急用
「サースゥ……、君さぁ……」
「いや、元々最後のヤツが付く予定は無かったんだよ。本当にたまたま付いたんだ。だからこればっかりは本当にただの偶然だ」
「……サース。君の産み出したその指輪は、ハッキリ言ってセスフンボスとはまた違った方面で、でもセスフンボス以上に危険な物になった。これは言わなくてもわかるね?」
「まぁ、な」
「それは言わば空間を支配している1つの世界か或いは神と言っても差し支えない性能だ。
本来物であるのなら何かしらの制限が掛かる筈なんだよ。強力な物であるのなら尚更さ。なのにそれには制限が無い。制限無く無限に続く亜空間とこの世界の境界を無視して好き放題出来る代物になってしまった。
極めつけは最後のだ。なんなんだいアレは?何でも有りにも程が有る。もしも俺がサースの友達ではなく、サース・ハザードは危険な存在だと判断したなら容赦なく殺してたよ」
「…………練習と、クソ野郎との戦いの時にしか使わないでおく」
「是非ともそうしてくれ。そしてその戦いに完全に決着がついたのならそれも没収だ。
君は人間だ、いずれ死ぬ。いずれ死ぬ者の手元にそんな危険物が有ることを流石に我々サイドは感化出来ない。
だから君が勝とうが敗けようが総帝君との決着の戦いの後には絶対にそれを没収する。
ヘタに破壊出来ないのが質が悪いし、何よりソレ、俺は鑑定出来ないんだけど?」
最後の言葉は、流石に眉間に皺が寄った。
先に言ったことと矛盾している部分が有るからだ。
「鑑定で知った訳でもないのに、なんでこれの収納容量や副次効果まで把握出来てるんだよ」
「君から聞いた話と、元々のペンダントの能力、それに素材となった駄竜とリチャード君に纏わる話を思えば自ずと推測出来るさ。
あ、いや、そうか。だから最後のは……。となると彼女は……。
急用が出来た。悪いけどサースにはしばらく人界で過ごしてもらうことになった。
君の今の強さを思えば七大罪達やリチャード君に相手してもらうのが1番なんだけど、流石に俺が近くに居ないのに魔界に君を置き去りにすることは出来ない。
だからしばらくは人界で過ごしてくれ」
「これをあげよう」。捲し立てるように、急に一人言を漏らしたかと思うと、魔王の手元に突然コンパスが現れ、それを俺に渡して来た。
しかしその針は長針と短針の2つ有り、長身は正面を北とした時の西北西方向、短針は南南西方向を指し示していた。
「それはサースが未発見のダンジョンが何処に在るかを指し示してくれるコンパスだ。
長針の方が1番近くて、短針はその次に近いダンジョンの位置を教えてくれる。
それを使って、俺が帰って来るまでの間、色々創るなり己を鍛えるなりしていてくれ。
あぁ、もちろんセスフンボスは回収していく。これ以上俺の監視下以外で使われる訳にはいかないからね。
それと、どれだけ遅くとも君の長期休暇が終わる3日前までには帰ってくる。それまでに帰って来れたらその後は君が望むだけ相手をしよう。
それじゃあ頑張ってね」
言いたい事だけ言って魔王は転移で何処かへと消えた。
手元には『宝物庫』といつもの装備と今受け取ったコンパスだけが残った。
「……一先ず補給するか」
取り敢えず一段落したため、足りなくなった鉄やポーションなんかを作ったり補充することにする。
そのため、まずはサクラ共和国その首都へと転移することにした。




