▼side Another act2:サースの処遇
水帝の言葉に対する他の帝達の反応はまちまちだった。
炎帝頭を軽く伏せた。彼の中でサースを勧誘することに何か思うことが有るのだろう。
土帝は「ほぅ」とだけ述べ、それ以上の反応は示さなかった。
先代総帝は「ふむ」と頷き、「結果は?」と水帝に続きを促した。
それぞれの反応を確認したあと、水帝はこう言った。
「勧誘には失敗したわ。でも全く興味が無い訳では無いみたいなの。だからお試しということで、彼の師匠が戻ってくるまでの間、私は彼の師として帝の仕事に同行させることになったわ」
水帝の報告に炎帝は「だろうな」と溢した。その声色的に最初から勧誘が成功するとは思って無かったのだろう。
土帝と先代総帝はローブで表情こそわからないが、その隠したローブの下では怪訝な表情を浮かべていた。
当然だろう。勧誘を断った癖に水帝の任務に同行するとはどういうことだと思わずにはいられない。しかも口振りから既に確定したことのように宣った。その事が2人には引っ掛かったのだろう。
水帝はそんな2人の機微を察してか、理由を話し始める。
「まず大前提として、彼の目的は彼を蔑んだ人達への復讐ということ、その為に強くなりたいということ、既に私や炎帝の2人掛かりでも彼を止められないほどに彼は強いということ。この3つを頭の片隅でも良いから覚えておいてちょうだい。
その上でだけど、彼の師匠は今現在サース・ハザード君の面倒を見れない状況らしいの。そしてその実力は未知数であり、もしかしたら現総帝君よりかも強いかもしれない。
その師匠さんについては炎帝の方が詳しいみたいだけど……、何故か語ろうとしないのよね。
だから彼にとって私に師事することは時間の無駄だとハッキリ言われたわ。
彼は総魔力量が一般人より少ない。でも既に私達よりも強く、魔法薬学や魔法陣学にも精通している。
貴方達も最近ギルドに卸されている魔力回復ポーションを知ってるわよね?アレは彼が開発し、コストの低い物での量産に成功させたのも彼。
帝としての戦闘力、それに水帝としての回復力の両方を彼は備えてる。
そんな彼を野放しにするのはこの国にとって大きな損失だと考えたわ。
それでなんとか私達との縁を強固にしようと思って交渉した結果、彼が望んだのは私の任務への同行だったのよ」
「そこで何故任務への同行という話になるんだ?」
「さっきも言ったけど、彼の師匠さんは今彼の傍に居られないらしいの。だから今彼は、自分が望む環境での修行が出来ないでいる。
最初に言ったけど、彼は復讐するために強さを求めてる。それこそ私が警戒し、たった1年前の時点で1発貰う程度には強くなろうとしてる。
その強さはもう言ったけど、既に私達では手が付けられないほど。
敵対してどうこう出来る時期はいつの間にかとっくに過ぎていた。そして現総帝君の件で彼との信頼関係の構築は絶望的。
なら例え利用されるとわかっていても、彼との縁を繋いでおくためには彼の望みを聞き入れるしか方法は無かったのよ」
「……ますますわからん。危険と言ったり、既に我々よりも強いと嘯いたり、まるで水帝がそのサース某に恋慕でも抱いて良いように使われているようにしか聞こえん。
前総帝はどうだ?サース某の件についてどう思う?」
振られた先代総帝は腕を組み唸っていた。
しばらくその態勢のまま唸り、腕を解いたあと、静かに語り始める。
「私はフォルと出会った頃からそのサース君の話をフォル伝に知っていた。
曰く、本気を出したら自分に軍配が上がるけど運動の出来る奴。
曰く、本気を出したら自分に軍配が上がるけど物分かりが良くて頭の良い奴。
曰く、本気を出したら自分に軍配が上がるけど何でも出来る器用な奴。
フォルが彼を褒める時、必ず彼はサース君より自分は上だと主張して彼は自分より下だと自慢気に話していた。
実際戦えば現時点では確実にフォルが勝つだろう。
だが地頭の良さや魔法薬学や魔法陣学の専門的な知識については明らかにサース君の方が上だろう」
「何故地頭の良さがあの小僧より上だと断じる?」
「それこそ水帝の言っていた彼の功績が故だ。
私もあくまで聞き齧った程度だが、そもそも副作用の低い新薬の開発など滅多に出来ることではない。今私達が何気無く使っているポーションも、元々はそれを開発した天才が居たからだ。その天才が作った物を発展させた者達が居たからだ。
だがサース君はこの開発と発展を1人で行った。天才と言わずしてなんと言う?
フォルも、まぁ頭の良さは物分かりが良いことも含め平均より上では有るだろう。だが彼のやってることは何処まで行っても模倣だ。フォルにはフォル個人のオリジナルが破壊属性という点以外無い。
その破壊属性も結局はそういう素質が有るというだけで上手く扱えているとは決して言えないだろう」
「あー、なんだ、つまり何が言いたい?」
「サース君が魔力回復ポーションを卸していることも、普通のポーションを卸していることも私は知っている。
水帝の言葉も話し半分以上には聞いておいた方が良いと思う」
「ほーん、なるほど。
炎帝の様子的に、そのサース某を引き入れることは俺を除いて満場一致というわけだ。
あの小僧もそうだが、其奴等の何がそんなに良いのやら。
まぁわかった。そういうことなら俺もしばらく様子を見よう。
面倒は水帝が見るようだし、俺はそのガキのことは知ったことではないという態度を取らせてもらう。
水帝、話はそれだけか?」
「いいえ。話はここからが本番よ。まずはこれを見て」
水帝はそう言って、ローブの中に隠していた金塊と鉄塊をそれぞれ取り出した。




