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魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺  作者: 荒木空
第四章:強化期間・前編
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▼side Another act1:ケジメ


 サースが地下闘技場から去って行ったあと、魔王は目の前に転がる第四のドラゴン・空間のラウムを改めてゴミを見るような目で睨んでいた。


 彼が最も嫌うことは、傲慢に他を見下し蹂躙するような者やそういった光景だった。空間のラウムが初めに魔王に喧嘩を売ったときも似たような状況、似たような敗走を喫していた。そしてそのあまりの醜さに、魔王は本気で空間のラウムを消し去ろうとした。


 しかし母親や母親の同族である天族達の教えを思い出し、それ故に今も空間のラウムは存命することを許されていた。



 魔王は別に、傲慢であることも他を見下すことも毛嫌いしているわけではなかった。魔王本人も基本的にサース以外の生物を見下していることを自覚しているし、そのように振る舞っていた。部下で言えばルシファーが傲慢の化身であるため、その在り様はしっかり認めていた。


 魔王が許せないのは、そこで相手を甚振る遊びを行うことだった。

 遊びにも色々有るが、相手のレベルに合わせて自分の力を抑制して対等な戦いを行っているように演出する。そんな遊びは肯定的だった。

 しかし空間のラウムの甚振りは、本当にただ人が蟻の巣を観察するかのように、虫籠の中の虫を指で突いたり指で弾いたり、エサを与えなかったり。そのような自分が絶対的強者で、自分が一方的に相手をオモチャにやりたい放題するという品性の欠片も感じられないやり方だったため空間のラウムのことが気に喰わないのだ。


 これで空間のラウムの年齢が人間でいう5歳児に当たるだとか、何かしらの理由で精神的な成長が難しい存在であれば許していた。

 しかしラウムは紛れもなく人間でいう27歳ほどの成人で、魔王としては『良い歳した大人が』という心境のため空間のラウムのことが大嫌いだった。


 1500年前、魔王が空間のラウムが第四のドラゴンに成った経緯を聞いた時、彼に本気で「次は無い」と釘を刺していた。

 そしてその『次』が先程のサースとの戦いだった。


 寝坊に関しては怒りはしたもののそこまで本気ではなかった。

 元来ドラゴンという種族が時間にルーズなことを知っていたため、そこは普通に許容した。


 しかしそのあとのサースとの戦いについては心底許せなかった。

 試練を課す所までは良かった。それはサースの望みであったし、サースの望みとはつまり今の自分の望みだと、むしろ後方彼氏面のような心境でサースの奮闘を見ていた。


 事情が変わったのはサースが大刀・餓鬼を完成した直後からだった。

 明らかに空間のラウムは『試練』ということを忘れ、全力でサースを殺すために魔法を使っていた。空間のラウム的にはまだまだ余裕が有るように見せているつもりだったが、実際は心臓バクバクで今にも逃げ出したいと考えていただろうことを魔王は見抜いていた。

 逃げ出さなかったのはそのちっぽけなプライドが為。それ以外に空間のラウムが先程サースを殺そうとした理由は他に無かった。


 自分が今最も大事に想っている相手を、そう伝えていた相手を、目の前の駄竜は自分の癇癪の為に殺そうとした。


 この事実が魔王の琴線に触れた。

 サースの攻撃を止めたのも、実は現時点のサースでは本当に殺しきることが出来ないのがわかっていたため。確実に空間のラウムを殺しきるためにサースの最後の攻撃を止めたのだった。



 そうしてサースの産み出した自分にすら届き得る武器で空間のラウムを殺そうとした時、そのサースに止められた。

 内心魔王は「邪魔するな」と思ったが、サースがあまりにも必死だったため、毒気が抜かれて殺すのはやめることにした。


 しかしそれはそれとしてケジメは必要だった。

 そのため魔王は、2匹の虫を創り出した。


 その虫は、一言で言えば頭が蚊でハネの無いハエだった。

 それを空間のラウムの眼球、そして鱗が失くなり剥き出しとなった胸へと突き入れた。


 ラウムの体がビクンと跳ねて痙攣する。

 それはしばらく続き、収まった頃に魔王は口を開いた。



 「『目を覚ませ』」



 サースの奥の手である『命令』ではない。魔王が使える権能でもない。魔王の存在としての格による命令でもない。

 ただ上司が部下に命令するかのように、そういう我々人間の間でも普通に行われているありふれた命令を行ったのだ。


 その命令だけで空間のラウムは強制的に目を覚まし、自分の身に何が起きたのかわからず目を白黒させていた。


 実は空間のラウムは、サースがこの場を去った頃には既に意識は覚醒していた。

 ほとぼりが冷めるまで、魔王が自分への興味を失くすまで、気絶した振りをしてやり過ごそうとしていたのだ。この時に多少痛め付けられたとしても反応は示さない。それが何よりも目の前の天魔の魔王をやり過ごす方法だと経験で知っていたからだ。


 そんな風に生き残ることに必死になっていた時に、唐突に脳ミソをグチャグチャに掻き混ぜられたような気持ち悪さと、心臓を握り潰されているかのような苦しさを感じて発狂しそうだった。

 そこに更に、ただ普通に命令されただけなのに自分の意思とは関係無く動く体に理解が追い付かず、故に頭の中は混乱で一杯だった。



 「『お前は言葉を発しなくて良い。黙って俺の話を聞け。』


 ……なぁ駄竜。1500年前、俺は次は無いと言ったよな。なのに今回、俺のお気に入りを潰そうとした。

 本当にお前にはガッカリだよ。サースが止めていなければ本当に殺してた。そのぐらいお前は俺の琴線に触れた。触れ過ぎた。あぁ、紛いなりにもお前は竜だから逆鱗に触れたとでも言っておこうか。


 サースが望んだから生かしてはやる。

 だがもうお前を自由にする気は俺には無い。皆無だ。


 だからお前の生殺与奪も生活も、全部俺が監理することにした。


 お前は今、自分の意思で体を動かせないだろう。常に頭をまさぐられているような不快感と心臓を握り潰されているような苦しさを味わってる筈だ。

 それ等の理由がお前が動けない理由だ。


 お前の脳と心臓に今創り出した虫を1匹ずつ忍ばせた。

 お前の意識は常に生きているが、お前の体はこの2匹の虫に支配されることになった。お前の意識の覚醒も、お前の意識の喪失も、最早俺の手の平の上。俺が気に喰わないことが有ればお前は俺の玩具としてやりたい放題される。そんな人形へと成り下がった。


 これからお前は、己の意識が有るまま、望まないことをやり続けるだけの生を送る。それが俺からお前に下すケジメだ。


 精々自身のこれまでの行いを悔い、そして無意味に苦痛の時を生き続けろ。


 もう2度とお前のことは見たくない。俺の前から消えろ」



 魔王が一方的に語り、最後に消えろと言葉を紡げば、空間のラウムはその場から姿を消した。空間のラウムの所以である空間属性の魔法で転移したのだろう。

 空間のラウムが何処へ行ったのか、それを知る者は最早、魔王と人形となった空間のラウム本人にしかわからない。



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