めんどくさい輩
転移した場所は首都正門から3キロ離れた場所。
何故門の近くに転移しなかったのかと言えば、これは警備のことを思うと当然のことで、例え身元がしっかりしていたとしても、緊急でもないのに転移で門の前に出るなんてのは普通に拘置所に連行されても文句を言えないためだ。
3キロも離れたのはこれが理由で、魔王に借りた書物には地平線というのは現在地から3キロ離れた場所から先が見えないためらしい。ちなみにこれは人界の話で、魔王曰く天界を除く他の異界の地平線は1キロから2キロ前後らしい。
この知識が嘘か本当かはわからないが、それなら地平線ギリギリ外辺りに転移し、そこから歩いて行けば、まず怪しまれない筈という事だ。
……というのは建前で、実際はこの首都へと初めて訪れた時に、実際に門近くに転移して半日も掛けてネチネチと説教されたためだ。
アレのせいで寮入りがその日の夜遅くになってしまった。
そんな時間の無駄を失くす為に門番が監視出来る範囲から普通に近付く為に地平線の外に転移した。
転移してからは歩いて門へと近付き、門番に補給の為に戻った有無を伝えて首都へと入る。
最初に向かったのはギルドだ。
まずはお金を手に入れないことには始まらない。
俺の全財産は全て指輪に入っている。それに食い物や金属なんかの自分で現地で調達出来ない物以外にお金を使うことはまず無いため貯蓄は十分に有るが、納品依頼を達成してお金を得る方がギルドからの信頼も買えるしお金も手に入る。
ギルドへと入り、掲示板に貼られた納品依頼を探す。
それはすぐに見つかり、手元に素材が有る物全ての納品依頼全てを掲示板から外して1番近い受付へと持っていく。
「この納品依頼に書かれたヤツ、全部持ってるんだが、処理してもらえないか?量が多いから出来れば解体場の方で出したいんだが」
「……失礼ですが、本当にこれ等の納品物をお持ちのようには見えないのですが?それに中には高ランクの依頼書もいくつか見受けられますが、貴方のギルドランクはいくつでしょうか?」
俺としては既に当たり前のこと過ぎて忘れていたが、そういえばそもそもこの世界には『宝物庫』や指輪のような能力の概念が無い。
それに確かに納品依頼とはいえ、今や当たり前のように流し程度にしか狩らない魔物の素材は本来BランクやAランク、中にはSランクの物まで有る。そんな高ランクの依頼を達成出来る存在なら忘れられる筈が無い。
無いんだが、
「アンタ見ない顔だが、本当にここ数日で職員になった新人か?一応俺のことはギルドに居る奴ならわかる筈だが」
俺はこのギルドにポーションを卸しているし、少し前にはここの練習場でBランクの同年代達を相手に蹂躙もした。ギルド側でも俺の実力というのは正確で無いにしろ把握されている筈なんだ。
だからそう言って、酒場も兼任している後ろの席で昼間から呑んだ暮れているオッサン共へと視線を向ける。
面白そうにニヤニヤしてやがるよく見る顔達は一様に「あの新人を泣かすに酒一杯」「むしろ泣かされるに酒のツマミ1品」「じゃあ俺は狂人が呆れてまたギルドに無理難題言ってあの新人を黙らせるに酒一杯とツマミ1品」など、賭けを始める始末だった。
狂人というのは、成人済みの先輩冒険者達の間で呼ばれている俺の二つ名みたいなヤツだ。狂人なんて、なんて不名誉な二つ名だと聞いた瞬間は思ったが、実際に行っていることを思えば外野からはそう見えても仕方ないと諦めたことはいつまでも記憶に新しい。
内心「呆れるのはお前達のその馬鹿さと強かさだ」と思いつつ、当てにならないことを悟って目の前の如何にも真面目で不正とか大嫌いそうで頭の固そうな新人女受付の対処を考える。
後ろの馬鹿達の賭けの内容通り、1番手っ取り早いのはこの受付以外のギルド職員を呼んでもらうか見つけることだ。
しかしなんだかんだと理由を捏ねてこの受付は納得しなさそうだ。
別にいちいちこの受付から納得を得る必要は無いが、経験上この手の輩は勝手に因縁を付けてきて永遠と付き纏ってくるイメージが有る。
なんと言ったか。そう、ウィリアム・パリスもこれに当て嵌まるだろう。
この手の輩は付き纏われると物凄くめんどくさい。
意味も内容も無いのにいちいち絡んで来て怒って来やがって酷くめんどくさい。
だから納得させないとならない訳だが、正論や事実を述べるだけでも納得しなければ突っ掛かって来るのがこの手の輩だ。
既にこの受付に声を掛けたことを内心公開しているその時だった。
「あれ、サース君?実家に帰ったんじゃないんですか?」
聞き覚えの有る、少し顔を合わせるのが申し訳なく思う相手の声が聞こえた。




