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魔王の親友は勇者の親友的立ち位置の俺  作者: 荒木空
第四章:強化期間・前編
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ナディア・ガレリア


 思いも寄らない所で思いもよらない言葉を吐き掛けられて一瞬思考が停止したが、その声に聞き覚えが有った。



 「…………おい、こんな所で何をやってるウィリアム・パリス。いや、何をやってるかなんてどうでも良い。

 店員としてそこに居るのなら、しっかり店員としての仕事を全うしろ」



 どうやら今日は厄日なのかもしれない。ギルドでめんどくさい新人受付に当たったかと思えば、行き付けの店でもめんどくさい奴に当たった。なんだこのクソみたいな遭遇は。


 俺に言い当てられたウィリアム・パリスは、バレると思っていなかったのか、「な、バレ、ささてはキサマ!お、おおおお俺様のことっ、おお俺様は普通だ!ソッチの気は無い!!」とか、訳のわからないことを言い出した。


 自分でもわかるほどに、大きな深い溜め息が自然と漏れる。

 本当に厄日だ。絶対にこの後無駄な時間を取られることは目に見えていた。だからこそこれからの心労を思うと既に疲れを感じた。



 「訳のわからないことを言ってないで、さっさと商品の受け渡しをしてくれ。お前がここで働いている理由は至極どうでも良いが、俺は客でお前は店員なんだ。金はしっかり払っているんだ。店員としての仕事をしてくれ」


 「き、キサマ!それが客の態度か!!」


 「逆に聞くが、それが金を払った客への態度か?」



 キリが無い。だから会計所に有るベルを鳴らした。



 「なァっ?!」



 このベルは会計所に店員が居ない時に鳴らす物だ。

 言い換えれば他の店員を呼ぶベルだ。


 リィンリィンとベルの音が空間に響く。まるでそこから特殊な音の波が発せられてるかのように、気になって片目だけ魔力を視る眼に変えてみれば実際にベルから魔力の波が発せられていた。


 そしてこれまでは唐突に現れると思っていた普段の店員は、魔力視の視界では空間に穴を開けそこから現れていた。徐々に元居た場所から目で見えないほど細かな粒子となってこの場に移動して来ているかのように、ゆっくりと。


 全ての粒子がこの場へと移動され、この店の店長の姿が魔力視をしていない視界に現れる。



 「どうしたんだいお客さん?ってハザード君か。店員が居るのに呼ぶなんて君にしては珍しい。何かこちらの者が粗相でもしたかな?」



 彼女は見た目からして魔女然とした格好をした若い女だった。歳は20代中盤辺りだろうか。


 鍔の大きいとんがり帽子。帽子も含め黒を基調とした服装。そして大半の世の男なら喉を鳴らすだろうほど大きい豊満な胸。


 物語に記される魔女を若々しくすればこんな風になるといった様相の彼女は、この店の店長でありたまに俺とポーション関係の話をする、ナディア・ガレリアという女だった。



 「どうもこうもない。何故コイツがここで店番しているのかは知らないが、店員としての勤めも儘ならないようだから呼んだんだ」


 「店員としての勤めも儘ならない……?そんなに酷い接客をしたのかい?」


 「いや!あの!おいサース・ハザード!受け渡しを所望していたな!!今すぐ俺様がやってやギャァーー!!」


 「今のお前の言葉で何が有ったかはある程度察した。

 そうか、お前が嫉妬している相手は彼か。


 だがここは私の店で、彼は私の客だ。そして金が欲しいからと私の技術を習いたいからと頼み込んで来たのはお前だった筈だ。何でもするとも言っていたな?


 なのにお前は満足に店番すら出来ないのかウィリアム・パリス?」



 馬鹿が高圧的な態度のまま話を有耶無耶にしようとしたところ、アッサリとその魂胆は見抜かれたようで、馬鹿の頭を片手で握り潰すように掴んだ。


 声もとても平坦で、聞くものによっては寒気すら覚えそうなほど声も冷たかった。


 それをこんな冷徹な声を出せたんだな程度に思いながら見ていると、突然馬鹿の体がカエルの姿へと変わった。



 「明日のこの時間までお前はそのままだよウィリアム・パリス。私情を挟んでマトモに接客すら出来ない自分を呪いな。


 …………ごめんねハザード君。せっかくのお得意様なのに迷惑掛けて。

 良ければ色々とお詫びをさせて欲しいんだけど、受け取ってくれるかな?」


 「いや、別に要らない。どうやら今日はそういう日らしいから、別に絡まれたことは気にしてない」


 「でもでもぉ、店長としてはお得意様のお客様にご迷惑を掛けたんだから、その分のお詫びもしたいんだよね」


 「あー、だったらこれを買い取ってくれ」



 言いながら指輪から新鮮なマンドラゴラと葉の付いた木の枝を取り出しカエルに重ねるように置く。


 置いた途端。いや、この2つを目にした途端、ガレリアのカオが真剣なものとなり先程馬鹿へと発していたような冷徹な声へと変わった。



 「ハザード君、これは?」


 「詳細は言わない。言う必要も無いしな。

 ただしばらくは無理だが、俺はこれの在庫が大量に有る。この店に卸すぐらいの量なら。


 だがいつまでも溜めておく訳にはいかないだろう?だからこれを捌いてほしいんだよ」


 「…………どっち?どっちから採って来たの?」


 「詳細は言えないって言っただろ。だが、そうだな。耳は長くないな」


 「────!?なんで?!どうやって!!?教えてハザード君!どうしてアッチの物を君が所有出来てるの!!?」


 「だから答えないって」


 「でもっ、じゃあっ、あ、いやそっか。うん……。


 ……じゃあもう、私の体をハザード君に差し出すぐらいしか払える物無いんだけど?」


 「それも要らん。というかそういう系は全く興味無い」



 とまぁ、そんな『お詫びしたい』と『別に要らない』の押し問答が続き、結果的にはとある結論へと落ち着いた。



 「本当に、それで良いんだね?」


 「アンタの知識と技術は格別だ。アンタと話す度に俺の知識も考え方も拡がる」


 「嬉しいこと言ってくれるね。でも、じゃあ、頑張らないとね!


 準備してくるからちょっと待ってて」


 「俺もまだ行くところが有るからゆっくりで良いぞ。待ち合わせ場所は」

 「北門でしょ!じゃあ一刻後に!!」



 俺の言葉を遮りそう言った彼女は姿を消した。俺の商品の受け渡しを行わずに。



 「…………」



 仕方なく買った物全てを指輪へと収納した。

 その頃にはいつの間にかカエルの姿は消えていたが、まぁそれは大事の前の些事だろう。



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