修羅
「アンタは身近な奴から褒められたことは有るか?
俺はそんな経験、この目的が生まれる前から最近まで無かった。
アンタは誰かから認められたことは有るか?
俺はそんな経験、魔王と出会うまでただの1度も無かった。
アンタは何かを恨んだことは有るか?
俺のこれまでの人生は復讐の炎を燃やすしかなかった。
アンタは手柄を取られたことは有るか?
俺の魔王と出会うまでの人生はそれしかなかった。
アンタは自分が、例えば剣の腕がなかなか上がらないと感じてる隣で、遊び半分で自分より結果を出されたことは有るか?
俺の幼少期はそれしかなかった。
アンタは理不尽に権力でやりたい放題された経験は有るか?
俺の魔王と出会うまでの人生は、それしかなかった。
要するに、だ。俺は復讐したいんだよ。例え自分の命がその果てに尽きようと、その目的の為に走る事しか出来ないんだよ。それを成すまで、例え死んでも止まれないんだよ。
俺を散々見下して来た、親に。周りの同年代に。周りの大人達に。俺と関わった権力者達に。そんな社会に。そんな世界に。
それが理由だ」
「…………俺の世界には"鬼"という言葉が有る。わかりやすく言えばオーガ種の近類だと思ってくれれば良い。
この鬼とは、別名修羅とも呼ばれる。修羅とは果ての無い闘いや激しい感情を顕にした者や、それ故に魔に堕ち魔物なんかに成る者のことを言う。
お前は修羅だ。俺の世界にも修羅は確かに居た。しかしお前ほど常軌は逸してなかった。
お前のソレはもはや怨念や死霊のソレに近い。そんなのではいずれ本当に死に魔物と化すぞ」
「……そうか。忠告は有り難く受け取る。その上で俺はそのシュラとしてその路の果てを目指そう」
話すことは終わりだと、そこでスケルトンから視線を外して魔王を見る。
カオは相変わらずニヤニヤとしたものだ。
しかしその目は何処か寂しそうで、前後の話で何故魔王の目がそうなっているのかは俺が原因であろうことが容易にわかった。
だがこれは前々から言っていた事だ。
魔王と出会い、これまで我武者羅に足掻いていたことが具体的になり、効率的になり、確か成果を日々実感している。だからか心の余裕が出来、クソ野郎との決着のその先も思い描くことがしばしば増えた。
しかしそれはそれだけのこと。俺はもう止まれない。
クソ野郎をぶっ潰す為に必要なのであれば、喜んで指だろうが腕だろうが切り落とそう。
そしてそれを糧に、より強力な武器でも産み出しクソ野郎との戦いに備えよう。
魔王は瞬き1つし、先程の目を口許に合わせたものへと直すと、「じゃあ行こうか」とだけ言って、俺毎転移を発動させた。




