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魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺  作者: 荒木空
第四章:強化期間・前編
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第1層:中ボス戦VSバイコーン


 俺の知る大人にしては珍しく、むしろ過保護と言えるほど丁寧に進んだ道の目印を残してくれていた。


 彼女が進んだであろう道、その両端に有る木の彼女の胸高さ辺りに刃物で切り点けたような痕が進行方向の先に続いていた。それこそ走りながら両手に短剣でも持って走りながら斬り付けたみたいな痕だ。


 その痕を追って進む。

 途中で明らかに矢印の痕が有り、つまりこのまま進むと何かが有るということを知らせてくれていた。


 矢印の方向に進み、またも過保護と思えるような痕を追って行けば、また曲がった。


 そんな進み方を続けていると、気付けば拓けた場所が強化していない肉眼で確認出来る位置へと着いた。

 肉眼で確認出来るほどの距離に着けば、足元の草むらに体を隠すように屈んだガレリアが居た。



 「見て」



 隣に同じように屈むとそう言って来たため言われた通りに指された場所を見る。


 そこには1匹の馬が居た。

 馬とは言ったが、その見た目とここがダンジョンということから恐らく魔物なのだろう。


 その馬には角が生えていて、その角はまるで山羊の角のようだった。見る者によったら悪魔を連想させるような角だ。


 蹄は獣の爪のように鋭く、人でいう蹄の踵部分の辺りからは釣り針のような返しの付いた突起が有った。


 体毛は赤紫色で、背骨に沿って生えるたてがみの色は黄色だった。


 角は黄金色と言えるほど黄色く、角そのものは溝が有りその溝は先から頭蓋の方へと螺旋を描いている。



 そんな生物が静かに伏して眠っていた。

 これだけであれば、まぁ、珍しい魔物と出会えたと言って無視が出来るが、ここはダンジョンで目の前に居るのはダンジョンの魔物だ。当然普通の魔物ではなかった。


 ダンジョン側の演出か、それとも俺達がちょうどここに訪れる直前まで事が行われていたのか、周囲には体に穴の開いた動物や魔物に限らず様々な生物の死骸が転がっている。

 そしてそのどれもが胸の辺りだけ汚く開いており、明らかにその角で貫いただけでは付かない傷を遺していた。

 ヤツの口元は血でベッタリになっており、この状況証拠だけでヤツが何を食うかが用意にわかった。


 だがそれとは別に、近くには穴の開いた死骸だけでなく焼け焦げたような死骸も有った。もしかしたらヤツは火属性の魔法が使えるのかもしれない。


 観察してわかったのはこれぐらいだった。

 そして彼女がこうやって身を隠している理由もこれでハッキリした。



 「案は?」


 「移動の初日にも居た彼女の魔法であの角か首を切り落とすか、貴方の魔法で窒息させるか、かしら。


 なんにせよ私1人じゃ無理ね」


 「そうか」



 後ろに振り向き、俺達と同じく身を屈めていたエンラジー達に今の会話を聞いていたかを確認し、確認が済むと同時に話を聞いてる時から考えていた作戦を5人に伝える。


 最初、作戦を聞いた帝の女達は難色を示したが、その反応がわかりきっていたため帝達を使わない作戦を話せば、それはそれで何か言いたそうなカオをしていた。


 だから「不満が有るなら帰れ。あくまでお前等は部外者だ」と言って伊敷から外し、エンラジーとガレリアに確認を取ってから、俺達側から見て馬の後ろ側へと1人移動した。



 移動し、近付くと、馬は静かに立ち上がる。

 そしてその蹄で地を掻き、後ろに回った俺の居る方へと威嚇してきた。


 薄々感じてはいたが、どうやら今俺の居る場所は風上らしい。先程まで居た場所は風下だったからこそ、6人もの人間が集まっても臭いで近付いていることがバレなかったのだろう。


