くと彼は実家の中に居た。
しかし家族が彼を見る目は腫れ物を見るかのようなもので、彼は何故そんなカオをされるのかわからず数日過ごした。
後日、何故そのような態度をされるのか家族から聞き出し、恥ずかしさと行き当たりの無い怒りで顔を真っ赤にするのだが、それはまた別の話。




