道具屋『魔女の瞳』
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ギルドを出て道具屋をいくつか回る。
欲しい物を買うためというのも有るが、基本的に俺の欲しい物は道具屋は道具屋でも専門的な物を置いてる店にしか置いてないことが多い。
戦闘に耐えれる強度の金槌なんかもこの道具屋で手に入れた代物だ。
他にも彫金や彫刻なんかに使う金属鑢やノミなんかも売ってる店が有る。
今回のこの買い出しはダンジョンで消耗したそういった道具の整備が目的だった。
今向かっているのは主にポーション用のガラス製品を多く扱っている店だ。
他の整備に時間の掛かる物を取り扱っている店から回り、最後にガラス製品を多く扱っている店に行く。これはいつもの俺のルーティンだった。
ここが終われば食い物の買い出しだ。
そして一通りの食い物の貯蓄を終えたらまた道具屋を回る。今度は最初に行った店が最後になるように回る。
今向かっている店の名前は『魔女の瞳』という店だ。
魔女と聞けば、物語に出てくるおどろおどろしい大窯を大きなヘラで掻き回している大きな鍔の円錐丸型帽子を被って全身の体型がわからないような黒系の服を着た老女というのが一般的だろう。
しかしこれがポーション系の素材を扱う専門店という見方をすれば、この道具屋は一気にその意味その価値が俺達のような職人にはまさに夢のような店へと早変わりする。
ポーションは元々魔女の技術を人間が真似たと言われている。そして魔女の瞳はガラスで出来ていて、この世の全てをその眼を通して見ているなんて言い伝えが有るほど魔女とガラスの親和性は高い。
つまり『魔女の瞳』とは、ポーション系を扱う店として見た時、とてもお洒落でそれほど取り扱っている物に自信が有るという現れでもあった。
名前で畏怖して集客数は少ないだろうし取り扱っている物の中には稀少な物が稀に有るため全体的に値段は高いが、それ故に良いものが取り揃えられてる店。それが魔女の瞳という店だ。
店へと辿り着き、狭い扉を潜っていつも買う商品を専用の買い物籠を指輪から出して中へと商品を入れて行く。
この買い物籠もこの店の魅力の1つだ。どうしても数を揃えようとするとそれだけで手持ちが一杯になる。だがこの買い物籠はポーションのガラス瓶を傷付けず、隙間無く仕舞えるように工夫されていて、それだけでこの籠にお金を掛けていることがわかる。
しかもこの買い物籠、持って帰っても良いのだ。次に来た時に返せば良いのだ。つまり持ち運びが便利という訳だ。
この買い物籠はとても考えられていて、商品が入った状態ではどう頑張ってもこの店の扉を潜り抜けることは出来ないほど大きかったりする。扉が狭いのも盗難防止の為だ。そしてそのまま籠ごと持って帰り、次来た時にその持って帰った籠で買い物すれば割引してもらえる。つまり繰り返し客が来るような仕組みになっている訳だ。
籠には名前を書く場所が有り、籠ごと持って帰る場合は初回時にその籠に購入者の名前を書かれる。こうすることで次回から割引が適用される訳だ。
そして商品の受け渡しは店の扉の所で行われる。籠は折り畳めて、折り畳まないことには店から出られない。だから受け渡しは店の扉の前で行われる訳だ。その為会計は店の入口で行われる。これもこの店の特徴だ。
盗難と言えば、店員を振り切って両手で持てる程度の量しか持たず盗もうとする輩も当然居る。しかしその対策もしっかりしていて、どういう原理でその機構が出来たのかはわからないが恐らく魔道具なのだろう、会計の済んでいない商品が店から出ると何故か爆発してしまうのだ。突然の爆発で手や体周りは爆発したガラスで裂傷。犯人は逃げることが出来ずそのまま取り押さえられる。だからこの店での盗難は絶対に不可能だったりする。
初めてここを訪れた時にお金をその時買った額の倍払って会計の済んでいない商品がどうなるかの確認をさせてもらったことが有る。商品の質もさることながら、そういった盗人への対処という意味でもここは俺のお気に入りだったりする。
一通りのポーション用のガラス製品を籠へと入れ、掘り出し物がたまに置かれている商品棚へと移動する。
今回はどうやら当たりらしく、少し萎びているがマンドラゴラの根と俺が魔力回復ポーションを産み出す前に主に魔力回復に用いられていたソーマという木の葉が厳重に保管されていた。
他には新鮮な薬草やあらゆる種類のそれ単体で使えばただの毒草が数種類置かれていた。
マンドラゴラとソーマを見て、思わず笑ってしまう。
本来マンドラゴラもソーマの葉も簡単には手に入らない。こうして市場に出ればすぐに買い占められるぐらいには貴重な品だ。
この店がどうしてこうやって貴重な素材を入手しているのか甚だ疑問だが、俺の指輪の中にはこのマンドラゴラとソーマの葉がそれこそ何処の店にも卸せるぐらい大量に有る。
マンドラゴラもソーマも、つまり魔界の植物という訳だ。魔王曰くエルフの郷にも有るらしいが、今は関係無い。俺は魔界に行ける。だからその群衆地に行って木や繁殖に必要な分さえ残せば無限に摂れる。魔王と出会う前であれば、今頃嬉々としてこれ等を店員に声を掛けて買っていたことだろう。
今回欲しい物はなかった。だから素直に入口へと戻り会計をする。
「会計を頼む。いつものガラス瓶の補充だから割引も合わせてこれだろう。受け渡しを頼む」
慣れた物で、今自分が買った分と割引された値段というのは商品の値段を覚えておけば簡単に計算出来る。
だから会計所に居た店員にそう声を掛けたんだが、何故か一向に動こうとしない。
「? おい、商品を買うと言っているんだ。籠を見れば俺が何度も来てることがわかるだろう?早く受け渡しをしてくれ」
しかし店員は一向に動く気配が無く、むしろ嫌がらせをしようと企んでいる。そんな邪な気配を感じた。
その直後、「キサマに出す商品など無い!」と言われた。