 気付かれたのならば仕方ない。

 身体強化をしっかりと行い、指輪から短剣を1本取り出しゆっくりと馬の前へと姿を見せる。


 姿を見せてからはより一層馬は興奮し、その荒い鼻息がしっかりと耳へと届く。

 だが不思議なことに、その角は、擬音にすればビリビリだろうか。そんな音を立てて薄い水色に発光していた。


 その現象と、近くに転がっていた焼け焦げた死骸でそれが何かを察し、悠長にしている暇は無いと判断した俺は、一直線に馬へと駆け寄りその体躯を通り抜け様に斬り付ける。


 作戦には無い行動だった。しかしこうして急がなければ間違いなく死ぬのは俺だった。


 当初の作戦は、俺が後ろへと回り、近付き気付かれ、ある程度戦った後にエンラジーとガレリアが後ろから不意打ちでこの馬の首を落とすという物だった。


 しかしこの馬の属性が、火ではなくしかし結果の現象を火と似たような状態に出来る自然現象雷を使えるとわかったならば、こんな作戦は意味を為さない。


 本来雷属性というものはこの世に存在しない。自然現象としても、観測はされているが『神の裁き』なんて呼ばれて何が起きたか理解されていない不思議な現象だった。

 恐らくエンラジーや帝達もこの現象については知らないだろう。

 ガレリアはもしかしたら知っているかもしれないが。


 俺が雷の存在を知っているのは、やはり魔王に読ませてもらった書物が理由だった。

 『一瞬の内に木を焼き切り、地を穿ち、悉くを破壊する自然現象が存在する。それを雷という。これは──』みたいな記述だった。その書物には雷の特性と、雷と似た現象の『電気』という概念についても触れられていた。だからこそこの馬の角に起きている現象を『帯電』と呼び、それが雷が発生する予兆とも書かれていたため猶予は無いと判断した。


 だから作戦を無視し、恐らく今居る面子の中で1番速く動けるであろう俺自身が動いた。

 何より標的は俺だ。俺がヤツが捕捉出来ない速度で動かなければ、たちまちこの身は感電し焼き焦げることだろう。



 一直線に近寄り斬り付け、馬の後ろに着くと同時に側面へと回りヤツの攻撃が間違ってもエンラジー達の方へと行かないように立ち回る。


 これがかなり面倒臭くて、動きが制限されて煩わしい。

 これまで戦いの中で己に縛りを設けて魔物と戦うことは多々有った。しかし立ち回りを制限したことは無かったため、非常に動きにくい。


 そんなことを考えながらも馬の体を斬り付け、俺を捕捉出来ず右往左往する馬を翻弄し傷を順調に増やしていく。


 しかしその立ち回りは長くは続かず、馬はその肉体へと雷を放った。ヤツの体が焼き焦げることはなく、逆に角と同じ現象がヤツの体全体に広がっていた。

 だが先に斬り付けていた場所から煙が出ており、肉を焼いた嫌な臭いが馬から立ち込めていた。この臭いは斬り付けたことで体毛や皮の下の肉が露出し、それ故に本来であれば体毛や皮で止まっていたであろう雷が少なからず馬の肉体を焼いた為だろう。


 しかもこの雷で状況がまた少し後転した。

 ヤツは肉体から血を流し、止血する間も無く更に傷を増やして出血していた。だが今の雷で傷口は焼け、それが結果的に止血となってしまい、同時に雷をその身に纏ったことで直接的な攻撃が難しくなってしまった。


 仕方がないため、帝達の前だがいつもの奥の手の1つを使う。



 「『動くな』!」



 命令を行い、馬の動きが止まったと同時に馬の口と鼻を覆うように作り出した水球を纏わり付かせる。

 そしてそれを操作して咽の奥へと侵入させ、肺へと水球を運ぶ。


 これのせいで馬は非常に暴れた。それこそ所構わず、俺に狙いを定めるなんてことをせず、この拓けた場所全域を隈無く潰すかのように角から雷を発した。


 それを水球の操作を行いながら身体強化の能力も上げ続けて避け続け、避けて避けて避け続け、馬が力尽きるのを待った。



 そうして体感5分後、馬は天へと吼えるかのように体を伸ばしたあと、痙攣しながらその体を地面へと落とした。

 そして消えたかと思えば、握り拳2つ分ほどの大きさの魔石と、馬に生えていた2本の角へと姿を換えた。



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