「今回はまだマシな方だぞ」
視界が開くと、そこは金銀財宝が散らばる場所だった。
もしこのダンジョンがとても悪どいということが無ければ、恐らくこのダンジョンの宝物庫なのだろう。
悪どいダンジョンであれば、目の前のこの光景は全て幻で、俺達を殺すためだけの場所の可能性が非常に高い。
「なぁ、お前等には目の前の光景はどう見えている?俺には金銀財宝が散らばってるように見えるが……」
「急に何を言ってるんですか?
……私にはサース君と同じ光景が見えていますよ」
「私もね。ここはこのダンジョンの宝物庫ということじゃないかしら?ダンジョンをクリアした者達への報奨……みたいなね」
「…………考え過ぎか。
あぁ、水帝の言う通り、俺の経験上ここは宝物庫だ。ここに有る物は全部俺達の物だ」
「これだけの高価な物や鉱物なんかの資源を手に入れられるのはとても魅力的ね。他の帝達にもダンジョンを紹介してあげたら更に戦力の増強や市民の生活が豊かになるかしら」
「それは俺の仕事じゃない。帝達で話し合え」
話をそこで切り、俺は指輪へと次々部屋の中の物を仕舞っていく。
途中、金塊や鉄塊なんかを回収している時に、その下に魔法陣が有った。それが帰還の魔法陣なのだろう。
全ての物を収納し終えたあと、俺達は魔法陣へと乗り軌道させた。
視界が変わると、そこはダンジョンの入口だった。試しに転移を試してみれば問題無く使えたため、本当にアレで終わりだったらしい。
「終わりだな。どうだったエンラジー?俺との冒険は」
「サース君との今の差をまざまざと見せ付けられた気がしますが、同時にサース君が普段言ってる『甘い』や『もう少し真面目に自分を鍛えろ』という意味がわかりました。
サース君の話的に、こんなことをマトモな休養をせずに行っているのでしょう?そりゃあ私達が強くなる速度とサース君が強くなる速度は文字通り桁違いに早いでしょうね」
「今回はまだマシな方だぞ」
「……私には真似出来そうにないですね。今の私にはここかこれより少し下ぐらいが限界そうです」
「そうか。
それで、水帝。アンタはアンタ等の目的を達成出来たか?」
「そう、ね……」
エンラジーの感想を聞き、水帝に話を振ってみれば、何故かそこで彼女は言葉を詰まらせた。
しばらく黙ったあと、流石に何か言えと思い口を開こうとした瞬間、続きの言葉が出てきた。
「ねぇサース・ハザード君。確かに君は単一の属性しか使えず総魔力量も一般人より少ない。それでも貴方の持つ知識や現状の力はこの国に、我々人類に必要な物だと判断したわ。
だから水帝の名の許に正式に提案します。
サース・ハザード君。君、次期水帝に興味は無いかしら?」
水帝から出てきた言葉はそんな言葉だった。
あまりにも唐突過ぎたため、一瞬思考が止まる。
そして復活した思考で深く考え、色々考えて、それで、
「……今すぐには答えられない。俺には目的が有る。その目的が為にアンタは俺を警戒していた。そしてそれを他の帝達にも共有して、俺を危険視したから今回こうして同行していた筈だ。
それがどうしてそんな結論に至った?」
「色々理由は有るけれど、1番大きいのは貴方という人間の稀少性です。
先程も言いましたが、貴方の持つ知識は、現状の力量は、そして貴方がこれから成すであろう偉業とも呼べそうなものは、今の私達には必要不可欠だと認識を改めました。
なので正式に提案しました。
次期炎帝は横に居る彼です。そして総帝は、貴方は相当憎んでいるようですが彼です。
世代交代という話です。
帝は人類最強クラスの集まり。その印象を維持するためにも貴方の力は必要です」
水帝の言葉を纏めるならば、排除するより取り込んだ方が利になりそうということか。
どうやら現状で既に帝達基準ですら俺はもう彼等の上を行ったらしい。つまり自分達には手を付けられない。もしも俺が国や人類に悪影響を及ぼすようなことが有れば誰にも止められない。飛躍した考えだが、そう考えたのだろう。
現状で手を付けられないのなら取り込んだ方が制御下に置ける。そうして監理すれば、少なくとも自分達への被害は最小に抑えられるとか、そんな所か。
なら俺の返事は……。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
そこまで書いたところで俺は筆を置いた。
そうだな、この時の問い掛け選択がたぶんターニングポイントってヤツなんだろう。
あの時の俺の選択が今の俺を形作ったんだろう。それは間違いない。
あの時、反対の選択をしていればどうなっていたんだろうな……。
今の選択に後悔は無い。ただ、もしもの自分というのにも興味は有る。
だから第四章のタイトルは『ターニングポイント』。これで決まりだな。いや、確かに俺の人生にとって重要な時期だったけど、同時に今の強さを手に入れられるかの重要な時期でもあった。なら味気無いけど、シンプルに『強化期間・前編』とかでも有りか。
格好良いのはターニングポイントだけど……さて、第四章のタイトルはどうしようかな。
そこまで考えたところでマー君に呼ばれた。
用事は世界会議とのこと。
世界会議というのは、魔界、エルフの郷、天界の人界以外の世界の代表が集まって議論し合う会議のことだ。
俺が呼ばれるのは、一応人界代表としてだ。
俺が人界の代表と言えるのかどうかは判断出来ないけどね。
マー君に軽く机の上を片付けてから会議室に行くことを伝え、第五章のことを考えながら机の上を整理する。
さて、次の第五章はどの事をメインに書いていこうかな。
これにて第四章:強化期間・前編が終了となります。
ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございます。
この後いくつかの幕間を挟み、その後第五章の更新とさせていただきます。
今後とも拙作『魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺』の応援を言葉にせずともしていただけると嬉しいです。
それではまた!
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「あれ?今日の更新いつだ?」となられたら、こちらを確認していただけると嬉しいです。




